菅総理が総裁選への不出馬を発表しました。8月22日に行われた横浜市長選の負け方が影響していることはいわずもがな。横浜市は菅総理が市議会議員としてスタートした地であり影響力は強い。当然総理の後押しがある小此木八郎氏と立憲民主党が推薦した山中竹春氏が接戦になると予測されていましたが、結果は意外にも山中氏が圧勝。いったいどんな市長選だったのでしょうか。筆者の視点から横浜市長選を振り返ります。着目したのは、8名の立候補者の記者会見はもとより、得票の要となる「ハマのドン」こと藤木氏や「落選運動」を表明した弁護士郷原氏による番外編の記者会見。8名+番外編2名の10名の記者会見で質疑応答も含めて最も長く話している動画を探して、聞きごたえ感をさぐりました。

8月15日頃のこと。YouTubeで検索すると、数秒の報道を飛ばして横浜市長選の立候補者について質疑応答までアップされている動画を探すのが一苦労。つくづく生データの重要性を感じてざっと見る。上位にあってすぐに見つかったのが、元長野県知事で作家の田中康夫氏。7月8日に行われた記者会見は1時間45分。報道に対して受け身ではなく、最初から自らライブ配信の体制を構築している点は戦略的。メディア対策は万全であるように見えました。また、報道関係者との緊迫感あるやり取りも抜群に面白い。

通常は媒体名とお名前を名乗ってください、でスタートする質疑応答ですが、田中氏は「媒体名だけではなく、フルネームでお願いします」と細かい。同じ苗字が多いから、「関係構築をしたいから」との説明も加える。それだけではなく「フリーランスの方は主にどの媒体で書いているのかもお知らせください」と抜かりない。これはある意味責任をもって質問をしてほしい、といったメッセージでもあり、この事前通告で緊迫感がその場に走ったように感じました。

「〇〇さん」と時おり記者の名前を呼びながら対応。親近感演出かと思えば、「〇〇さんがそんな質問をするんですか」と質問のレベル評価をする場面もたびたび。もっといい質問を投げるように促すのはやや上から目線ではありましたが悪くない。質の高い質問をするのはメディアの使命でもあるからです。さらに終盤になると、横浜だけ実現していない中学校給食について「学校に作るスペースがないと教育委員会は言っているが」と質問されると「ビジネスインサイダーというメディアがそんな言い分きいてどうする」と切り返す。メディアを熟知しているからこその発言。田中氏はたとえ話が多くて回りくどさもありましたが、災害危険地域については、記者側からも問題提起があり、さらなる質疑応答で問題が浮き彫りとなる。レベルの高い記者会見であったと思います。こんな記者会見をもっと見たいと感じました。

山中竹春氏の立候補表明会見は6月29日。立憲民主党が設定した記者会見の動画がありましたが、正式版ではないらしく縦長で暗い映像がYouTubeにありました。内容も抽象的で薄っぺらくありきたり。第一印象はよいとは言えませんでした。江田憲司氏は「山中氏は知人を通じて紹介された。市長選に意欲があるということだったから」と紹介。あまり知っているわけではないのに推薦とは、不安を感じさせる船出でした。しかし、選挙戦が始まると、山中氏は「カジノは即刻撤回」と力強いフレーズ。若々しく精悍な印象は確かに演出できていたようです。

そして、筆者が思わず聞き入ったのは、実は番外編の記者会見。「ハマのドン」と呼ばれている藤木幸夫氏が8月3日、外国特派員協会に招へいされて開いた会見でした。「港は誤解されているんです」と切り出してエピソードを紹介。「やくざ映画が流行って、皆この港で撮影したんですよ。それが宣伝になりすぎたのか、北海道で働き手を探したら、ある母親が『うちの息子は入れ墨していないのですが大丈夫ですか』と心配していた。食事や寝る場所の心配じゃなかったんだ」。映像が浮かび、思わずくすっと笑ってしまいそうな話の展開。港を作り、守ってきた気概を感じさせる内容でした。

さて、本題の質疑応答。山中竹春氏についてどう思うか、人物像やパワハラ報道問題をどう思うか、田中康夫さんの方が藤木さんの考え方に近いのではないか。これについて「正直言って、林(文子市長)以外ならだれでもよかった。林はいまやロボットだ。菅(総理)の言いなり。カジノは横浜ではだめだ」と怒りのコメント。「私のところにはいろんな人が来る。でも、(立憲民主党の)江田君に任せると決めた。彼が連れてきた人だ。山中さんはよく知らない人。本人に会った際には、目が鋭すぎるよ、とだけ指摘した」。やや受動的。「山中さんはよく知らない」、、、同じセリフを江田氏からも聞いたような。みんながよく知らない山中氏が横浜市の市長になってしまったということか。

小此木八郎氏については苦渋と悲哀の顔を浮かべ、「私は八郎の名付け親」「母親から電話が来るんだ」。最後の捨て台詞は意外なことに諦めのひとこと。「どうせ八郎が勝つんでしょ」。

藤木氏の記者会見は、人情、笑い、怒り、悲哀、諦めあり、と実に豊か。感情表現がストレートで見ていて気持ちがいいと感じました。90年生きてきた人間の迫力なのかもしれません。

8月5日、出馬を取りやめて山中氏と小此木氏の当選阻止の「落選運動」を表明する記者会見を行った弁護士の郷原信郎氏について一言。意味が分からない、としか言いようがありません。残念ながら売名行為にも見えてしまいました。

さて、それ以外の立候補者はどうだったのでしょうか。続きはこちらの動画で。

<メディアトレーニング座談会>横浜市長選 記者会見が上手かったのは?