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猿回し芸人がサルを叩くなどの「過激なしつけ」の動画がSNSで波紋。動物愛護の観点から考える

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

ビジネス&メディア ウォッチは、女性芸人が猿回しの練習中にサルの肩を強くつかんだり、両手で頭をグリグリしたりする様子を撮った動画がTwitterに投稿され、波紋が広がっていると伝えています。

この動画は、「日光さる軍団」が、さいたま市内で行われた出張公演をしていたときに、撮られたものです。

この動画を見たTwitterの投稿は?

Twitter上では、一時、猿回しがトレンドに入っていました。

投稿者たちのコメントは「日光さる軍団のしつけに涙出てきた」「調教は虐待」「見ちゃうと悲しくなります」などの批判的なものが多かったです。

猿回しと動物愛護の精神

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イメージ写真写真:イメージマート

現在における猿回しは動物愛護の観点からどうなのかを見ていきましょう。

日本には、動物愛護管理法という動物に関する法律があります。その法律には、以下の基本原則があります。

基本原則は、「すべての人が「動物は命あるもの」であることを認識し、みだりに動物を虐待することのないようにするのみでなく、人間と動物が共に生きていける社会を目指し、動物の習性をよく知ったうえで適正に取り扱うよう定めています。」となっています。

この法律は、全ての動物に適用されるわけではなく、愛護動物だけです。サルは愛護動物なのかが問題です。愛護動物とは以下です。

1、牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる

2、その他、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの

つまり、猿回しのサルは、人が占有している哺乳類なので愛護動物です。そのため、みだりにサルを虐待するのはNGなのです。

現代において、猿回しは必要なのか?

歴史を紐解くと猿回しは、江戸時代には、全国各地の城下町や在方に存在していたとされています。そのころには、動物愛護という精神もあまりなかったので、問題はなかったのかもしれません。

いまの日本には、動物愛護管理法というものがあります。その基本精神をしっかり考えるべきです。

そのうえ、動物行動学が、進歩してきてなにかを教えるときは、日々の信頼関係が大切だとわかってきています。たとえば、気ままとされている猫でも話しかけてコミュニケーションを取っていれば、飼い主のいうことも理解できます。

サルの場合も、コミュニケーションを取って信頼関係を築いていると、猿回しの練習中に、サルの肩を強くつかんだり、両手で頭をグリグリしたりしなくて、済むはずです。

そんなサルとコミュニケーションを取るのは簡単なことでなく、しつけの一環として、叩くなどの行為が必要だとしたら問題です。猿回しは虐待のようなことをしないと教えられない芸ということでしょうか。

もし、そうであれば、動物愛護管理法があるいまの日本には、猿回しは適用しない伝統芸能になっている可能があります。

まとめ

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イメージ写真写真:アフロ

言葉を持たない動物に配慮しようという考えは、巡り巡って人間社会に戻ってきます。動物のことに思いを寄せることは、人間同士も他者に配慮できる社会になるのではないでしょうか。

サルに芸を仕込むのはあくまでコミュニケーションをしっかり取った後に、遊びの延長であってほしいです。Twitterの動画を見ると、猿回しのしつけは今回のような虐待やそれに近い事柄は日常的にあったのでは、と懐疑的になってしまいます。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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