高齢者から「現在若い猫を3匹飼っています。どうしたら」と相談。獣医師が伝える過酷な現実とは?
高齢者が猫を飼うことで、元気になり癒やしになることはよく理解できます。その一方で、80歳を過ぎた高齢者が、3、4歳の猫を飼っていると終生飼養の面で困ったことが起こる可能性があるのです。今日はそのことについて、見ていきましょう。
「20歳の子は看取ります」とIさん
80代の飼い主のIさんは、猫好きなのでずっと飼っています。自宅に庭がありそこに猫がやってくるので、飼い続けているようです。
現在、筆者が治療をしているI家の猫の1匹は、20歳で口腔内に腫瘍ができていて、舌が左に曲がり時おりよだれに混じって血が出ます。
「この子は、20歳なのでちゃんと治療して看取ります。先生、相談なんですが、それ以外に、うちには、まだ3匹、猫がいます。その子たちをどうしたらいいかと悩んでいるところなんです」とIさんから相談されました。
「残りの3匹は、飼うつもりはなかったけれど、庭にいついてしまってついつい家に入れてしまったのだ」とIさんは説明しました。
「数年前に、先生に避妊手術をお願いしました子たちが残りの猫です」とIさんが言いました。
そういえば、避妊手術したことがあったなと思い出してI家のカルテを見返しました。避妊手術した子は2匹なので、それ以外にまだ去勢手術をしていない雄の猫が1匹、Iさんのところにいるそうです。
「親戚で飼ってくれる人はいないのですか」と筆者は尋ねました。Iさんは、弟さんと一緒に暮らしている様子ですが、奥さんもすでに亡くなっていて、親戚にも猫を引き取ってくれるところはないそうです。
「無料でとは思っていません。お金がいるのでしたら、それは払います。すぐにというわけではないですが、心づもりをしておいてもらえますか」とIさんに託されました。
「猫を引き取ります」はあるのか?
筆者は、ネットで実際に猫を引き取ってくれるところがあるのかを探してみました。Iさんが大切にしている猫であり、その後、幸せに暮らしてもらいたいので、もちろんどこでもいいというわけではないです。
信頼できる動物保護団体は、どこも満杯でそう簡単に猫を引き取ってくれそうではありませんでした。
「どんな猫でも引き取ります」というサイトを見ると、33万円からということになっていました。Iさんのところには、全部で3匹の猫がいるので、ここだと100万円ぐらいはかかることになり、現実的ではないです。もちろん、3歳の猫だと、一般社団法人ペットフード協会によると2022年猫の平均寿命が15.62歳なので、後13年は生きる計算になり、そのぐらいの料金になるのは、当然かもしれません。
筆者の動物病院には、複数の動物保護団体の人が来ているので、その人たちに相談していて、I家の若い猫をどうするか検討している最中です。
このように動物保護団体に関係がある人は、高齢者になって自分の健康状態がよくなくなってきたときに、次の里親を探すことができるかもしれませんが、現実的には、なかなか難しいのが問題です。
まとめ
ネットにあまり詳しくない高齢者が、自分自身で里親は見つけられるのか、そのうえ、高齢者は年金受給者が多く、高額の引き取り料は払えるのか、などと高齢者が若い猫を飼い始めると課題は山積みです。
猫の平均寿命は、約16歳になっているので、高齢者が猫を終生飼養することが難しい時代になっています。孤独のために猫を飼いたい気持ちは理解できますが、猫の終生飼養を考えると安易に飼えない時代なのです。自分がなにかあったときに、次に飼ってくれる人は見つけてからがいいです。猫が長寿になると、このような問題も出てくるのです。