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C型肝炎ウイルスの研究にチンパンジーが使われていた 動物実験された彼らに薬を。京大が支援募集

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:アフロ)

チンパンジーは、アフリカに住んでいる野生動物です。

そのチンパンジーが、京都大学野生動物研究センター・熊本サンクチュアリにいます。彼らは医学的な実験に使われ、C型肝炎になってしまいました。人間の都合でアフリカから連れて来られ、そのうえC型肝炎になり苦しんでいます。彼らは、投薬すれば治る可能性があります。なぜ、C型肝炎に苦しんでいるチンパンジーがいるのかと、ネットでの支援の方法を説明します。

なぜ、チンパンジーが医学的な実験を受けたか?

イメージ写真
イメージ写真写真:イメージマート

2020年、C型肝炎の原因となるウイルスを発見した英米の科学者3人が、ノーベル医学生理学賞を受賞しました。

その実験にチンパンジーが使われました。C型肝炎ウイルスに感染することができる動物は限られており、チンパンジーはその中でも感染が可能な唯一の霊長類です。

そのため、この研究において、チンパンジーを実験動物として使用することが一般的でした(いまでは、チンパンジーの使用には倫理的な問題があり、代替手段の開発が進んでいます)。

A型肝炎とB型肝炎の原因となるウイルスは1960年代半ばには発見されていました。それ以外にも肝炎になるウイルスがあるのでは、と考えられていました。

ノーベル賞の受賞者のひとりであるアメリカのハーヴェイ・オルター教授は、輸血を受けた患者が肝炎を発症することがわかっていました。それで、この患者の血液をさらにチンパンジーに輸血したところ、チンパンジーが同じ病気になることを発見。

このことから、C型肝炎の研究と治療が一気に進みました。

確かに、チンパンジーは、人医療には貢献しましたが、狭いケージに入れられ、ウイルスに感染させられ、いまも治療を受けていない子たちは、C型肝炎に苦しんでいます。

熊本サンクチュアリでのチンパンジー

Kumamoto Sanctuary, WRC, Kyoto University, Japan (Jul 2015) TheFriendsAndAiより

熊本サンクチュアリには、いまもC型肝炎ウイルスに持続感染しているチンパンジーたちが暮らしています。彼らには、肝炎ウイルスによって引き起こされたと推測される肝臓や腎臓の障害があるなど、健康上の問題がおこっていて、手厚い看護がいります。必要のなかった闘病生活を強いられています。

いままでにもクラウドファンディングをしました。投薬によって、チンパンジーのショウボウちゃん、アキナちゃん、ススムちゃんは、血液検査の結果、C型肝炎ウイルスは検出されていません。つまり投薬によって完治します。

そこで今回、まだ治療の見込みが立っていない3にん分の治療薬購入費用を募るべく、再びクラウドファンディングを行っています(人用の薬で、チンパンジーには人のように医療保険が使えないので、高価になります)。

この施設で治療を行っている獣医師の鵜殿俊史さんは、

『当初は半信半疑で始めたチンパンジーのC型肝炎治療ですが、いまは「薬さえあればチンパンジーを治せる」と、自信を持って言うことができます。もう少しで日本からC型肝炎が体に残るチンパンジーをゼロにすることができそうです』とおっしゃっています。

C型肝炎の治療薬をクラウドファンディングで

このクラウドファンディングには、5000円のコース、オンラインツアー動画とチンパンジーの画像が届く1万円のコースなど9タイプがあります。寄付の募集は10月31日午後11時までです。

たとえば、5000円コースは以下の特典があります。

・お礼のメール

・活動報告レポート

・寄附金領収証書

・京大基金HPにご芳名を掲載 ※希望者のみ

詳しくは以下のサイトをご覧ください。

【最終章】ウイルスの医学的実験を受けたチンパンジー みんなの治療へ

この施設では、いまは医学的実験ではなく、チンパンジーの行動などの研究を通して彼らのことを理解することに努め、生まれ育った野生に近い環境で、できる限り健康に幸せに暮らせるようにしています。

クラウドファンディングに寄付をすると、治療対象になっているムサシちゃんの近況などがメールで届きます。そして、そのサイトでは、野生チンパンジーの行動も以下のように解説されています。

野生チンパンジーの群れは、いつも一緒に暮らしているわけではありません。いくつかの小さなグループに分かれたり、その小さなグループのメンバーが入れ替わったり、あるいは仲間から離れてひとりで過ごしたりしています。熊本サンクチュアリでも、そうした野生チンパンジーの集団の特徴を生かせるよう、可能な範囲でメンバー構成を入れ替えながら小さなグループに分けたりして飼育をしています。

寄付することで、チンパンジーのことがよくわかり、より身近に感じられます。人医療のC型肝炎の治療に貢献したチンパンジーに支援の方、よろしくお願いいたします。C型肝炎に感染しているチンパンジーがゼロになりますように。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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