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【これが命の教育?】猛暑の中、小学校でウサギがネグレクト状態で飼育されている矛盾

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:アフロ)

夏休みになり、コロナ感染者が増えているので、子どもたちは家で過ごす時間が増えています。子どもが成長する過程に、「動物とのふれあい」は大切なのだろう、と多くの人は考えています。

いまの時代に学校で「動物とのふれあい」について教育するには、どのようにしたらいいのかを考えてみましょう。

小学校のウサギ飼育の現実

埼玉県の東松山市立の小学校の校舎脇に、ウサギ小屋があり、野外では過酷な状態になり6月下旬には、暑さのためか1匹が死んでしまったと、朝日新聞が伝えています。

このような状態で、ウサギは子どもたちの教育のために飼われているのです。小学校で、ウサギにとっての適切な飼養環境というものが理解されずいることに、驚愕します。

ウサギにとっての適正な温度とは?

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イメージ写真写真:イメージマート

ウサギにとっての適正温度は室温15~25度程度です。

ウサギは暑さに弱く、どちらかというと寒さに強い動物です。いま、ペットになっているウサギは、アナウサギを品種改良したものです。野生のアナウサギは寒さに比較的強いといわれます。

野生ではウサギは地下に巣穴を作ってその中で暮らします。巣穴の中は夏涼しく冬は暖かいので、夏の暑さや冬の寒さをしのぐことができるのです。

上述の埼玉県の小学校のウサギは、野外の小屋で飼われていますので、ウサギにとっての適正な温度になってなかったのでしょう。

ウサギにとって適正な飼育湿度は?

ウサギにとっての適正な湿度は、年間を通して50%ぐらいです。

湿度が高いとケージ内に細菌が増殖して不衛生になります。また高温多湿だとウサギは、体調を崩します。極度な乾燥は、皮膚病をまねくこともあります。

ウサギのとっての適正な飼養環境とは?

外気温が40度以上になる、この夏、外でウサギを飼養することは、ある意味の虐待です。

この夏を、ウサギが快適に乗り切るためには、エアコンなど冷房機器をフル活用することが大切ですね。エアコンで室温を25度にすることは、難しいですが、高くても28度以上になることのないように注意を払いましょう。

学校飼育動物はどのようにすればいいのか?

命の教育の大切さよくわかります。それでは、学校飼育動物はどのようすればいいのでしょうか。

適正な飼養環境を理解する

この夏、動物福祉の観点からみれば、外でウサギを飼っていること自体が、ある意味で虐待行為にあたるかもしれません。ウサギの適正な飼養環境とはなにかを勉強してもらいたいです。

ウサギも人間と同じように、適正な温度と湿度の下ではないと熱中症になります。そのことを忘れないでほしいです。

飼い主をはっきりさせる

学校飼育動物は、学校で飼われています。飼い主がはっきりしていません。たとえば、校長先生が飼い主ということにすれば、夏の暑い時期は自宅に連れて帰って飼養してもらえると思います。

学校飼育動物は病気やケガもする

もちろん、ウサギも生きているので、病気もケガもしますが、そのときもすぐに動物病院に連れていってもらいたいものです。

筆者のところに、学校飼育動物のウサギが来院したときは、ウサギの治療費の予算がついていないので、連れてきた人が自腹ということでした。

最後に

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イメージ写真写真:イメージマート

日本を震撼させた神戸連続児童殺傷事件を機に、動物への暴力に関する取り決めや、子どもたちの教育に動物とのふれあいを通して命の教育をした方がいいのではという動きが活発になりました。

ウサギなどの小動物に触れることで、命の大切さや脆さやはかなさなどを感じることができるかもしれません。

獣医師という立場からいつも感じることは、学校で飼われるウサギなど小動物たちが幸せな環境、つまり動物福祉が満たされた状態があり、そのうえで、子どもの教育があることが大切ではないでしょうか。

子どもの教育ということであれば、まるで道具のようにウサギを飼養するのではなく、ウサギのとっての適正な飼養環境があり、そして子どもたちへの命の教育があるのが正しい方向でしょう。

学校で飼育されているウサギも犬や猫と同じ愛護動物です。学校飼育動物といえどもネグレクト状態でない飼養をしてもらいたいです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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