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短大氷河期サバイバル~青山学院女子短大募集停止でどうなる?

石渡嶺司大学ジャーナリスト
大分県立芸術文化短期大学情報コミュニケーション学科の「仕事力実践特講」

青学・立教の伝統校が短大募集停止を発表

2017年7月25日、青山学院女子短期大学、通称「青短」が募集停止を発表しました。それより前には立教女学院短期大学も募集停止を発表。

青山学院女子短期大学サイト
青山学院女子短期大学サイト

募集停止と言えば、大学業界では定員割れ大学や法科大学院などでは珍しくありません。

しかし、都心の一等地にあり、バブル期には4年制大学と同じく難関の扱いでした。

それがどうして募集停止か、と大きなニュースになっています。

このニュース、一番丁寧に伝えているのが、毎日新聞(7月24日18:51配信)でした。

<青山学院女子短期大>「青短」19年度以降の募集停止

青山学院女子短期大学(東京都渋谷区)は24日、来春の入学生を最後とし、2019年度以降の学生の募集を停止すると発表した。20日の理事会で決定した。同校の担当者は「少子化や受験生の4年制大学志向が強まった社会背景を考慮した」と説明した。

(中略)

志願者数は90年度入試がピークで8535人。その後は徐々に減少し、17年度は1930人だった。定員割れは一度もなかったという。

「定員割れは一度もなかった」と付け加えるあたり、「なぜ、あの青短が募集停止なのか」との記者の驚きを示しているようです。

あの人気漫画にも描かれた短大

 おそらく、ですが、この記者を含めた多くの人が、ブランド校の短大については、

「女子が多い」

「都心のブランド校はちゃんと受験生が集まっているはず」

 というイメージが強かったはずです。

このイメージを忠実に再現したのが1986年連載開始の『YAWARA!』(完全版全20巻、浦沢直樹、小学館)です。柔道ブームの火付け役となった同作に短大が登場します。

 主人公は祖父が勧めた4年制大学(西海大学)ではなく、おしゃれな校風で有名な短大(三葉女子短大)を一般入試で受験、合格して入学します。

 完全版4巻には、模擬試験を受けて成績が悪かったシーン(第6話)、他の受験生に交じって教室に入っていくシーン(第15話)などが掲載されています。

 後者については、主人公の受験番号は808番。大学職員が受験生を誘導し、ぞろぞろと入っていくシーンがあります。類推するに、一般入試の受験者だけで最低800人いることを示しています。

「受験者800人の短大なんて雲の上」

先ほど「一般入試の受験者だけで最低800人いる」と書きました。この一文に、多くの一般読者の方は意味が分からず、少数の短大関係者は天を仰いだに違いありません。

この落差は何か、データを一つ、示しましょう。

1994年度入試で、一般入試のみの受験者数が800人を超えた短大について『合格対策にズバリ役立つ 学研版95年度用 短大受験案内』(学習研究社、1994年)から集計すると、150校ありました(国公立13校を含む)。

 東京・大阪に集中していますが、北海道から沖縄まで万遍なくあります。

 それが2016年度入試(データ元は旺文社の『2017年受験用 全国短大受験ガイド』)では何校か。推薦入試を合わせた受験者数でも、800人を超える短大はわずか7校。

 そのうちの1校が青山学院女子短大であり、もっと言えば、1691人は短大の受験者数としては最多。

 いうなればトップ校が募集停止を決めたわけです。

 ここまで受験者が落ち込んだ現状を理解していないからこそ、

「なんで、あの青短が」

 と、衝撃を受ける方が多いのでしょう。

大学よりも数が多かった短大

さて、ここで短大の歴史をおさらいします。

1948年の学校教育法施行で、新制4年制大学とともに短大も誕生します。

当初、149校だった短大は1953年には228校と大学(226校)を逆転。以降、1997年まで校数は短大がリードします。

 学生も1955年には女子54%・男子46%と男子学生も半数はいましたが、1965年には女子74.8%、1975年には女子86.2%、1985年は女子89.8%と女子高生の進学先として定着、現在に至っています。

