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五輪汚職事件、各社の広報対応はどこがダメだったのか もっと記者会見を活用する発想を

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 問題発生時に記者会見を開催すべきか否か。多くの組織は判断に迷いますが、迷わなくて済むように通常は危機管理広報マニュアルの中に記者会見開催基準を明記します。役員不祥事となると想定マニュアルを作成するのは躊躇する可能性はあります。そこで今回は、昨年発覚した東京五輪を巡るスポンサー契約問題でトップ逮捕が相次いだ事例から考えます。

「みなし公務員」議論不足

 ざっとおさらいをしておきます。東京オリパラ汚職問題とは何か。スポンサー選定を行っていたのは、2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会)。組織委員会の高橋治之(たかはし・はるゆき)元理事が電通OBの立場を利用して複数の企業に便宜を図り謝礼を得ていたとして2022年8月17日に逮捕されました。

 構図としては、高橋容疑者がみずからが経営するコンサルタント会社や知人の会社を通じて、紳士服大手のAOKIホールディングス、出版大手KADOKAWAからスポンサー選定などで便宜を図ったこと、広告会社の大広、ADKホールディングスからもスポンサー契約業務を請け負えるよう便宜を図り謝礼を受け取ったことが罪に問われました。何が問題かというと、高橋容疑者が「みなし公務員」だったこと。

 「みなし公務員」とは、公務員ではないが、職務の内容が公共性を有している場合、刑法の適用について公務員としての扱いを受ける者。組織委員会理事は、「みなし公務員」の立場であるため、職務に関連した金品の授受は違法とされてしまいます。理事は名誉職で報酬がないかというとそんなことはなく、10万から200万までの月額報酬の規定はありました。評議員と監事は無報酬、非常勤理事の報酬規程は見当たらず。*1ただし、高橋元理事が報酬を受け取っていたのかどうかは不明です。

 時事ドットコムニュースでは、「高橋容疑者は、電通への影響力を駆使してスポンサー集めに奔走する一方、無報酬の非常勤理事という立場への不満を周囲に漏らしていた。待遇が功績に見合わないという不満が、収賄の背景にあったとみられる。」(2022年10月21日)と報道しています。

 この記事からは電通からの報酬はあったのかどうかは不明。理事(非常勤?)として報酬はなくても電通からの出向で報酬があれば、コンサルタント料を自分の会社で別途受け取るのは、電通の社内規定にも違反するように思いますが、そこはわかりません。無報酬でも「みなし公務員」になるのか。この点はもっと議論や解説、報道があってもいいのではないでしょうか。そもそも「みなし公務員」といった言葉は馴染みがないですから、ここでしっかり議論をして認識をしなければ同じことが繰り返されてしまいます。

【動画解説】各社が発表した見解書を表示しながら解説しています。(リスクマネジメント・ジャーナルより)

見解書で済ませたいなら詳細を

 本事件でコンサルタント料は賄賂とみなされ、AOKIホールディングスの青木拡憲元会長(2022年8月17日逮捕、2022年6月29日に会長を退任)、KADOKAWAの角川歴彦会長(2022年9月14日逮捕、11月4日会長辞任)、大広の谷口義一執行役員(2022年9月27日逮捕)、ADKホールディングスの植野伸一社長(2022年10月19日逮捕、当日代表取締役社長を退任)と各社経営幹部が相次いで逮捕される事態となりました。

 この中で記者会見を開催しているのは、KADOKAWAのみです。各社の対応を詳しくみていきましょう。

 AOKIホールディングスは、記者会見を開催していませんが、頻繁に情報開示をしています。「7月20日、当社に関する報道について」で、「東京地方検察庁の捜査が行われているとの記事につきましては、当社の発表に基づくものではございません」と報道についての見解を皮切りに、7月27日には元会長が家宅捜索を受けた事実を認める見解、7月28日、会社が家宅捜索を受けた事実を認める見解。

 8月17日は、「当社元役員及び執行役員の逮捕について」、「当社元代表取締役会長青木拡憲、元代表取締役副会長青木寶久及び専務執行役員上田雄久が、贈賄の容疑で東京地方検察庁に逮捕されました」と事実を認める内容。9月6日は「当社元役員及び執行役員の起訴について」。起訴の事実と共に、原因究明並びに今後のコンプライアンス及びガバナンスに関する提言を含めた再発防止策の検討等を目的として、9月5日付で外部の専門家及び当社社外取締役から構成されるガバナンス検証・改革委員会を設置いたしました。」とあり、3名の委員名と略歴を記載。

 ここまではスムーズです。しかし、10月18日発表の「当社元役員らの起訴を受けての当社対応について」には、やや首をかしげました。原因についての記載がないからです。「当社元役員らが、本コンサルティング会社に、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会スポンサーの選定及び公式ライセンス商品の製造・販売等に関して便宜を受ける目的で、金5100万円を供与したとして、そのうち金2800万円に関する贈賄の容疑で、東京地方検察庁に逮捕され、同年9月6日付で起訴されるに至っております」と事実関係の後、「対応」「取り組み」「経営責任」「経営への影響」と続き、原因についての記載がありません。

