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猫サブスク「ねこホーダイ」に断固反対。獣医師が本気で訴える5つの理由

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

猫の保護を行っている「のら猫バンク社」が12月15日から開始した猫のサブスク事業「ねこホーダイ」が、大炎上しています。

このサービスは、月額380円の会費さえ払えば、提携する保護猫シェルターが保護・飼育する猫を審査やトライアルなしに譲渡してもらえるというのです。

猫をもらうのも返すのも費用負担0円で行います。「人と猫をつなぐプラットフォーム」をうたっています。いままで高齢者や単身者は、保護猫を飼おうと思ってもなかなか譲渡してもらえませんでした。しかし、このシステムは、最後まで面倒を見切れない責任を、誰かが代わりに負える仕組みだといいます。

「ねこホーダイ」の何が問題なの?

このサブスク事業に一番欠如していることは、猫は生きていて命があるものだということです。

ぬいぐるみなら大丈夫なのですが、猫は心もある動物なのです。確かに、コロナ禍になり多頭飼育崩壊が多く起こっていて保護猫シェルターは、どこも満員なのに、そんなきれいごとを言っても仕方がないと考えている人もいます。猫はいまや平均寿命15年ぐらい生きる動物なので、よく考えて飼育してください。

毎日、猫の臨床をしている獣医師としてなぜ、このシステムがよくないのかを説明します。

獣医師が断固反対の理由

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猫には心がないのか?

「ねこホーダイ」に登録された猫は、飼い主がコロコロと変わる可能性があります。ひどい場合は、一週間で変わることもあります。飼い主が「なんか、この子、なつかない。かわいくない」と思うと服を着替えるように、猫を取り換えることもできるのです。

猫には、感情があります。つまり心があるのです。たとえば、猫は、飼い主が忙しい、不幸にして亡くなるなどがあれば、食欲がなくなったり、下痢をしたり、必要以上に毛づくろいをしたりするのです。飼い主がいればいいというものではないのです。

猫は家に付く(環境の変化が苦手)

昔からあることわざで「犬は人に付く、猫は家に付く」といわれています。猫は、自分の周りの環境の変化が苦手な動物なのです。模様替えも苦手だし、もちろん引っ越しは猫に多大な負担を与えます。実際、引っ越し先に連れて行ったらいなくなり、元の家に近いところに戻ったという猫もいます。それほど猫にとって、環境変化は得意ではないのです。

「ねこホーダイ」だと飼い主が変わることが多くあるので、家つまり環境が変化するということです。飼い主が変わる度に、猫にはストレスがかかります。病気になりやすいです。

猫はトイレに敏感

猫の飼い主はよく知っていますが、猫はトイレに敏感です。どこでもトイレがあればいい、という猫だけではないのです。砂、トイレの形が気にいらないと、猫は排泄をしないこともあります。

そして、猫はオシッコが出ない、結石がたまる、血尿などの下部尿路症候群になることがよくあるのです。飼い主がかわる度に、トイレもかわるのでこのような病気のリスクが増えます。

戻された猫の治療はどうなるの?

「ねこホーダイ」のシステムだと、猫が病気になり飼うことが無理になり、戻された猫は、治療をしてもらえるのでしょうか。

高齢者の多くは年金暮らしの人が多く、たとえば、猫ががんや慢性腎不全になると治療費が嵩むので、飼うことを放棄する人がいると思います。その場合は、戻されることもあると思います。

そのときは、適切な治療をしてもらえるのか疑問です。食事の提供はしてもらえますが、対症療法しかないので、猫の治療はしないということになりそうです。

猫は病気や老いになると、たらい回しにされそうで心配です。

猫が虐待に遭わないの?

「ねこホーダイ」は、猫を譲渡・保護するときに、飼い主の審査やトライアルをしないということなのです。

残念なことに、人間の中にはある一定数、猫を虐待する人がいるのです。猫は譲渡されてしまい室内飼いなら、逃げることができません。そういう目に遭わないように、一般的な保護猫団体は、審査してトライアル期間を設けるのです。保護猫シェルターが一杯なので、猫が虐待に遭ってもいいということはないです。

まとめ

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「ねこホーダイ」のサイト保護猫一覧を覗いたら、泣きそうになりました。猫には、名前がなく「ニャンバー」というふざけたネーミングで番号をつかられて、写真の下にニャンバー0003オス/仔猫/ふつうねこ、ニャンバー0008メス/仔猫/ちびねこという感じです。猫に対する愛情が感じられずショックでした。

このような感覚の会社が世の中に認知されているのです。ITmediaビジネスは、運営元の「のら猫バンク」は、動物保護施設(シェルター)の運営などを手掛ける企業で、2022年4月、東証のスタンダード市場に上場している中小企業ホールディングス(東京都千代田区)が設立した100%子会社と伝えています。

こんな大企業が、この「ねこホーダイ」のシステムになんの疑問を感じないというのは驚きです。このシステムは、ひとりの人の思いつきで作ったわけではなく、組織で作ったサブスクです。そのなかの誰もがこれはおかしいと思わなかったのですから。

まだまだ日本では、猫は命あるものというあたり前の感覚がないことを思い知りました。猫はぬいぐるみではないのです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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