 1994年の受験ガイドブックにはこうあります。

短期大学では、2年ないし3年という短い修業期間で、より実際的な専門教育を受けることができます。このことが、高学歴社会を背景として、とくに女子高校生にとって、4年制大学と比べて身近な存在として受けとめられ、「就職に有利」という形で評価を定着させたようです。

※『94年受験用 女子高校生のための全国主要短大受験案内』(一ツ橋書店編集部・編、一ツ橋書店)まえがき

1990年代後半~2000年代から短大、逆風に

バブル崩壊後、就職氷河期を迎えても、しばらくの間、短大は評価されます。4年制大学の女子学生よりも2年早く卒業することもあり、就業年数の長さが評価されたのです。

 厚生労働省の人口動態統計特殊報告(2016年)によると、1985年時点での女性の初婚年齢は25.5歳、1995年は26.3歳。当時は結婚後、退職するのが主流でした。なるほど、短大卒が企業から歓迎されるのも無理ありません。企業からすれば、新入社員への教育投資のリターンを取るために、長く働いてもらうことを期待するわけですし。

ただ、この就職状況の優位性は長く続きませんでした。バブル絶頂期の1990年、88.1%と過去最高を記録した就職率(文部科学省・学校基本調査/文部科学省の正式な呼称は「卒業者に占める就職者の割合」)は1992年にも86.8%と高止まりしていました。4年制大学・女子の就職率は80.4%。6.2ポイント差なので4大卒より優位だったと言えます。

 この優位さが1990年代後半、失われていきます。

 1994年に70.7%(4年制女子は67.6%)、1999年に60.5%(同59.8%)と下落。合わせて、4年制女子とのポイント差は1998年以降、4ポイント差以内、年によっては4年制女子の方が上、となっています。

 ほぼ同じ時期、学校数・在籍学生数・進学率でも短大は4年制大学に負け、差が出るようになっていきました。

 学校数で短期大学は1996年、598校となり、過去最高となりました。一方、大学も増加。1998年、大学数は604校、短大は588校。短大側の連勝記録は45で止まります。以降、減少し続け、2016年には大学777校、短大341校とダブルスコアがついてしまいました。

 在籍学生数は1993年の53万人をピークに減少の一途へ。1999年に40万人割れ(37.7万人)、2007年に20万人割れ(18.6万人)となり、2016年データでは12.8万人でピーク時の3割未満です。

 進学率(浪人生含む)も女子だけだと1955年以降、ずっと短大進学率が大学(4年制大学のみ)進学率を上回っていました。

 それが1996年、短大進学率24.6%、大学進学率23.7%で短大側の連勝記録は41でストップ。

 以降、4年制大学の進学率が上がる一方、短大進学率は下落の一途に。2016年では4年制大学48.2%、短大8.9%と4年制大学の圧勝です。

※男女合わせると、2016年では4年制大学52.0%、短大4.9%。

 このように、学校数、在籍学生数、進学率、いずれでも短大は1990年代後半から4年制大学に後れを取ることになってしまいました。

定員割れ相次ぐ短大

 さらに深刻なのが定員割れです。

 日本私立学校振興・共済事業団の「平成28(2016)年度 私立大学・短期大学等入学志願動向」は、定員割れ状況を示す資料として関係者の間では有名です。

 2016年度は調査577校中、257校(44.5%)が定員割れ。

「44.5%の大学が定員割れ、要するにFランク大学です。就職もままならず、お先真っ暗。学費がかかるくらいなら、大学以外の進路選択をするべきです」

 という主張をするのに役立つデータです(石渡が主張するものではありません)。

 さて、このデータ、短大も定員割れ状況を出しています。

 2016年度は調査311校中、定員充足率100%以上の短大は103校。残りの208校(66.9%)は定員割れ状況です。

 4年制大学(私立)の44.5%より短大は66.9%ともっとひどい定員割れ状況にあります。

2016年度、全体の入学定員充足率は4年制大学が104.42%(推薦割合45.32%)、短大は90.07%(同72.61%)。志願者数は4年制大学が362.9万人、短大は8.3万人。

