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「いじめ認定」に3年かかった旭川14歳少女凍死 遺族に寄り添わない第三者委員会、問題点は?

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:アフロ)

2021年3月に旭川市の公園で凍死してしまった女子中学生のいじめ事件。第三者委員会が立ちあげられたものの1年以上経った今も報告書が出てこない状態が続いています。今年の5月31日には、遺族から調査の不備を指摘され、第三者委員会が機能していないように見えてしまう。第三者委員会が遅々としているために、遺族を苦しめている。むしろ悪化させているように見えるこの状況を私達は一体どう考えればいいのでしょうか。

学校は初動で判断ミス

学校、教育委員会、第三者委員会いずれも初動での判断ミスがあるように見えます。いじめ事件そのものは今から3年前の2019年4月に遡ります。廣瀬爽彩(ひろせ・さあや)さんが市立中学校入学後まもなく、男女数名からいじめられるようになり、食べ物をおごらせる行為だけではなく、性的画像送付や自慰行為の強制へとエスカレート。一般的にいじめは仲の良い友達の中で起こり、初期段階での食い止めが最も重要です。母親は、4月から学校にいじめについて画像を見せるなどして相談していましたが、学校はいじめ調査や認定をせず放置。6月22日、10人に囲まれ、さあやさんは川に飛び込み自殺を図り、この時は警察も出動する大事件となりました。教頭は「わいせつ画像の拡散に責任は負えない」「単なる悪ふざけ。いたずらの延長」「10人の加害者の未来と一人の被害者の未来、どっちが大切ですか」と発言。いまだにこのような発言をする教員がいることに驚きます。初動で間違えています。学校の責任は重く、明らかに教頭の判断ミス。母親から相談があった時点でいじめを止めていれば、いじめの激化は防げていたはず。

教育委員会はいじめ認定に3年

2019年9月、さあやさんは引っ越しましたがPTSDを発症し、入院通院を繰り返す状態になり、1年半年後の2021年2月13日、氷点下17度の中、家を飛び出して失踪。翌月の3月23日、公園で凍死した状態で発見されました。

いじめ事件として認知されたのは、4月15日の文春オンラインでの報道。これにより、苦情が教育委員会に殺到。4月22日、事実認定のためようやく第三者委員会が立ち上がり、1か月後の5月21日に1回目の「旭川市いじめ防止等対策委員会」(*1)が開催されました。が、調査は遅々として進まず。8月18日、遺族代理人弁護士による記者会見がなされ、遺族の手記が全文公開されました。

第三者委員会が6項目についていじめを認定したのが、翌年2022年3月27日。教育長が遺族に謝罪したのが3月29日。いじめ発生が2019年4月ですから、3年かかっています。あまりに遅い。

2005年に起きた北海道滝川市立小学校6年生女子が7通の遺書を残して教室で自殺した事件でさえ、全国報道されてから、教育委員会がそれまで否定していたいじめを認めるのに1か月とかかりませんでした。今回は報道されていじめを認めるのではなく、報道されてから第三者委員会立ち上げ、いじめ認定に10カ月。第三者委員会が足かせになっているようにさえ見えます。

遺族に寄り添わない第三者委員会

この問題の第三者委員会の正式名称は、旭川市教育委員会のサイトによると「旭川市いじめ防止等対策委員会」。驚いたのは、1回目の「旭川市いじめ防止等対策委員会」議事録(2021年5月21日)。委員4名、諏訪委員,高谷委員,平野委員,宮川委員、事務局4名、黒蕨教育長,品田学校教育部長,辻並教育指導課長,末木教育指導課主幹となっているものの、委員の肩書不記載。発言は「副委員長」「委員」「事務局」だけで、誰が発言したのか不明。私は教育委員の経験がありますが、議事録には発言者として毎回名前が記されていました。地域性なのか、責任ある発言をする風土の欠如を感じます。

この会議で私が着目したのは、臨時委員の選定が「事務局の提案通り」に進められるとされたこと。遺族が推薦する人を入れよう、といった意見がなかったこと。これでは事務局のいいなりではありませんか。人選にチェック機能が働いていない。

ある委員はこの時

亡くなられた生徒さんの保護者の方々と一緒に何を調査していくのか,調査の報告書をどういうものにしていくのかということについて,よく話し合っていくことが何より大事だと思っている。

と発言しています。しかし、その後の経過をみると、調査のあり方、中間報告書に反映されず、批判を招いています。

第三者委員会による中間報告に関する記者会見は2022年4月15日。立ち上がってから1年かけて中間報告ではあまりに遅い。時間がかかればかかるほど遺族が苦しむことがわかっていない。通常、報告書は3か月程度でまとめますが、1年かかりそうな場合に3カ月を目途に中間報告書を発表します。

第三者委員会による中間報告書について旭川市の今津寛介市長は

報告書を見て感じることは、淡々と事実が書かれていて、非常に感情がなく、率直に無機質な印象を受けています。特に被害者の気持ちや、心情が抜け落ちていると感じています。

と内容に不満を述べています。(*2)

さらに、5月31日、遺族側が調査の不備を指摘する「所見書」を提出して「聞き取りが1回しかない。遺族に寄り添っていない」と批判。それを受け、6月15日に遺族に2回目の聞き取り調査がようやく実施されました。

この第三者委員会は一体何をやっているのでしょうか。

教育委員会向け第三者委員会ガイドラインが必要

今回の第三者委員会の委員構成は、委員4名と5名の臨時委員、合計9名の委員が第三者委員会となっています。(*3)旭川弁護士会から4名、北海道臨床心理士会から2名、旭川医師会1名、旭川育児院1名、北海道教育大学1名、と大所帯すぎるだけでなく旭川在住者が6名。議事録が全く公開されていないため、誰がどのような発言をしているか不明であるものの、一連の流れをみてみると、警察が出動していながら地元メディアではなく、文春オンラインが遺族の信頼を得ていること、議事録の発言者が明記されていない、委員選定は事務局の提案通りになっていることから地域の閉鎖性なのか、機能不全に陥っているように見えます。日弁連の第三者委員会ガイドラインはあるものの企業不祥事向け。別途、教育委員会向けの第三者委員会ガイドラインが必要かもしれません。最終報告書は8月の予定。

【24時間子供SOSダイヤル】

https://www.mext.go.jp/a_menu/hotou/seitoshidou/06112210.htm

*1

1回目の「旭川市いじめ防止等対策委員会」

https://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/kurashi/218/266/270/d073659_d/fil/R3_dai1kai_kaigiroku.pdf

*2

2022年4月15日 市長による記者会見 テキスト

https://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/700/723/735/d075157.html

*3

旭川市いじめ防止等対策委員会委員名簿(2022年2月10日)

https://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/kurashi/218/266/270/d073659_d/fil/040210_taisakuiinkaimeibo.pdf

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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