 唯一、「本コンサルタント契約の締結及び契約更新の際に、本コンサルティング会社の代表者の地位がみなし公務員にあたるかといった確認が不十分であったこと、及び本コンサルティング会社が当社のために提供する役務がコンプライアンス上問題がないかについての確認が不十分であったことを認識」だけです。

 本当に確認不足なのか、法務チェックの体制がわかりませんし、元会長に押し切られたのか疑問が残ります。なぜなら、取り組みの項目に「当社グループ役員や従業員に対する内部通報制度の再度の周知徹底と必要に応じた見直しの実施」とあるからです。問題があると思った人がいたけれど通報できなかった事実があると推測できます。KADOKAWAの場合は、贈賄に該当する可能性があると法務部門から事前に指摘されたが、締結され実行された、と説明していることを考えると「反対できなかった」社内体制が真因ではないかと疑ってしまいます。

 徹底的に見直して出直すのであれば、むしろ記者会見で潔く説明、質問に答えてクリアにした方が会社の信頼回復につながったように見えます。そもそも、10月18日発表であることを考えると、10月5日にKADOKAWAが記者会見を開催したことから、この見解書を出すことにしたように見えます。その意味では、KADOKAWAが記者会見をした意義と影響はあるといえます。さらに、記者会見から3か月後となる1月23日にはガバナンス検証委員会の報告書をKADOKAWAは公表。いち早い対応が好感度を高めています。

 ADKホールディングスの場合は、AOKIホールディングスに比べると情報が少ない。代表取締役社長と元役員等の計3名が贈賄の疑いで逮捕されました事実(10月19日)、社長退任(10月20日)、起訴の事実と独立社外取締役 監査等委員会委員長らによる独立調査委員会設置のお知らせ(11月9日)。委員の経歴の記載がなく、調査委員会はいつまでに調査をするのかも明記されていません。大広に至っては、東京地方検察庁の捜査の事実を認め(9月5日)、逮捕の事実(9月27日)、起訴の事実と社内での調査、原因の究明、再発防止策の策定を目的としたコーポレートガバナンス改革委員会立ち上げ、その検討内容を外部有識者に監査・監督する監査委員会の設置のお知らせ(10月18日)のみ。調査結果や監査結果についての記載は、現時点でもありません。

記者会見をチェック機能として使う発想があってもいい

 では、唯一記者会見をしたKADOKAWAはどうだったか。同じように見解書の発表を時系列でたどってみると、捜査に協力している(9月3日)、顧問と職員逮捕(9月6日)、角川歴彦会長執行役員が逮捕された(9月14日)、役職員の起訴(9月27日)と続き、10月4日は、角川歴彦会長起訴と同時に記者会見の開催のアナウンスを掲載。記者会見開催のアナウンスは通常記者クラブや付き合いのある記者に配信するのですが、ニュースサイトに掲載したこと、生放送視聴ができるURLも案内文に掲載したのは一歩踏み込んだ対応。

 記者会見の開催そのものは、KADOKAWAがニコニコの運営者でメディア側であることを考えると当然すぎて評価に値しないと感じます。メディアたるもの、自社メディアで説明責任を果たさなければ、ニコニコ有料会員視聴者から猛烈な批判を浴びたからです。それよりも記者会見の案内文をネットに掲載したことの方がオープンな姿勢として高く評価したいと思います。説明内容も明確でした。「この支払いは、贈賄行為と評価されうる疑わしい行為であったことには間違いない」「これが贈賄に該当する可能性があると法務部門から事前に指摘されたが、締結され実行されている事実も存在する」「最終的に刑法犯になるかは裁判所が決めることではあるが、コンプライアンス上、コーポレートガバナンス上、極めて問題の大きいものであったと判断する」

 残念だったのは、10月5日の調査報告書は記者のみ配布だったこと。ネットに掲載されたのは、ガバナンス委員会の設置だけでした。その後、11月4日に角川歴彦取締役の辞任が公表されました。これは記者会見で「会長は退任するのに取締役に留まるのは違和感がある。なぜなのか」と詰め寄った記者に「本人からの申し出がなかったから、取締役は総会承認事項だから」とその場では苦しい回答でしたが、その後盲点だったと感じたのではないかと推測できます。

 しかしこれは、記者会見を通じて自分達を客観視できたこと、記者の厳しい指摘、世の中からの見え方によるチェック機能が働いた好例として記憶してよいのだろうと思います。適切な質問が飛び交う記者会見は気持ちがいい。批判する、される場だけではなく、何が問題だったのかを多角的にチェックする場になれば一番安いガバナンス機能になるのではないでしょうか。企業側も恐れることなく、より納得感のある収束にためにも記者会見を活用する発想があってもいいと感じます。

*1 2020東京オリンピック・パラリンピック 組織委員会規定サイト

https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/special/watching/tokyo2020/organising-committee/regulation/

<参考サイト>

AOKIホールディングス ニュース&トピックス

https://ir.aoki-hd.co.jp/ja/news/news.html#2022

KADOKAWA ニュースリリースサイト

https://group.kadokawa.co.jp/information/news_release/

ADKホールディングス ニュースサイト

https://www.adk.jp/news/?genre=&sw=&y=2022

大広 

https://www.daiko.co.jp/daiko-topics/2022

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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