1989年度は4年制大学が124.75%(推薦割合29.83%)、短大は134.41%(同47.54%)。志願者数は4年制大学が350.8万人、短大は69.2万人でした。

 よく「大学冬の時代」などと言いますが、4年制大学は1989年度と2016年度で比較すると、志願者は12.1万人増加しています。

 短大は69.2万人だった志願者が2016年度には8.3万人と激減しています。

 短大の方が冬、いや、氷河期にあると言っていいでしょう。

驚愕の短大受験者データ

 では、受験者数・倍率が1994年度と2013年度、2016年度でどのように変わったか、募集停止2校と公立短大、私立短大の一部、計44校についてみていきます。公立短大はすべて、私立短大は2016年度の受験倍率が1.4倍以上の短大を私の方で選択しました。データは2013年・2016年が旺文社『蛍雪時代臨時増刊 全国短大受験ガイド』、1994年は『合格対策にズバリ役立つ 学研版95年度用 短大受験案内』(学習研究社、1994年)です。

注:「-」は該当データなし(または非公表)、1994年の受験者数・倍率は一般入試のみ。2013年・2016年は推薦入試等も含みます。

一部短大は受検者数ではなく志願者数となっています。

短大の受験者数・倍率の変遷1
短大の受験者数・倍率の変遷1

※募集停止2校と公立短大(長野~鹿児島)

短大の受験者数・倍率の変遷2
短大の受験者数・倍率の変遷2

※公立短大(山梨~岩手)と私立短大(北海道~千葉)

短大の受験者数・倍率の変遷3
短大の受験者数・倍率の変遷3

※私立短大(東京~神奈川)

短大の受験者数・倍率の変遷4
短大の受験者数・倍率の変遷4

※私立短大(愛知~広島)

この表を見て、

「2016年度の倍率が2倍を切っている短大がある。これはよほど受験生集めに苦戦しているのでは?」

 と、考えた方もいるでしょう。

 実はそうではありません。4年制大学のガイドと違い、短大の受験者数データは読む方が痛々しくなるほど、低倍率の短大ばかりです。その大半が1.0倍ないし非公表であり、1.4倍以上の短大はまだ集まっている方なのです。

どうして短大は減ったのか

短大の受験者・校数はなぜ、ここまで減ったのでしょうか。それは諸説あります。

・女子(というより親)の4年制志向

・都市部の企業の4年制志向(一般職含む)

・教養のわかりにくさ・文系批判のダメージ

・保育、医療・看護などの分野でも4年制に移行

・看護はもともと3年制で4年制大学と差がない

・4年制大学の合格実績を伸ばしたい高校教員が短大を敬遠するようになった

どれか1つが決め手、というよりも、複数の理由が合わさっていった、というところが正しいのではないでしょうか。

追い込まれ型でなく損切り型の青学は影響大?

大学などが募集停止をする背景は受験生が集まらず赤字が増えすぎてからの追い込まれ型、まだ黒字水域にあっても早めに撤退を決める損切り型に分かれます。

今回の青山学院女子短期大学の場合は損切り型でしょう。一度、募集定員を減らしたとは言え、受験者数が1900人超え、まだまだやれるはず。そう考える短大関係者も多かったに違いありません

 ちなみに大学業界で募集停止は大半が追い込まれ型。

損切り型に踏み切れる大学は少なく、プロ野球・楽天のエース、則本の母校、三重中京大学(2013年、閉校)などが該当します。

損切りに早めに動いた、というだけでなく、都市部の定員増加抑制の影響があることも予想されます。

短大進学にもメリットあり

 ここまで暗いデータばかり出てしまいました。

 が、私は短大進学にもメリットが3点あることを指摘しておきます。

 一番、大きな点は学費です。4年制大学に比べて半額で済むのは大きいです。

 2点目は方向転換の自由さです。ひとまず入って、卒業後に就職するのもありだし、もう少し勉強したい、ということであれば4年制大学への編入も可能です。結果として最初から4年制大学に入るよりも学費を抑制できた、という学生もいます。

