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山猫総合研究所 三浦瑠麗氏の大炎上はなぜ? 信頼・評判の表現5要素から考察する

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 人を評価する際に「信頼できる人」「信頼できない人」といった言葉を私たちは使いますが、具体的にはどういうことでしょうか。さっと思いつくのは、「嘘をつかない」「すぐ対応する」「温かく思いやりがある」といったことでしょうか。信頼の研究では山岸俊男氏が有名ですが、表現という観点からするとチャールズ・J・フォンブランらのレピュテーション研究がわかりやすい。彼らは信頼・高評判獲得のためには表現力5要素が必要だとしています。

信頼される表現力5要素とは

 フォンブランらがまとめた表現力5要素とは、「顕示性」「独自性」「真実性」「一貫性」「透明性」。私は学者ではないので広報の現場で使えるようにわかりやすく言い換えています。「顕示性」とは、言葉遣いがシンプルでわかりやすいこと、印象に残りアピール力があること。キャッチコピーのような表現といえばいいでしょうか。目立ち力ともいえます。「独自性」とは、他の人と同じ意見ではなく、新しい視点を提示していること。「真実性」は、そのままで、嘘をついていないこと。「一貫性」は、言っていることに論理性があり、説得力があること、二転三転しないこと。また、言葉と見え方も一致していること。例えば、厳粛な場所で肌を極端に出してその場にふさわしくない服を着用しないなども含まれます。言葉と外見が一致していないと一致した印象が形成できず、相手を混乱させるとした研究結果(アーヴィング・ゴフマン)もあります。「透明性」は、タイミングよくスピーディーに対応していること、待たせる場合であっても理由やプロセスを説明していること。こうして意味を深めるとよくできています。さすがに1万人のデータから導き出しただけのことはあります。広報に携わる者として平時・緊急時でも役立つ要素なので大切に活用しています。

 では、ここから山猫総合研究所代表で国際政治学者の三浦瑠麗さんの炎上問題を取り上げながら考えます。瑠麗さんについては過去においても、プチ炎上はしばしばあり、最近であれば、昨年の安倍元総理の国葬に着用したスケスケ喪服が批判されました。今回は夫の会社に東京地検特捜部の家宅捜索が入ったことがきっかけですからこれまでとはレベルが異なります。本人ではないのに瑠麗さんが攻撃されてしまっていることに違和感を持った人や気の毒に思った人、明日は我が身と身につまされる人もいたかもしれません。しかし、ここはよく注意してみる必要があります。

第一報で失敗しないために

 1月20日、山猫総合研究所のプレスリリースとして掲載された内容は下記です。

今般、私の夫である三浦清志の会社が東京地方検察庁による捜索を受けたという一部報道は事実です。私としてはまったく夫の会社経営には関与しておらず、一切知り得ないことではございますが、捜査に全面的に協力する所存です。また、家族としましては、夫を支えながら推移を見守りたいと思います。

 夫、清志さんの会社(TRIBAY CAPITAL株式会社:本社は東京都千代田区、以下、トライベイキャピタル)と自宅に特捜部の家宅捜索が入ったのが1月19日。太陽光発電事業への出資を名目におよそ10億円をだまし取った疑いで刑事告発されました。これに対し、翌日にプレスリリースを出しているのは迅速な対応で好感が持てます。しかも個人のツイッターではなく、法人である山猫総合研究所のプレスリリースとしている点も事態を重く見ていることになり、よい判断だったと思います。

 ただ、このプレスリリースで「一切関与していません」と余計な一言を書いてしまったことが、信頼失墜の引き金になってしまいました。家宅捜索の「事実」と協力しますの「方針」のみに留めておくべきでした。「一切関与していません」などというコメントが新たなリスクを生じさせています。そこをついてきたのが1月24日の東京新聞。記事の見出しは、

三浦瑠麗氏の「夫の会社とは無関係」は通用する?成長戦略会議では太陽光発電推しの発言をしていたが・・・

 として、議事録の言葉を紹介。利益相反を指摘しました。

 続いて、1月26日にアゴラでは、2018年の3月に放映された「朝まで生テレビ」の動画の切抜きをそのまま掲載。太陽光発電についての議論の中で「うちは事業者ですから、いくらかかるか、何にかかるのかもわかってるんですよ」と瑠麗さんが勢いよく言い切る声が響きます。

