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【地域猫】殺処分の半数が幼齢猫。「捕獲器に入っていたニャンコは小さ過ぎた」その子の運命はいかに?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:アフロ)

環境省によりますと、2020年4月1日~2021年3月31日の猫の殺処分の状況は19,705匹で、そのうち幼齢猫は13,030匹です(幼齢猫とは離乳していない猫で、つまり生後1カ月までの子です)。

猫が好きな人たちの中には、殺処分数が早くゼロになるように「地域猫活動」をしている人もいます。その活動のひとつに、捕獲して不妊去勢手術をすることがあります。

こう書くと簡単に見えますが、実際に捕獲器を置くと、幼すぎる子猫が入っていることもあるのです。一度、捕獲器に入ると次回はなかなか入らないので、捕獲した子は速やかに不妊去勢手術をしたいものです。

今日は、捕獲器にエサを入れておいたら、幼すぎる子猫で、そのうえ、ひどい下痢をしていた子が入りました。その子は、その後、どのような運命をたどったかを見ていきましょう。

「TNR」とはなに?

写真:ロイター/アフロ

はじめに、「TNR」について説明します。野良猫は人間が作り出したものです。日本は野生の猫は、ほとんどいません(イリオモテヤマネコとツシマヤマネコぐらいです)。

猫は寒さに弱いので、寒空で猫の姿を見ると心が痛みます。地域にいる猫の最少でも8割を不妊去勢手術しないと、猫の数は減らないといわれています。そのための活動としてTNRというものがあります。TNRとは以下です。

Tは「Trap」で捕獲

Nは「Neuter」で不妊去勢手術

Rは「Return」で元の場所に戻す

つまり、野良猫を捕まえて、不妊去勢手術をして、麻酔が覚めると元いた場所である外に戻すことになるのです。

今回のお話の奏音(かおん)ちゃんの場合は、捕獲された当時は、生後3カ月ぐらいで離乳は終わっていましたがまだ2キロもなく、そのうえ、ひどい下痢をしていたのです。不妊手術をすると弱ります。そんな状態の悪い子をTNRすると命にかかわります。

痩せて下痢の子猫の運命は?

イメージ写真
イメージ写真写真:アフロ

野良猫を捕獲するのに、捕獲器を置いてもすぐに不妊去勢手術ができる猫だけを捕まえることができるわけではないのです。奏音ちゃんは、ひもじい思いをしていたのか、エサに釣られて入ってしまいました。

庭に捕獲器を置いたIさんは、猫が入っているので愛護団体に連絡しました。それで、愛護団体の人が見にきました。奏音ちゃんの入っていた捕獲器は下痢で汚れているし、奏音ちゃんの肛門の周りもただれていて弱々しい子猫だったそうです。

愛護団体の人は、Iさんに奏音ちゃんを飼ってあげてほしいと頼んだそうです。

Iさんのところにはすでに猫が2匹いるので、二つ返事はできなかったそうです。ずっと飼うのは無理だけれども下痢が治るまではということで引き受けることになったとか。

そんななか、筆者の動物病院にIさんから「先生、体重がどれぐらいなれば、猫の避妊手術ができますか」と電話がかかってきました。「元気であれば、一般的には2キロぐらいなればできます。よかったら一度、連れてきてもらえますか」と筆者は伝えました。

奏音ちゃんは、地域猫活動をしている人の知り合いの動物病院で、薬を処方してもらいIさんのところで、しばらく過ごしました。

筆者の前に現れたのは、去年の11月でした。元野良猫なので、それほど人懐っこいことはなく、洗濯ネットに入ってやってきました。

Iさんは「飼うかどうか迷ったんです。でも、こんな下痢をしている子猫をもう一度、外に放すわけにもいかないでしょう。飼うことにしました。うちにいる子は全部、野良猫です」と笑って話しました。

避妊手術をしたときは、甘えん坊の別の猫のように

不妊手術後の奏音ちゃん 撮影は筆者
不妊手術後の奏音ちゃん 撮影は筆者

1月の終わりに奏音ちゃんは、不妊手術のためにやってきました。Iさんに愛情を込めて育てられたので、痩せていたと思えないほどふっくりした体形になっていました。

「私、ぬくぬくとしたところで生活しています」というような顔で、筆者の前に現れました。はじめて奏音ちゃんに会ったときは、ちょっと気を抜くとどこかに逃げるという雰囲気を漂わせていました。このときは、そんなこともなく、奏音ちゃんは、ゆったりした様子で筆者の顔を見ました。

奏音ちゃんは、Iさんのところで育ててもらっている間に、一度は発情が来たようで、卵巣も成熟していました。外にいれば、妊娠していたかもしれません。

不妊手術は、無事に終わりした。当院が用意した術後服ではなく、奏音ちゃんは、Iさんが事前に購入されたピンク色の術後服を着て帰宅しました。

Iさんのうちには、10歳を過ぎた猫が2匹います。雄猫の方が、優しいのかずっと一緒にいるそうです。奏音ちゃんは、遊びたい盛りですが、先住猫たちはひたすら眠りたい時期なので、雌猫の方は奏音ちゃんに警戒しながら、暮らしているそうです。

不思議なことに、野良猫が愛情一杯の家庭で暮らすと少し太るせいか、甘えん坊になり顔も雰囲気も別の猫のように変化します。奏音ちゃんもその例です。奏音ちゃんは、寒空で、ひもじい思いをすることもなく、温かい室内で快適に暮らしています。

地域猫活動をするためには

写真:イメージマート

奏音ちゃんは、捕獲器に入ってもう少し月齢があれば、そのまま不妊手術されていたかもしれません。その場合は、TNRなので不妊手術後は、外に戻されていたのです。いろいろな偶然が重なって、いまの奏音ちゃんがいるわけです。地域猫活動をしたい人は一人でするのは、時間的にも金銭的にも難しいので、以下のようにするのはいかがでしょうか。

猫友に声をかける

動物愛護センターに相談する

保健所に相談する

これらのことをして、地域の人に声をかけて話し合いながら、猫の世話をしてあげましょう。

地域の人が、全て猫に理解があるわけではないので、じっくりと地域猫活動をするのが望ましいです。

全部の猫が、里親を見つけられないけれど、少しでも野良猫が減り、そして幼齢猫の殺処分が少なくなりますように。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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