 3点目が少人数教育です。人気が落ちている、ということもありますが、4年制大学以上の少人数教育で、学生と教員の距離が近い、という点は見逃せません。

学力不足でも短大がフォロー

中俣保志・香川短期大学教授は、同校だけでなく短大全般の傾向として、学力に不安ある高校生をフォローしやすい点もメリット、と指摘します。

香川短期大学サイト
香川短期大学サイト

「短大には、四年制大学での学習や「学力」に不安をかかえて進学してきた学生さんもいらっしゃいます。そのような方が一番戸惑うのが、一般教養科目などの大人数で行う授業です。現在の学生さんは、高校よりもかなり大教室で行う大人数授業では戸惑う方が多いようで、この不安に関しては短大だと、高校の学級と同じ規模での受講空間自体が親しみやすいという声を聞いたことがあります。それから、短大だと個別指導のクラス担任やチューターとの距離も近くなり、かなりきめ細やかな対応になる場合があります」

 短大だけでなく大学でも盛んになっているインターンシップも、距離の近さが短大の武器、と中俣教授は指摘します。

「期間の限られたインターンシップでは、事前事後の教育での学生さんへのフォローと通常業務の中で受け入れている勤務先とのとの信頼関係が大きなポイントとなります。少人数教育になることで大学側での事前事後教育、受入れ先での学生数の『適正』化など、積極的に展開する可能性もあります。学生数の減少の中、短大も含め高等教育機関の経営面や教育面・質的保障など体質改善の課題はまだまだありますが、意図しない少人数化でも目の前の学生さんを前に積極的な面を活かしていく取り組みも必要であると感じます」

地方ではむしろニーズが高い?

大分県立芸術文化短期大学情報コミュニケーション学科で「仕事力実践特講」を担当する北尾洋二・講師は、選択肢の広さが魅力と訴えます。

北尾講師の「仕事力実践講義」では講義中にツイッターを利用。スマホ禁止ならぬスマホ推奨
北尾講師の「仕事力実践講義」では講義中にツイッターを利用。スマホ禁止ならぬスマホ推奨

「経済的な負担も地元出身者であれば、授業料の減免制度(全額または半額の学費免除等)もあります。短大2年間の実学を経て就職できることに加え、四年制大学等への編入学という選択の幅広さを含め、そのメリットは大きいと言えるでしょう」

さらに北尾講師は、都市部と地方での短大へのニーズが違う、とも指摘します。

「一連の社会的な流れとは逆になりますが、短期大学の存在意義というのは、年々高まっているように感じます。全国的に見れば、ある意味での淘汰なのでしょう。しかし、今回の『青短』のような都市部ではなく、地方であれば、短大へのニーズは十分にあります。特に地方では、高度経済成長期に設立された短大は、地元における評判も上々で、それは就職においても安定感を発揮します。問題なのは、短期大学の強みであったり、四年制大学との違い・良さ・環境などを、上手く具体的に伝えきれていないことです」

セーフティネットとしての短大の整備を

 今後、短大はどうなるでしょうか。

 都市部においては、残念ながら、今後も縮小傾向が続くでしょう。先ほど掲載した受験者数・倍率の変遷表には、有名な短大がかなり落ちています。その大半が受験生集めに苦しんでいます。

 ブランド校だった青短が募集停止ならうちも、とのドミノ現象になる可能性もあります。

この短大の縮小が続くと、家計が厳しい高校生は進学先が限定されてしまいます。

進路選択を多様化する、という点でも、家計が厳しい高校生に対するセーフティネットとしての観点からも、短大の復権を考えるべきです。特に地方において、私立短大のてこ入れ、またはいっそのこと、地方での国公立短大の新設を進めれば、それこそ地方創生につながるのではないでしょうか。

短大は現在、氷河期の真っただ中です。その厚い氷が解け、豊穣の大地が広がることを切に願う次第です。(石渡嶺司)

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

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