 こうなると信頼失墜は決定的。裁判でのやりとりならまだしもネットという誰もが見られる場所で公にされてしまったことのダメージは大きい。せっかく迅速に出したプレスリリースが台無しになってしまいました。危機管理広報(クライシスコミュニケーション)における第一報の失敗です。

 一方、清志さんの会社には何のプレスリリースも見当たりません。ここにざらっとした違和感を持ちました。山猫総合研究所、あるいは瑠麗さんの社会的ダメージの方がより強かったための対応の差なのでしょうか。山猫総合研究所、ないしは瑠麗さんは、トライベイキャピタルの宣伝、広報、信頼の表の顔として位置づけられていたということなのだろうかと。それが故の迅速な山猫総合研究所からのプレスリリースだったのではないか。

 では、山猫総合研究所とは何なのか。公式サイトによると

株式会社山猫総合研究所は2015年に設立、以来シンクタンク、コンサルティングサービスを提供する会社として活動してまいりました。平和のための課題に加え、内外の政治経済・社会問題の調査分析や政策提言を行っているほか、社会的な啓蒙活動を使命としております。

 

 したがって、マスメディアに出て啓蒙活動することは会社としての使命といえます。過去の調査レポートをみると、日本人価値観調査や新型コロナウィルスに関する意識調査を実施しています。日本人の価値観調査は、世帯年収の増減といった生活実態、選挙における投票行動、日米同盟や憲法9条といった外交・安全保障への考え方、消費税や法人税、国債といった経済問題への課題認識、夫婦別姓や同性婚といった社会問題への意識、支持政党と意識のクロス集計、女性問題に関する価値観、台湾有事で日本は軍事支援をすべきか否かといった時事問題など幅広い分野で調査分析をしていました。本音と建前の分類や各政治家の評価といったユニークな視点もあります。政治家の評価項目が一般的な「信頼できる」「クリーンだ」「実行力がある」「人望がある」「責任感がある」「安定感がある」だけではなく、「我慢強い」「頭がキレる」「カリスマがある」「発信力がある」「自分達の気持ちをわかってくれる」「和を尊ぶ」「頑張っている」と13項目もあり、何をベースとしているのか興味が湧きます。

 世論調査として信頼性があるかどうかというと、山猫総合研究所の歴史が浅いため、見劣りはしてしまいますが、これだけ幅広い意識調査をしていれば、統計結果を元に彼女独自の論を展開することはできます。さまざまな討論で「事業者」としての意見ではなく、「当研究所の調査によると*1 」として発言することはできたはず。それをしなかったのは、腰を据えて調査研究をしていなかったからではないか、と見えてしまいます。

 瑠麗さんは、目立ち方に「顕示性」「独自性」があり、対応もスピーディーで「透明性」もあったのですが、「真実性」「一貫性」が欠如していたようです。シンクタンクの代表、学者らしくデータを引用して数字で説明する習慣を身につけること。服装はスケスケが好きであっても、せめてジャケットを着て場所やテーマに応じて着こなす戦略性を身につければ、信頼・評判の構築につながるのではないでしょうか。

*1

山猫総合研究所「日本人価値観調査2022」によると、エネルギー政策については「原発は当面維持すべきか」の質問のみであること、2019年から2022年では「そう思う」が38.4%から36.2%と若干減っている程度であることから、これだけで太陽光発電を推進する説得材料にはならないが、事業者として発言するよりはよほどまし。リスク回避になる。

<動画解説>リスクマネジメント・ジャーナル(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会)

<参考サイト>

三浦瑠麗氏の「夫の会社とは無関係」は通用する?成長戦略会議では太陽光発電推しの発言をしていたが・・・(東京新聞 2023年1月24日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/227000

三浦瑠麗氏は成長戦略会議に「事業者」として要望を出していた(アゴラ 2023年1月26日)

https://agora-web.jp/archives/230126024223.html

山猫総合研究所

https://yamaneko.co.jp/

<参考図書>

「コーポレート・レピュテーション」(東洋経済新報社 チャールズ・J・フォンブラン他)

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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