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ペットをクリスマスプレゼントに買う前に知ってほしい、最愛のペットが18歳の元野良猫ということも

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

クリスマスやお正月が近づくこの時期、ペットショップの店頭には多くの可愛い子猫や子犬たちが並んでいます。ガラスのケージにフワフワのぬいぐるみのように置かれているペットを迷いもなく買う人もいます。

ペットはペットショップやブリーダーで求めるものだと思っている人も多いかもしれません。今日は、そのようなこととは、縁遠い元野良猫の現在18歳のさつきちゃんのケースについて紹介します。

さつきにもしものことがあれば、お父さんが...

撮影は筆者 18歳のさつきちゃん
撮影は筆者 18歳のさつきちゃん

18歳になったさつきちゃんは、毎週、慢性腎不全と甲状腺機能亢進症のために来院します。

猫の平均寿命が約15年なので、さつきちゃんはずいぶん長生きです。飼い猫が長生きということは、多くの場合は飼い主もそれだけ年齢を重ねます(たまに、飼い主が何人も代わることがありますが)。

Oさん家では、初めはさつきちゃんをお母さんが連れてきていましたが、歩くのが不自由になり電話でさつきちゃんの容態を説明するだけになりました。実際に連れてくるのは、高齢者のお父さんです。

さつきちゃんのお母さんが「さつきに、なにかがあったら、お父さん、生きていけないので、ちゃんと診てほしいです。私たちは、もう高齢だから難しいことは、できないから、先生が言った通りに連れていくから」と強く言われました。

このような経緯があり、さつきちゃんの血液検査をしたら、上述の病気が見つかったのです。

さつきちゃんは、どうやってOさん家に来たか?

Oさんのところは以前はミックス犬を飼っていました。柴犬ぐらいの大きさの女の子でした。その犬は、庭にいることが多く、そこには野良猫もやって来ていました。

さつきちゃんの母猫は、子猫を連れてOさんの家の近所を回っていたようです。

Oさんは、野良猫が子猫を産んだのだなと思っていたら、ある日、さつきちゃんだけが庭に置き去りにされていたのです。それ以来、さつきちゃんを産んだ母猫は、姿を見せなくなったそうです(ここなら、ちゃんと飼ってくれると思って母猫が置いていったのでしょう)。

野良猫の子どもだったさつきちゃんは、ミミダニもあり、猫の感染症である猫ウイルス性鼻気管炎にもなっていましたが、Oさんの愛情の下で世話をしてもらいスクスクと大きくなりました。

ただ、耳が悪くなることが多く、性格がそれほどおっとりしていないさつきちゃんは、激しく耳を掻くので耳血腫という病気になり、右耳がスコティッシュフォールドのように垂れています。

さつきちゃんの写真を見てもらうと、耳が垂れていることから、さつきちゃんが何度も耳を患ったことがわかります。18歳になったさつきちゃんは、歯もだいぶん抜けていますが、まだまだ眼光は鋭いです。

さつきちゃんは、なぜ元気で長生きなのか?

さつきちゃんは野良猫の子どもなので、人工的に交配させた動物ではないことも大きいです。野良猫の場合は、先天的な疾患があれば外で生きで生きていけないので自然淘汰されることが多いです。もちろん、赤ちゃんの時期に人間に保護されることはありますが、さつきちゃんは、生後2カ月ぐらいにOさん家にやってきましたので、それまでは野良猫の母猫が育ていました。

ペットショップで、子犬や子猫を買い求める人は、病気を持っていない子がいいと思っているかもしれません。元野良猫だったさつきちゃんのように猫ウイルス性鼻気管炎などの猫の感染症を持っている子もいます。この病気は、猫ヘルペスなので、一度かかると、ヘルペスウイルスは治療後も神経叢に潜伏していることもあります。

しかし、いまや獣医学が進歩してきているので、さつきちゃんのように長生きする子もいるのです。Oさん家の素晴らしいところは、猫や犬の異変をすぐにわかることです。「なにかおかしい」「いつもと様子が違う」ということを感じて、すぐに筆者の動物病院に連れてきます。

Oさん家はインターネットで調べることはしないのですが、そのように猫や犬の異変を感じたときに、すぐに連れてくるという行動をすることで、さつきちゃんが元気で長生きできるのでしょう。

元気といっても慢性腎不全や甲状腺機能亢進症を持っているのに、と思われる人もいるかもしれませんが、どちらも初期なので、内服薬で済んでいます。さつきちゃんのお母さんから「夜、よく鳴くようになった」と言われて血液検査をしたら、甲状腺機能亢進症が見つかりました。早期発見できたのは、さつきちゃんのお母さんが、微妙なことも見落さないで筆者に伝えたおかげです。

クリスマスやお正月にペットショップで猫や犬を買う前に

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イメージ写真写真:イメージマート

ペットショップで売られている子猫や子犬は、ぬいぐるみのようにフワフワとしているかもしれません。そして、彼らが売られているケージは多くはガラス張りでライトが当たっていてキラキラしているでしょう。

それで、思わず「可愛い」と思って買い求めてくるのでしょう。その気持ちはわかります。この記事のさつきちゃんは、写真を撮ろうとすると媚びることなく「なにをしているの。早く帰りたいの」とガンを飛ばしているように見えます。

しかし、このさつきちゃんは、Oさん家の宝物なのです。雨の日も寒い日もさつきちゃんのお父さんは、さつきちゃんに何かあればすぐに動物病院に連れてきます。18年間、Oさん家で共に暮らして無言で愛情を示してくれたさつきちゃんなのです。

まとめ

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イメージ写真写真:イメージマート

野良猫や保護猫だって、こんなに長生きする子がいます。

さつきちゃんは、ニャと鳴くだけかもしれませんが、人間以上のいや人間ではおよびもつかない能力を持ち合わせてお父さんの傍らにいて、Oさん家に癒やしや温かさを提供しています。共に生きていることで、さつきちゃんはOさん家の大切な存在になっているのでしょう。

ペットショップやブリーダーだけでないペットを迎え入れる選択肢も、検討してみるのはいかがでしょうか。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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