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ビールメーカーの対話力はキリンの一人勝ち スーツにボタンダウンはNG

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
公開された動画アーカイブを視聴しながら解説する筆者ら

夏には欠かせないビール。そこでよりビールを美味しく飲みたいと考え、飲料メーカーの決算説明会での対話力を比較しました。キリン、アサヒ、サントリー、サッポロの大手4社を調査したところ、動画が公開されていたのはキリンのみ。決算説明会を動画公開している企業は増えているため、今の時代に動画が公開されていないことに驚きました。アサヒ、サントリー、サッポロについて音声での説明はありました。この時点でキリンの一人勝ちとなっています。*1

では、キリンビールを傘下に置くホールディングスはどのような説明会動画だったのでしょうか。2020年度決算 2021年度計画説明会を視聴しました。最初に登場したのは、取締役常務執行役員 横田乃里也氏。通常は社長からなので意外。ここでやや、あれっと拍子抜けしてしまいました。やはり社長から登場した方がインパクトはあります。

横田氏の魅力は、何と言っても滑舌のよさ。すらすらと言葉が出てきますし、耳当たりもいい。ただ、単調で抑揚がないため、記憶に残りません。体も微動だにせず、表情も変えないため、一見よさそうにも見えたのですが、ずっと見ていると、全く動かないのは、だんだん不自然に思えてきて、動画なのだろうかと疑ったり、フリーズしているのかと心配になったり。

また、原稿は下ではなく、上にあるらしく、ずっと顔を上げたままなのは好印象ではありましたが、目線が横すぎ。カメラ位置が悪いのです。真横まではいかないのですが、かなりの角度で横からなので全く目線が合いません。これでは寂しすぎます。せっかく顔をずっと上げているのであれば、やはり時々はカメラ目線がほしいところ。ご本人というよりスタッフの問題ではありますが。こういった撮影の場合、カメラマンが手を上げて登壇者にこちらを見て、と合図するとよいのです。

もっとも、ハイブリッドで会場に人がいるのであれば目線は会場の方に合わせればいいのですが、会場に人がいる様子は感じ取れませんでした。また、会場に人がいる場合には、会場の人に語りかければ、目線が合っていなくても伝えたい熱意は、カメラ目線ではなくてもカメラを通して見ている人に伝わります。横田氏が持っている雰囲気の高さを生かしてほしいと感じました。

次に登場した代表取締役社長の磯崎功典氏。磯崎氏の言葉は抑揚もあり、強調ポイントが明確で力強さはさすがの貫禄。カメラの位置も正面近くでしたので、違和感なく見ることができました。ただ、こちらも一度もカメラ目線にはならなかったのは少々残念。メッセージ力を高めるにはカメラ目線が数回だけでもあると効果的です。そして、最も残念だったのは、スーツにボタンダウンシャツであったこと。他の動画を見ても磯崎氏はボタンダウンシャツが多いようです。ボタンダウンシャツは、歴史的にはスポーツ競技に由来するので、スーツにボタンダウンシャツは公式感が欠けてしまいます。従って決算説明会のような公式な場では避ける必要があります。どうしてもボタンダウンシャツを着用したい場合には、せめてボタンが見えないワイドカラータイプにしてジャケットの襟にボタンが隠れるようにするとよいでしょう。なお、ジャケットパンツスタイルといったカジュアルな服装においてはボタンダウンシャツは構いません。

音声だけだったサントリー食品インターナショナルとアサヒグループホールディングス、サッポロホールディングスについて一言*2。説明者は滑舌がよく、わかりやすい発音で好感は持てましたが、名前をフルネームで言わないことに違和感がありました。サントリーに関しては肩書も言わなかったのでどこの人だろうか、と思いました。肩書とフルネームは決算説明会では必須だろうと思います。

企業における広報のカテゴリーとして大きく商品広報と企業広報があります。商品へのイメージアップは日本企業はどこも熱心です。一方、人を媒体としたメッセージにおけるイメージ戦略は訓練が十分なされていないと感じます。ステークホルダーへのメッセージ、対話姿勢の演出において重要な要素への認識が足りないようです。服装マナー、原稿の読み方、カメラ位置、カメラ目線、知識やコツをつかめば、メッセージ力、対話力は向上し、発信側もどんどん楽しくなるはず。今後に期待します。

*1

<訂正とお詫び>

本来であれば、アサヒビールを傘下に置くのはアサヒグループホールディングスにもかかわらず、誤ってアサヒホールディングスの決算説明会動画を比較する間違いが発覚し、公開から1時間後の7月19日8:30から非公開としました。記事を修正の上、20日16:00に再度公開致しました。

約1時間の間に記事を閲覧された方々には誤った情報を提供することになりました。お詫び申し上げます。また、アサヒホールディングス様、アサヒグループホールディングス様関係者の方々にも謹んでお詫び申し上げます。

*2

<訂正とお詫び>

サッポロホールディングスについて、音声を発見しましたので、訂正の上、加筆しました。訂正してお詫びいたします。(2021年7月21日17:00)

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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