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渡部建氏、会見で「表現」は健闘したが… 後味の悪さを残した最大の原因は?

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:REX/アフロ)

自分の行いに批判が起こり、信頼失墜してしまった際に、その事実に向き合い謝罪し、信頼回復するための説明責任を果たす活動を「クライシスコミュニケーション(危機管理広報)」といいます。この謝罪が失敗してしまうと、ダメージはさらに深まり、信頼回復の道のりが遠くなります。12月3日に行われたアンジャッシュの渡部建氏の謝罪を目的とした会見でしたが、残念ながら「後味の悪い会見」となってしまいました。どうしてなのか、どうしたらよかったのでしょうか。

タイミングと手法に失敗、表現は健闘

謝罪会見においては、「タイミング」「手法」「表現」の3つのポイントが重要です。今回、6月に多目的トイレの不適切使用が報道されていますから、その意味では「タイミング」は、明らかに「遅い」のです。ただ、本人は、遅くなってしまったこと、考えが甘かったこと、スクープした週刊誌への単独インタビュー対応だけでいいと思ったこと、それで収束すると考えてしまったことを反省していると「理由を説明」していますので、向き合って反省しているといえます。

次に、「手法」ですが、ぶらさがりの囲み取材、仕切り役なしスタイルで100分も行ってしまったこと、これがよくありませんでした。まず、ぶらさがりは公式感がありません。ついでに行うスタイルですし、短時間で済ませたい時に選択します。今回、6月の報道に対しての謝罪で、しかも遅れてしまったことをお詫びするのであれば、より公式感の高い、着席スタイルの記者会見にするべきでした。その方が気持ちが伝わったといえるでしょう。

また、後味の悪さを残した最大の原因は、「仕切り役不在」であったことです。答えられない質問に困る渡部氏の姿と誰も彼を守る人がいない状況が長く続きました。同情を超えた状況、つまり「イジメ」の構図となり、不快さを生み出していきいました。途中で見ていられなくなり、見るのをやめた人も多いのではないでしょうか。私も見かねて何度も目を背けたり、ため息をついていました。事前に解説を依頼されていたため、何とか最後まで苦痛に耐えながら見たため、見終えた際には、気分が悪くなり、ひどく不機嫌になりました。これほど、後味の悪い会見は初めてです。見ているだけで、自分もイジメに加担しているかのような気持ちになったからだろうと思います。12月3日、ライブで見ていながら、この記事を書くのが遅くなってしまったのも、その後味の悪さがいつまでも消えなかったからです。1週間以上経ち、ようやくそこから脱出し、冷静に振り返る気持ちができたのでこのように書いています。

では、タレント事務所の人は、そこに不在だったのかというとそうではありません。会見前に開始のアナウンスはあり、「時間制限はあるのか」の事前質問には「ありません」とやりとりする様子が聞こえました。また、最後に会見が終わって本人が退出する際に、一礼せずに退出したところ、再度出てきて一礼させたところをみると、裏で指示をしていた人はいるということになります。ここで不信感が湧いてきました。なぜ、そこに居ながら仕切らないのか、タレントを守らないのか、仕切らないことで何が起こるか十分わかっていて、意図的に仕切らなかったのではないか、と見えてしまいました。それを見透かしたかのように、最後にこんな質問が出てしまいました。「ぶらさがり形式にしたのはなぜか」「なぜ19時スタートなのか」「これでみそぎが済んだということにするんですか」。

後味の悪さはさらに強くなりました。

「表現」について、渡部氏は健闘していたと思います。番組収録については「自分からは言えない」と何度も繰り返していました。つまり、言わないと決めたことは何度聞かれても言わない、を貫き通したからです。多目的トイレの不適切使用について、反省や後悔はあるものの、例えば、多目的トイレの掃除をする、といった具体的な償いや、不適切使用を二度としない、といった決意ある言葉がなかったのは残念です。「オファーがないと復帰できないし」など、復帰に気持ちがいってしまっている表現が出てしまいました。6月にやっておくべき謝罪会見の位置づけであれば、無期限の活動自粛を宣言する決意をもって臨んでほしかったと思います。心理学において「謝罪の気持ち」を伝えるために必要な要素として、事実認識、反省、後悔、償い、決意の表現があります。償いと決意を示せば、信頼回復への道筋はよりスムーズに形成されていたでしょう。

会見の仕切り方

今回の後味の悪さについて、最大の原因は「仕切り役不在」であると述べました。では、どのように仕切るとよいのでしょうか。記者クラブで会見を行う場合には、幹事社となっているメディア側が仕切る場合もありますが、謝罪会見となると、会社に記者が押しかけてやむなくする形も多く、会社の会議室になることもあります。記者クラブを使い慣れていない場合には、自社で行った方がよいこともあります。いずれにせよ、仕切り役は会社側で行う方がよいのです。なぜなら、質問攻めにされる人を守るのは仕切り役になるからです。

多くの企業では、広報担当者がその役割を担います。記者会見の形式を決める、レイアウトで動線を確保する、事前の雰囲気を見極め、事前交渉でもっていきたい方向性に雰囲気づくりをする、運営中には質問を仕切り、不適切な質問には注意を促し、回答できない質問について登壇者が十分説明できていない場合には補足をする、同じ質問が繰り返されたら切り上げる。特に不適切な質問には注意を促したり、ヒートアップする報道陣に立ち向かいます。これは言うほど簡単ではなく、実際には訓練をしないとなかなかできません。慣れていないと単なる棒立ちの司会役になってしまいますし、介入しすぎると、例えば、2018年の日大タックル問題での日大側会見での司会者のように、火に油を注ぐ結果になることもあります。しかしながら、今回の史上最悪といえるほどの「後味の悪さ」を思うと、仕切り役が介在しすぎて批判を浴びる方がまだマシだと感じました。

中小ベンチャーでは、広報担当者が新人であったり、謝罪会見が未経験というケースがあります。仕切り役が不在、あるいは、いてもその役割を果たしていない場合には、イジメの構図を社会にさらさないようにするために、報道側も何等かの事前策を考えておく必要があるのではないでしょうか。そうしなければ、報道陣が公開イジメをしているように見えてしまい、報道陣の評判を落とすだけではなく、子供達にも恥ずかしく、社会に悪影響を残します。そのような社会であってはならないと思います。

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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