Yahoo!ニュース

コミュ力高いGMO熊谷社長も陥った"顔ドアップ"の罠 オンライン発表の注意点は?

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
GMOインターネットトップページ画面 筆者撮影

株主総会のシーズンとなりました。昨年の新型コロナをきっかけに決算説明会、記者会見、株主総会でオンラインを取り入れる企業は増えました。全体の傾向としては歓迎ですが、オンラインになると今まで以上に見えてくるのがバストアップでの表現力になります。今年1月から、ユニクロの柳井正氏、楽天の三木谷浩史氏と役員並びにグループ会社社長、ゼットホールディングスの川邊健太郎氏と出澤剛氏、トヨタ自動車の豊田章男氏、ソフトバンクの孫正義氏、東芝の綱川智氏の決算発表会、記者発表会を観察してきました。7社目となる今回は、GMOの熊谷正寿氏になります。理由は、最も多くの企業で取り入れられているスライドと二人体制での説明であること、そして男性の多くが軽視する髪型の失敗をしている点がわかりやすいからです。

GMOインターネット株式会社は、お名前ドットコムといったインターネットのインフラ事業やインターネット広告、メディア事業を展開する企業で、最近では仮想通貨事業を大きく伸ばしてきています。熊谷正寿氏は創業者で社長ブログ「クマガイコム」でも活発に情報発信をしている著名なベンチャー起業家です。今回考察したのは、2021年2月12日と5月12日にYouTubeにアップされた決算説明会。

動画を開いて最初にひっかかってしまったのは髪型でした。理由は、表情がよく見えないから。表情が見えないと不安感を相手に与えてしまいます。表情をつかさどるのは眉毛であり、女性のメイクでも眉毛の描き方で相当印象が変わることは知られています。心理学では最初に入った情報や目立つ特徴に引きずられる「ハロー効果」といいます。その意味では最初の見え方は、資料だけではなく、表情が見えることは重要な要素です。特に謝罪会見では表情が見えないと致命的な失敗となります。

全体的にはコミュニケーション能力の高さを感じました。特に、内容の組み立て方と声の抑揚。最初に結論と要約、決算概要、セグメント別状況、注目事業の説明。声のスピードも大事なポイントは抑揚をつけてゆっくり発音していたため、聞き取りやすくわかりやすい。そして、最後はキャッチコピー「すべての人にインターネットを」。月並みな「ご視聴ありがとうございます」ではなく、キャッチコピーで締めくくる点が宣伝能力の高さを物語っています。

残念だったのは、手を使ったジェスチャーがなく、前のめりのみの動きでアピールしていたこと。「決算のポイントは3つ」くらいは指を使ったら良かったと思います。熊谷さんのようなコミュニケーション力のある人でも全くジェスチャーを使わなかった点は意外な発見でした。これは日本人全体の弱点なのではないかと改めて感じるほど。言いたいことがありすぎてだんだん前のめりになり、画面に顔がいっぱいになってしまったり、横揺れするのもジェスチャーがないが故に顔だけで訴えようとするからです。ジェスチャーがあれば、言いたいことを強調できるため前のめりになる必要もなかっただろうに。男性はこのようにオンラインカメラに顔を近づけてくる人は多く、相手に不快感を与えるリスクがあります。それを避けるためにも、公式時には、上半身が入るようカメラフレームのサイズは注意が必要です。

しつこく髪型に戻りますが、カメラで自分を客観視する訓練、メディアトレーニングの現場においても「なぜ髪型が大事なのか、わからない」「髪型なんて変えようがない」といった声をよく聞きます。下記写真は、最近筆者のメディアトレーニングに参加したユームテクノロジージャパン株式会社の志村智生(しむら・としお)さん。前髪を上げることによる表情の見え方、違いは歴然としていますが、当のご本人はこの写真を見ても「髪型を変えたら人に褒められたが、自分では何がいいのかわからない。でも人がいいと言うし、会社のイメージアップになるならと前髪を上げるスタイルでいくことにしました」とコメント。

ユームテクノロジージャパン株式会社提供
ユームテクノロジージャパン株式会社提供

ことほどさように自分を客観視することは難しいのです。人の姿も企業の姿も常に客観的な目線を持つことが望まれます。ステークホルダーとの対話を声高くコメントする際には相手目線に立ち、見え方も工夫してほしい。たかが髪型と言わず、周囲の意見を聞き、信頼を獲得するための髪型についても意識することはコミュニケーション力の一つだろうと思います。

【記事に連動した動画解説】

<メディアトレーニング座談会>(石川慶子MTチャンネル)

表現リスクについて解説、訓練する動画番組

チャンネル登録すると、いち早く配信を見ることができます

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

石川慶子の最近の記事