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「獣医師が解説」“猛毒・六価クロム”まみれの猫が逃走 猫の習性から事件を考える

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:アフロ)

広島県福山市は3月11日、同市柳津町の野村鍍金(めっき)福山工場に入り込んだ猫が有害物質である六価クロムの槽に落ち、そのまま逃げたと発表しました。猫に触ると皮膚がただれるなどの症状が出るとして、市は注意と情報提供を呼びかけていると、中國新聞デジタルは伝えています。

六価クロムとは?

六価クロムはメッキ処理に使われます。その特徴としては、強い毒性を持ち、皮膚や粘膜に付着すると皮膚炎や腫瘍の原因となります。また、多量に肺に吸入すれば呼吸機能を阻害し、長期的には肺がんにつながる可能性もあります。

室内飼いの猫なら、そのような猛毒に触れることはないのです。

その一方で、外に出る猫は、このような危険な境遇になる可能性があります。

なぜ、猫は犬より六価クロムなどの猛毒がより危険なのか?

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イメージ写真写真:アフロ

猫は、犬より毛づくろいをする動物です。

猫ですので、強い毒性の六価クロムが体につけば、毛づくろいをして体に取り込んでいる可能性があります。

なぜ、猫は犬より毛づくろいをよくする動物なのでしょうか?猫は元来、単独行動をする動物です。群れを作らず木陰に隠れて獲物をとります。

そのような行動をしている動物なので、捕食する動物に自分のニオイを知らせないように、懸命に毛づくろいをするわけです。

その一方で、犬は群れで獲物をとります。そのため、猫ほど毛づくろいをしないのです。

このような猫の習性から推測すると、六価クロムまみれの猫は、懸命に毛づくろいをしている可能性があります。

猫も高齢になったり口腔内のトラブルがあったりすると毛づくろいをしなくなるのですが、この猫は工場の隙間を探して侵入した猫です。そのことを考えると、この猫は元気で活発なので、毛づくろいをしている可能性が高いです。

なぜ、猫は見つからないのか?(3月14日現在)

深さ3メートルの六価クロム槽に落ちていた猫について、福山市役所の発表によりますと、近隣の地区を捜したが猫は見つからず、生きているかどうかも明らかでないとCNN.co.jpは伝えています。

六価クロムが体についた猫は、命にかかわる状態の可能性が高いです。猫は体の具合が悪いと、人目につきにくい場所に隠れる習性があります。

猫は家と外を自由に出入りできる飼い方をしていると、死期が近づいたとき飼い主の元から姿を消すと言われていました。その理由は、猫は具合が悪くなると、暗い人目につきにくいところにこもる習性があるからです。

室内飼いの猫でも、体調がよくないと普段ならリビングにいるのに、クロゼットなどに隠れることがあります。

このような猫の習性から考えると、六価クロム槽に落ちた猫は人目のつかないところにいる可能性が高いので、見つからないのでしょう。

外に出ていた猫がとりもちをつけて帰ってきたら

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イメージ写真写真:イメージマート

猫は、外に出すとこのような猛毒を体につけて帰ってくることがあります。外に出さず、完全室内飼いにすると、このような事故はありません。

外に出している猫が体になにかをつけて帰ってくることがあります。

体についたものがどのようなものかわからないときは、動物病院に相談しましよう。六価クロムのように、飼い主が触ると危険なこともあります。

今日は、とりもちをつけて帰ってきたときの対処方法をお伝えします。

猫の毛についたとりもちの取り方

猫を外に出すと、ネズミをとるためのとりもちがつくことがあります。知識がなく触ると余計に毛のとりもちが絡みつき取りにくくなり、猫を弱らせてしまうこともあります。以下を参考にしてください。

1、小麦粉を猫にふりかける

とりもちが他のところにくっつくのを防ぐために、毛に小麦粉を軽く振りかけます。

2、食用油でなじませる

小麦粉をなじませたところに、食用油をつけます。油をなじませることで粘着力が弱まり、とりもちが取りやすくなります。

3、中性洗剤で洗う

小麦粉に食用油をつけたところを中性洗剤を使って毛を洗い、清潔にします。

飼い主が上記のことをするのは難しいことが多いので、その場合はとりもちのところに小麦粉をまぶして動物病院にいきましょう。

まとめ

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広島県福山市の今回の事故のように、猫を外に出すと有毒・六価クロムが毛につくことがあるのです。このような事故に遭わないためには、外に出さないことです。

室内飼いにしていると、このような事故に遭わないですね。

猫が外から帰宅したら、なにか毛につけている可能性があるので、すぐに抱っこをしたりせずに、よく観察しましょう。そして猫が、毛づくろいをして吐くようなことがあれば、体に有害なものがついている可能性があるので、かかりつけの動物病院と相談してください。

猫は毛づくろいをよくする動物なので、その辺りのことを考えて飼いましょう。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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