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「猫が30年生きる未来」獣医療の光と闇 飼い主の高齢化

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

明日2月22日は「猫の日」です。猫の獣医療から猫の未来をのぞいてみましょう。

一般社団法人日本ペットフード協会の調べによりますと、2023年の猫の平均寿命は15.79歳です。この猫の寿命がさらに延びて、未来には30歳になる日が来るかもしれないのです。

愛猫家にとって、愛しいわが猫が元気で長生きしてくれることは願いです。その一方で、猫が長寿になると闇の部分もあるのです。猫の獣医療について、何が起こりつつあるのかを見ていきましょう。

猫の医療

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イメージ写真写真:アフロ

ペットの医療は、より専門性に特化してきています。

街で見かけるいわゆる動物病院(1次診療)だけではないのです。人間でいうところの心臓外科、脳外科、眼科、皮膚科、整形外科、腫瘍科などの動物病院までもあります。これらは、2次診療の動物病院と呼ばれて、一般の動物病院から紹介してもらうシステムです。大学の付属の動物病院なども2次診療の動物病院ですが、それ以外にもあります。

2次診療の動物病院には、CT、MRIなどの画像診断ができる設備があり、以前なら見つけられなかった病気も発見できるようになりました。脳、心臓、肝臓、腎臓、鼻腔内などの部分の病気もよくわかり、的確な診断ができるようになりました。

その一方で、画像診断などができる医療設備は高額になるので、どうしても治療費が高くなります。たとえば、心臓疾患や脳疾患で手術をすると100万円を超えることが珍しくありません。

後述しますが、猫が高齢化すると慢性腎不全やがんになる子が増えてきます。このような病気になれば、高額になりトータルで数十万円以上かかることが普通になっています。

ペットの医療は人の医療のように保険制度がないので、飼い主の経済状況で犬や猫の寿命が変わってくることもあります。

猫の高齢化

ペットは家族の一員といわれるようになり、たいへんかわいがられています。猫の場合は、完全室内飼いの子も多くいます。以前なら猫同士のケンカで猫エイズに感染したり、交通事故に遭っていたりしましたが、そのようなことも少なくなりました。

それに加えて獣医療の進歩のおかげで、20歳になっても来院する猫も多くいます。

猫は、高齢になると慢性腎不全やがんになりやすい動物です。

・慢性腎不全(CKD)

AIM医学研究所の宮崎徹先生は、猫の腎不全のためのAIMという物質を発見して、それを医薬品として承認されるように研究しています。

このAIMが猫用の動物薬と一般に普及すると、30歳まで生きる猫が出てくる可能性もあるそうです。

まだ発売されていない薬なので価格はわかりませんが、筆者の推測では1回の注射で1万円以上はかかるのではないでしょうか。

その他にも、再生医療をしている動物病院があります。再生医療を使えば、慢性腎不全の進行を遅くできる可能性があります。筆者の動物病院でも再生医療を使って慢性腎不全の治療をしていますが、IRIEの分類表のグレイ度が低い子は、比較的反応がいいです。

この治療も高価で、1回で1万円以上はかかります。

・がん

猫は人間と同じように高齢になると免疫力が下がるので、がんになる子が多くいます。

たとえば、猫は鼻血が出ることがあまりないですが、朝、起きたらシーツに霧吹きでかけたように血が付いているようなことがあれば、鼻腔内腺がんやリンパ腫の可能性が高くなります。

このような症状が出れば、猫はCTやMRIの画像を撮ることが一般的で、そうなるとペットの場合は、麻酔をかけることになるので、検査代だけで10万円ぐらいかかります。

がんの治療は一般的には、抗がん剤や手術や放射線です。放射線治療は、どこの動物病院でもできるというものではなく、多くは限られた大学病院で行われて、数回の放射線治療で100万円近く必要になります。

このように猫が高齢になると、病気になりやすく医療費も高額になります。

・介護

猫は、犬ほどは介護の問題はないですが、それでも高齢になると、猫が粗相をしてしまうことがあるのです。オシッコをしようとして、トイレまで行けずにその近くでしてしまうことなどもあります。

それ以外は夜鳴きです。

猫の場合は夜鳴きをすると認知症だけではなく、甲状腺機能亢進症などの病気があるので、夜鳴きが気になるようでしたら動物病院で血液検査などをしてもらいましょう。甲状腺機能亢進症による夜鳴きだと、内服薬を飲むと症状が緩和できることもあります。

愛猫が、長生きしてくれることはうれしいですが、その一方で、新たにペットの介護、ペットのがん、猫の慢性腎不全をどうするか、という問題も出てきています。

飼い主の高齢化

写真:イメージマート

忘れてはならないのは、猫が高齢になるということは飼い主も同じように年齢を重ねるということです。

たとえば、飼い主が50歳で子猫を飼い始めると、猫が15歳まで生きると飼い主の年齢は65歳です。多くの人が年金受給者になっている年齢です。

猫は比較的若いときはあまり病気をしませんが、7歳以降から腎不全やがんに罹患する子が増えるのです。そうなると、前述のように医療費が嵩みます。

65歳ぐらいだとまだまだ肉体的には健康な人が多いですが、猫の医療費をどうするかは頭の痛いところです。

いままで一緒に暮らしていたので、できることは全てしたくても人間のように保険制度ではないので、経済状況と合わせて猫の治療を考える必要が出てきます。

それに加えて、飼い主が高齢になると五感が鈍ってくるので、猫の病気をすぐに察知することができなくなることもあります。

たとえば、乳腺にしこりがあってもよく触っていないと、発見できたときには自壊していることもあります。それ以外には、猫が隅に行って寝ていても気がつかないのです。猫が隅に行くと具合の悪いことが多いのです。高齢になると、注意深く猫を観察することが、うまくできない人が増えてきます。

飼い主があまりに高齢だと猫を飼いはじめても、猫を残して亡くなったり、施設に入ることになり飼えなくなったりします。その辺りのことも考えて飼うことが大切です。

まとめ

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イメージ写真写真:アフロ

ペット医療が進化して、いままで治らなった病気が、回復するのはよいことです。

日本のペット医療は、人間のような保険制度がないのです。お金を払える余裕がある人のペットは長生きできますが、そうじゃない人のペットは短命で終わることもあるのです。現に、飼い主がいない野良猫の寿命は、数年といわれています。

ペットの医療が進化すると、ますますペットの医療の格差が開いていくでしょう。

「うちの猫が食欲があまりない」と来院します。血液検査をすると慢性腎不全だと診断がでます。全ての飼い主が猫の慢性腎不全の治療をするわけでなく、診断結果だけ聞いて、もう来院されない人もいます。いまのところ猫の慢性腎不全は対症療法しかなく、完治はしません。そのためか、猫が慢性腎不全でも治療をしない飼い主もいるのです。治療をすると、吐き気などなく数年を過ごす猫もいます。

ペットの医療は進化していきますが、どの程度治療を受けさせるかを考えておくことも大切です。そして、そのためには、科学的に正しい情報をアップデートしながら、長生きになった猫と向き合いながら暮らしてほしいです。

猫が長生きになると喜んでばかりもいられず、ペットの医療費、介護、そして飼い主の高齢化などの問題が出てくるのです。その辺りのことを考えながら、猫と暮らし始めましょう。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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