【猫の未来の課題】21歳のモップ君は夜中に鳴きずっとウロウロ……飼育放棄の危機か?
飼い主の猫への愛情と獣医療の進歩によって、猫の寿命は延びています。一般社団法人ペットフード協会によりますと、2021年の猫の平均寿命は15.66歳(外に出ない猫は16.22歳、外に出る猫は13.75歳)になっています。
ネコ科の動物は腎臓が弱いので、犬に比べて猫は腎不全のなる子が多くいます。愛猫家なら、猫が腎不全にかからなかったら、どんなにいいかと思っているでしょう。
今日は、腎臓病を患うことなく満21歳を過ぎたモップ君に、待ち受けていたさらなる課題を見ていきましょう。
20歳でモップ君は発病していた
モップ君が当院へやってきたのは、約1年ほど前のことになります。
モップ君は、キャリーケースの中でミャーミャーと鳴き続けていました。モップ君は、もうじき20歳になるけれど、よく食べて元気に走り回っているのですが、食べている割に太らないし、夜中もずっと鳴くというより叫んでいる感じなので来院したとのことでした。
内服などの甲斐あってモップ君は、いまはあまり鳴かなくなり、飼い主のKさんは満足されています。
この病気は、甲状腺機能亢進症でした。
シニア期の猫は、慢性腎不全だけ気を付けていれば大丈夫と思っている人も多いでしょう。腎臓病さえかからなければ、猫は30歳以上生きるかもという説もありますが、現実は、そういかないこともあるのです。
猫のシニア期に発症しやすい病気のひとつである甲状腺機能亢進症とは、どんな病気かを見ていきましょう(犬の場合は、甲状腺機能亢進症より甲状腺機能低下症になることが多い)。
甲状腺機能亢進症とは?
モップ君は若い頃は、下部尿路疾患というオシッコが出にくくなる病気で数回、来院したことはあります。筆者は、管をペニスから膀胱に通して、何度か治療をしました。それから、Kさんはオシッコに結石などがたまりにくいキャットフードを選んでいました。そんなこともあり、モップ君は20歳になるまで、動物病院には、来なかったのです。
しかし、年齢の割にはよく動きまわり、よく食べるようになったので、年を重ねて元気になることもあるのだとKさんは、喜んでいたぐらいでした。それが、よく鳴くように、夜も鳴いて飼い主も睡眠不足になるくらいまでになりました。
このままだと近所に迷惑がかかるし、ちゃんと飼えなくなるかもと思って、筆者の動物病院に、数年ぶりにモップ君は現れました。
Kさんは、20歳を超える猫を飼ったのが初めてです。なにかよくないことが、モップ君に起こっていると思ったけれど、加齢のせいでどうすることもできないのでは、と考えていたそうです。
時間が経つごとにモップ君の鳴く声が大きくなるし、性格も激しくなるのでKさんは思い切って来院しました。
甲状腺機能亢進症は、血液検査で甲状腺ホルモンの量を測定すれば、すぐに診断ができます。亢進症なので、甲状腺ホルモンが基準値より多く分泌されるのです。
甲状腺機能亢進症の症状
・行動が非常に活発になる
・落ち着きがなくなりずっと動いている
・眠る時間が短くなる
・攻撃的になる
・多飲多尿(飲水量が増え、尿量が増す状態)
・異常に食欲があるけれど痩せてくる(基礎代謝が増加するため)
・頻脈
・呼吸が速くなる
治療
どのような治療をするかは、飼い主と話し合います。一般的には、内科的治療と外科的治療があります。
この病気は、シニアの子がなることが多いので、内科的治療を行うことが多いです。モップ君は、内科的治療で、抗甲状腺薬(甲状腺の働きを抑えるお薬)の投与を行います(ほとんどの猫は、一生にわたっての投薬が必要となります。量などは、血液検査で甲状腺ホルモンの濃度を測定しながら決めます)。
内服をはじめて、モップ君はときおり鳴くことはありますが、夜鳴きがなくなりました。Kさんもモップ君も、十分な睡眠時間を取れるようになりました。モップ君の食べる割に、体重が減少するということも止まりました。
残念ながら、甲状腺の機能が治ったわけではなく、抗甲状腺薬で抑えているだけです。これからもお薬を使ってしっかりコントロールしていかなくてはならない状態です。
それでも治療して穏やかになったモップ君を見て、Kさんは一緒にいれる時間が続いて嬉しかったそうです。
「モップの気性が激しくなって、以前のモップではなくなってどうしようか、と心配していたのです。よく食べ、おとなしくなってありがたいです」とKさんは、話しました。
甲状腺機能亢進症は、猫の認知症と間違えられやすい疾患です(上述したように血液検査で甲状腺ホルモンを測定すれば、わかります)。
猫が長寿になり、この病気が増えていくことが予想されます。慢性腎不全にならず他の病気にもならないで30歳まで生きる子は少ないでしょう。
このような知識も猫の飼い主が共有して猫の未来に備えましょう。