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迷惑行為SNS拡散に企業はどう対応すべき?スシローの「寿司テロ」対応見解書から学ぶ

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:西村尚己/アフロ)

 今年に入り、飲食店での迷惑行為がSNSで動画として拡散される事件が頻発しています。3月8日には回転ずし店内で醤油さしに直接口をつけるなどの行為を動画撮影してSNSに投稿した男女3名の若者が店の営業を妨害した容疑で逮捕されました。回転ずしチェーン店が集中的に狙われたことから「寿司テロ」とも命名され、社会問題化しました。これらの一連の迷惑行為に対していち早く公式見解を出したのは、株式会社あきんどスシロー(以下、スシロー)。タイムリーな発信には企業としてのクライシスコミュニケーション(危機発生時の説明)力が表れています。

「寿司テロ」に毅然とした態度は正解?

 スシローは、店内での迷惑行為について4回見解書を発表しています。1月30日の見解書は、29日にネットで拡散された動画に対して。素早い対応でした。拡散されたのは、金髪の若い男性が、備え付けの醤油ボトルの注ぎ口や未使用の湯のみをなめる、レーン上のお寿司に自分の唾液を塗りたくるといった不衛生な動画です。

「このような行為は、お客さまへ安全・安全な「おすし」を提供する上で、お客さまとの信頼関係を損なう重要な事案であると重く受け止めており、日頃スシローの店舗をご利いただいているお客さまがこのような動画をご覧になることで不快な思いをなさってしまうことは大変遺憾であります。 本件につきましては、スシローの全店において、当該事象発生の有無、発生していた場合その時期、被害に遭ったお店の特定などの調査を進めており、対象となりうる店舗では消毒などを進め、また、早急に警察と相談させていただきながら刑事民事の両面から厳正に対処してまいります。(1月30日スシロー見解書)」

 企業リスクの分類にはさまざまな方法がありますが、クライシスコミュニケーションの観点からすると、企業の過失による危機は謝罪、災害など社会全体の危機にはお見舞いや温かい言葉、そしてテロなど外からの攻撃に対しては毅然としたメッセージで二次被害を防止するという役割があります。その意味で、謝罪ではなく、残念を意味する「遺憾」を使い、「警察」「刑事民事」「厳正に対処」という言葉で毅然としたメッセージになっている点はダメージコントロールになっています。

 二日後の2月1日には、迷惑行為がなされた「対象店舗」「現在の状況」「防止策」で構成された見解書を発表。警察に被害届を出したこと、迷惑行為を行った当事者と保護者から謝罪を受けたが、「引き続き、刑事、民事の両面から厳正に対処」と、厳しい態度を変更していません。高校生であれば謝罪を受け入れて許せばいいのでは、警察に届け出るなど大げさだ、といった意見がありますが、未成年者であるからこそ、二度とさせないために簡単に許してはいけない行為です。いじめと同じで放置すれば行為は過激化し、真似をする人が出てきて被害は拡大してしまいます。経済活動においてもあらゆる外食産業に影響を与えます。実際、スシローを運営するFOOD & LIFE COMPANIES の株価は2月1日急落し、1日で時価総額168億円が吹っ飛んでしまうという経営上の大きな打撃となりました。

■動画解説「リスクマネジメント・ジャーナル」(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会)

自社以外でも守る発信は高評価

 かといって、「テロ」と言えるほど、計画性があるかというと、株価操作の疑惑もありますが、今のところは軽率ないたずら行為と思われます。加害者は、反省して償う、行動を改めることは求められますが、社会生活ができなくなるほどの罰があってはならないし、学びの機会が奪われてはなりません。失敗から学習して成長する機会はあってしかるべき。しかしながら、その後、高校生が通う高校にクレームが殺到し、高校生も学校を退学せざるを得なくなりました。これらの過剰なクレームに対して、スシローは2月10日、3回目の見解書を出しました。

「迷惑行為につきまして、たくさんのご支援や応援のメッセージをいただきましてありがとうございます。 ・・・・当社としましては、健全にご利用いただいているお客さまにご迷惑がかかる行為や、食の安全と安心を脅かす行為につきましては、今後も絶対にあってはならないと捉えており、刑事・民事の両面から毅然とした対応を行って参ります。 従いまして、既に発覚している一連の事象に関係する方々への直接的な危害となるような言動は控えていただくよう伏してお願い申し上げます。(2月10日スシロー見解書)」

 スシローのファンによる迷惑行為への怒りが、高校生や学校を攻撃し、「直接的な危害」を発生させていることに危機感を抱いて発信された見解書であることがわかります。自社を守るだけではなく、当事者である高校生を守る公式見解書を発信する判断をしたことは評価に値します。優れたクライシスコミュニケーションです。

 これで収束に向かうかと思ったところ、今度は店内卓上のアルコールスプレーを回転している寿司に吹きかけるという迷惑行為の動画が拡散されました。スシローは、2月24日に再び見解書を発表しています。店舗名と場所、警察に相談していること、行為者から連絡を受けていること、卓上のアルコールは撤去していること、アルコールは食品添加物にも使用されていること等が記載されています。ここでも「警察と相談させていただきながら刑事民事の両面から厳正に対処してまいります。」と同様の毅然とした態度を変えず一貫したメッセージになっています。しかし、この見解書で1点残念だったことがあります。「アルコール(内容物)につきましては、食品添加物にも使用されているものです」の説明のみで成分が書かれていない点。アルコールという言葉だけでは、危険度が高い印象が残りますので、成分まで記載されていた方が説得力があったのではないでしょうか。

 企業だけでなく、親も警察も若者の軽率な迷惑行為とSNS拡散に対しては、簡単に許すのではなく、厳しい姿勢、態度で対応することが将来の犯罪防止につながります。その他、株価操作の懸念、新たないじめ手法への利用への懸念もあります。さまざまなことを想定しながら、ネット世論・行動に目を配りつつ、メッセージをタイムリーかつ的確な言葉で発信して自社の評判、株価を守る体制構築はしていく必要があります。

<参考サイト>

株式会社あきんどスシロー ニュース一覧

https://www.akindo-sushiro.co.jp/news/

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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