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【獣医師の告白】野良猫は「ほとんど生き残れない」 凶暴なニャンコがいる理由は残酷な現実?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
来るなと鳴いている猫のイメージ(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

桜のシーズンですね。北の地方はこれから咲き始めますね。

いままで、外に出るのをためらっていましたが、昼間は暖かくなってきたので散歩に行く機会も増えてきました。

道を歩いていると、日のよく当たる暖かいところで、のんびりしている野良猫を目にします。「野良猫は、自由でいいな」と思っていませんか。

野良猫は飼い猫に比べて、そう長生きできないのです。それは、過酷な環境下にいる子が多いからです。野良猫で10年間も生きている子はほとんどいません。

先日、散歩中に、野良猫に引っ掻かれてけがをした犬が来院しました。猫は犬によっぽどのことがない限り危害を与えないです。筆者の動物病院には、猫と犬を一緒に飼っている人も多くいます。猫が犬を襲って外傷を負わせたケースはあまりありません。

犬に襲いかかるような凶暴な野良猫が本当にいるのか?を見ていきましょう。

散歩中に野良猫に襲われた犬とは?

写真:アフロ

筆者の動物病院にやってきた犬は、鼻先を猫の爪でバッサリと引っかかれていました。

飼い主の話によりますと、散歩中にポチ(犬の名前)ちゃんが草むらに顔を入れた途端に、猫が出てきて引っかかれたということです。

一瞬の出来事だったのですが、ポチちゃんの情けないキャンという鳴き声と、猫のゴウーという鳴き声で、飼い主は、ポチちゃんがやられたことを悟ったそうです。

「野良猫って、こんなに凶暴なのですかね? 犬に襲いかかるほど」と飼い主は、びっくりして、質問をしました。

ポチちゃんの傷は、縫うほどではなかったので、治療は、消毒をして抗生剤を注射しました。野良猫が、このように凶暴なのは、残酷な現実が隠されていることもあるのです。

残酷な現実 虐待か?

筆者の動物病院には、猫の保護活動をしている人も来院します。

ある人から印象深い言葉を聞きました。

「野良猫は凶暴な方がいいかもしれないのです。だって人懐っこい子は虐待される可能性が高いから」というものでした。

つまり残酷な現実ですが、人の中には、野良猫が嫌いで虐待する人もいる可能性が高いからです。ある地域の人が、野良猫に冷たくあたり棒で叩くなどのことをしていたので、猫がだんだんと凶暴になってきたということです。

大切にされている地域だと穏やかに生きていけるけれど、そうじゃないところは野良猫は生きていくために凶暴になる可能性もあるということを意味しています。

もちろん、虐待だけが理由ではありません。以下のような理由もあります。

雌猫が子育て中

写真:PantherMedia/イメージマート

雌猫が、子育て中で乳飲み子を育てるところに犬が入ってきたら、子猫を守るために犬に歯向かったということもあります。母猫だけなら、犬から逃げることができますが、子猫を連れていくことは無理だったので、犬を威嚇したのかもしれません。

雄猫のテリトリー

写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

去勢していない雄猫は、テリトリー意識が強いです。

自分の縄張りに犬が入ってきたことが気に入らないのです。それで、犬に襲いかかるということもあります。犬にすれば、なにか動くものがいるという好奇心で見に行った結果、野良猫に襲われることもあります。

遺伝的な要因 シャムネコ

提供:shiori/イメージマート

1970年代の血統書つきの猫の主流といえば、シャムネコやペルシャネコでした。

現在の血統書つきの猫は、比較的穏やかな子が多いですが、その頃のシャム猫は、比較的性格の激しい子が多かったのです。

その子たちのなかには、治療を嫌がって襲いかかる子も多くいたので、筆者は生傷が絶えないことが多かったです。

1980年頃にアメリカンショートヘアという子が出てきました。アメリカンショートヘアは、性格は穏やかな子が多かったです。そのため、そのミックスの猫も穏やかになりました。

つまりシャムネコの血をひいている子がいれば、襲いかかられるかもしれません。シャムネコは毛並みが特徴的です。全体的には被毛は薄い色ですが、耳、顔、足と尻尾などに濃い色の被毛がはえるのです。

このシャムネコの血をひいている子は、耳、顔、足、尻尾が濃い被毛のことが多く、わかりやすいです。

まとめ

写真:meow_creation/イメージマート

現在では、地域猫という考えを持つ人が増えています。飼い猫ではないけれど、地域の人たちで見守りましょう、という考えです。その活動のひとつに、TNRといって、野良猫を捕まえて、不妊去勢手術をして、元いた場所に帰すというものがあります。

そして、手術が終われば、不妊去勢手術をしているかどうかわかるように耳をさくらのはなびらのようにカットされるいわゆるさくら猫がいます。

その子たちなら、不妊去勢手術をしているので、子育て中とかテリトリーで凶暴になるということは少ないです。

そして、シャムネコの血をひいている子は、上記したように被毛の色でわかります。

さくら猫だし、そして被毛の色でシャムネコではないとわかるのにその地域の猫が凶暴なら、ひょっとしたら、そこは、野良猫に優しくないところも知れないのです。残酷な現実に向き合って生きている野良猫の生息地かもしれません。

自然界で、天敵のいないところで生息している地域の動物は穏やかですからね。たとえば、ガラパゴス諸島では、天敵がいないので動物が穏やかで人が近づいても逃げないといわれていますね。

野良猫が凶暴ということは、敵がいて虐待されているかもしれないという意味を孕んでいることもあるのです。そんな環境下では、野良猫は凶暴になり長生きしにくいですね。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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