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回って毎回、「お前、誰?」という顔をする愛犬を「かわいい!」と言える飼い主から学ぶこと

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
こばさん @kobakoba_1925 より

犬の2021年度の平均寿命は、一般社財団法人ペットフード協会によりますと14.65歳までになっています。

コロナ禍でペットの存在が注目されています。その一方で、犬の場合は約15年生きることを念頭におかないと、犬も飼い主もつらい思いをすることがあります。

くるくる回って毎回、「お前、誰」という顔をする愛犬を「かわいい」と思える飼い主のこばさんのツイートが話題になっています。

今日は、シニア犬ソラちゃん(ボーダーコリー)のくるくる回ることから「認知症」について考えていきましょう。

認知症と診断されたソラちゃん

上記のツイートは、3万件のいいねと1387件のリツイート(3月8日現在)です。

投稿主のすばらしいところは、認知症になってくるくる回って飼い主に「お前だれだっけ」という顔をする16歳の愛犬のソラちゃんのことを「かんわいいぃぃい」と投稿していることです。そして「毎回初めまして」も好きと投稿できるおおらかさです。

筆者の動物病院にも数多くの認知症の犬が来院します。飼い主に「認知症ですね」と伝えると、一般的には飼い主は、困った顔や不安な顔をされます。これから訪れる世話や看病に、戸惑いを見せる人が多いのです。

犬は、約15年以上生きるようになると、もちろん「認知症」にもなるのです。そんなときに、その病気を含めて「愛おしい」といえるこばさんの懐の深さに感謝します。

ツイートへのリプライの中には、温かいものが多いです。紹介しますと、「前向き発言。可愛い可愛いして楽しんで下さい。色々大変な事もあるけど老犬は本当に可愛いです」「高齡ですね。でも、いくつになっても可愛いです。最後まで大事にしてあげてくださいね」「毎回初めまして素敵な考え方です。きっとソラさんは、こばさんの事を「初めてなのにめちゃ可愛がってくれる」と思っているのですね」など数多くの心ある言葉が投稿されています。

ツイートしている人の中には、愛犬が認知症になりしっかり看病をして看取った人もいます。

現実に、こんなにシニア犬のことを理解してくださっている方がいることを知ることができ温かい気持ちになりました

ある動物管理センターの嘆き

現実問題として、認知症の犬に対して「愛おしい」「かわいい」と思える人ばかりではありません。

ある動物管理センターの相談を見ていきましょう。

「認知症なのか、夜鳴きする柴犬」の相談があったそうです。動物病院に数件ほど行ったけれど、それほど親身になってもらえなくて「高齢だからね」と言われて終わったのでどうしたらいいかという相談だったそうです。

認知症の犬の問題点

シニア犬の全てが、認知症になるわけではありませんが、寿命が延びたので、ソラちゃんのように認知症になる子もいます。

犬(猫)の認知症は、いまのところ治ることはなく、症状を抑えることしかできません。

以下のことは、薬で落ち着く子もいます。

夜鳴きする

夜になると、動きだしてあまり寝ない

「飼い主がどうしたいか、どこまで治療をしたいのか」と具体的に獣医師に説明して、相談しながら治療をすることが大切です。

どの薬がどれぐらい効果があるのかは、その子によって違うので飼い主の思うようにいかないことが多いです。

そのうえ薬代もかかります。基本的には、体重によって違うので、小型犬より中型犬や大型犬は高価になります。

くるくる回り出したら次に来る課題とは?

くるくる回るのは、認知症の最終段階ではありません。心臓や腎臓などが比較的健康な子は、以下のように進んでいきます。

・くるくる回って、部屋の隅に頭を突っ込んで後ろに戻ることができず鳴き出す

・くるくる回っているが、後脚の踏ん張りが弱くなり倒れて鳴き出す

・起き上がることができず、鳴き出す

・夜になると、ずっと動いている(昼間は寝ている)

・一日中、あまり眠らず鳴く

・認知症ではなくても、オシッコなどを漏らしてオムツ生活になる

上記が多い症例です。

認知症は、月単位、あるいは年単位になることもあります。だんだんと飼い主が睡眠不足になるので、飼い主の気持ちも不安定になります。そんなときでも、シニアの愛犬に「愛おしい」と思える心の余裕を持つことが大切です(なかなか難しいですが)。

こう書くのは簡単ですが、筆者は職場でもオムツ生活でときおり鳴く愛犬の世話には、そんなに優しい気持ちではいられませんでした。

これから、シニアの犬が増えますが、みんなでシニア犬の認知症のたいへんさをシェアして終身飼育をしてもらいたいものです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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