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【獣医師が解説】トリミング中にハサミが喉に刺さり、愛犬死ぬ...飼い主にできること

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

トリミング中にハサミが喉に刺さったことが原因で、愛犬のトイプードルが死んだことをめぐり、トリマーだった男性に対し、飼い主家族が慰謝料など約350万円の支払いを求めて裁判をしました。大阪地裁は、トリマーだった男性に39万6000円の賠償を命じたとMBS NEWSは伝えています。

元気でトリミングに行ったティファニーちゃんが死ぬ

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イメージ写真写真:アフロ

大阪府在住の飼い主が、兵庫県の宝塚のペットサロンに連れていくと、喉にハサミが刺さって縦に3センチの傷を負い治療をしましたが10日後に死にました。

筆者は、直接、このティファニーちゃんを診察していないので、8カンテレの記事から状態を推測しました。

トリミングに行ったペットサロンは、隣に動物病院があるので、動物病院にトリミングを併設した施設のようです。

飼い主からすれば、トリミング中に愛犬の様子に変化が起こるとすぐに対応してもらえるので、このような施設に連れて行く人も多いでしょう。

喉にハサミが刺さったので傷を負った血だらけのティファニーちゃんが隣の動物病院に運び込まれました。担当した獣医師の証言によりますと、

すぐさま、出血を止めるための緊急手術が行われました。ティファニーちゃんの喉の傷は縦方向に約3センチ。食道を貫通するほどのものでした。

「見たことがないような傷だった。首の骨まで到達している深い傷というのが、最終的に手術を進めていくうちに分かったという感じですね」

と証言しています。

縦に3センチもある傷なので、喉から刺さったとすると、解剖学的には、表面からいうと、皮膚→筋肉→気管→食道→頸椎です。

記事では、気管のことはなにも書いておらず、食道を貫通して骨まで達していたとなっていますので、気管はよけてハサミが刺さったことになります。気管は、首の表面になるので、少し横からになると食道の背側部にある頸椎まで達することは難しいように読み取れました。実際はどうだったのでしょうか?

8カンテレに掲載されている写真を見ると首の中央とティファニーちゃんの右側の首に濃い赤紫がありますので、この辺りが致命傷だったようです。ハサミが開いた状態で刺さったのでしょう。

トリミング中に出血はあるのか?

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以前、夕方にあるペットサロンから「耳を切ってしまって血が止まらない」と電話がかかってきたことがあります。

その犬は、マルチーズだったので、白い毛に多量の血がついていました。トリマーは懸命にティッシュで患部を押さえていましたが、マルチーズも痛いので嫌がるし、耳を振るとまた血が出るという状態でした。

耳介の外側にぐるりと血管が走っているので、そこにハサミが当たると血管を切ることになり、なかなか血が止まりません。マルチーズの子は、切られた痛みがあり、おとなしくしていないのでトリマーが止血しようとしても難しいのです。

筆者は、圧迫止血をしましたが、ジワリと血が滲んでくるので、レーザーなどを使い止血しました。抗生剤を注射して、血も拭ってマルチーズは帰っていきました。

もちろん、トリミング中にハサミで切って出血ということはほとんどありません。そして、今回、裁判になったティファニーちゃんのように命にかかわることはめったにないのです。

しかし、毛をカットするのはハサミなのでこのようなことは、絶対に起こらないとは言い切れないのです。

どうすれば、飼い主は事故に遭わないようできるか?

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治療をしていると、トリミングの後に具合が悪くなっ子がいます。ケガをしているわけではないのですが、体調を崩す子もいます。

以下の点に気をつけると事故に遭う可能性が減らせるかもしれません。

爪切りだけでペットサロンに連れていく

愛犬とトリマーの相性があるので、相性が悪い場合は他のところを探す方がいいです。たとえば、ペットサロンに行くと緊張してウンチをしてしまう、震えるなどの反応があれば、愛犬は嫌がっています。その場合は、飼い主はよく考えましょう。

長い時間、預けない

送迎があると便利ですが、飼い主が連れて行って迎えに行く方が、ペットサロンの様子がわかるのでいいです。

預ける時間が短いので、愛犬のストレスは減ります。

高齢犬になると、心臓病などの基礎疾患がある場合があるので、なるべくトリミングは控える

若いときは、愛犬はストレスに耐えられても、高齢になると難しい子もいます。

綺麗にカットしてもらわなくてもよしとする

トリマーからすれば、綺麗にカットしたいと思います。愛犬は、カットしてもらうのが嫌で動いたりすると、うまくいきません。そんなとき、無理やりはやめて、ある程度カットできていれば、大丈夫と飼い主が思うと事故が減ります。

愛犬が高齢になる時代、飼い主はどうすればいい?

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イメージ写真写真:イメージマート

トリミングに出して、愛犬の具合が悪くなることは、あまりありませんが、まれに事故があります。そして、愛犬が高齢になると基礎疾患を持っていることがあるので、トリミング中の事故が増えます。

・自宅にトリマーに来てもらう

探せば、自宅にトリマーが出張してくれるサービスもあります。筆者の飼い主で、それを利用している人もいます。

・飼い主が見ている前で、トリミングしてもらう。

飼い主がいると、愛犬がじっとしていない場合もありますが、飼い主がいる空間でトリミングしてもらう、という場合もあります。

このような場合は、預けるのも短時間ですみます。

・カットだけをしてもらう

カットしてシャンプーをしてもらうと時間がかかります。そして、シャンプーだけなら自宅でできる人もいるでしょう。そういう場合は、カットだけをしてもらいましょう。

・自宅で自分でトリミングする

綺麗にカットできないけれど、自分でされている飼い主もいます。

特に、愛犬が高齢になると、自宅でちょこちょこカットして、他の日にシャンプーするなどすれば、負担は少ないです。

まとめ

ティファニーちゃんの飼い主は、元気でトリミングに行ったのに、10日で息を引き取ったので、憤りが大きいことでしょう。愛犬は家族の一員と言われていますが、まだまだ法律的には命あるものにはなっていないのです。

トリミング中に事故に遭うことはまれですが、ゼロではないので、飼い主は気をつけて、このような事故に遭わないようにしたいです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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