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切られがちな犬のひげは「情報の宝庫」 ひげから愛犬の調子を見分ける方法は?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:アフロ)

猫のひげは、絶対に切ってはいけません。それを知っている人は多いですね。ひげは、猫の行動に役立っています。

一方、犬のひげは、人のひげのように、切ってもいいと思っていませんか? 実は、犬のひげにも重要な役割があるのです。今日は、それを解説していきましょう。

犬のひげの構造と役目

『犬の能力』より 撮影筆者
『犬の能力』より 撮影筆者

ひげの毛根には神経と血液が流れています。犬のひげは、猫と同じように気流の変動など周囲からの情報を得ている立派な触覚としての感覚器官です。

哺乳類に広く見られるひげもほぼ同じ役目をしています。平衡感覚を保ったりするのに使われています。犬は嗅覚が発達しているので猫ほどひげが重要でありません。それでもひげには役割があることは知っておいてくださいね。一方、人のひげはもちろん、感覚器官ではありませんね。

被毛とひげの違い

犬の場合は、ひげと被毛は同じように扱われていることが多いですが、被毛の根元には神経などがほとんどはないです。被毛の役割は、体を覆う役目ですね。感覚器官ではありませんね。それでも被毛はひげと同じように扱われている傾向があるので、トリミングで切られていますね。次は、トリミングについて考えてみましょう。

トリミングで切ってもらっている?

トリミングでひげを切られているのは、トイ・プードルやヨークシャー・テリアなどのいわゆる愛玩犬です。かわいさを大切にされているので、それで、ひげを処理しています。実際問題、ひげを切っても散歩もするし、家の中で走り回っていますね。だから、ひげなんていらないと思っているかもしれません。

プードルはもともと猟犬なので、森の中に連れて行き動物を見つけていました。そのため、ひげを切られて森に行くと小動物の微妙な動きが見つけにくいなどの問題があるのです。でも、日常生活で気流の動きが必要なことをしていないので、トリミングでひげを切ってもらっても大丈夫なのです。

でも犬のひげを切りたい

「うちのアイちゃん(犬の名前)の顔に、長いひげがあると、かわいくない」と思う飼い主は、多いかもしれません。どうしても、ひげを切りたい場合は、先だけにして、根本は触らないようにしてもらってください。

犬のマズル(口元など顎の部分)は非情に敏感な部分です。触れると嫌がる子も多いですね。上記のように、ひげの根元には、血管や神経があります。ひげを抜くなどの行為はやめておいてくださいね。

人の男性の乱暴なひげ剃り後のようにならないように、マズルの周りの皮膚を傷つけるのはよくないです。ひげの先だけを揃える程度にしましょう。

ひげを絶対に切ってはいけない犬は?

シニアになると、視覚、聴覚などが加齢のために、衰えます。

この時点で、ひげの役割である触覚が重要な役割をしています。シニアになってもひげの先端を触ると感じるようで、反応しますね。それは、体に外部の刺激が伝わっていることなのです。

犬もシニアになり、五感が思うように動かないときでも、触覚が少しでも残っていれば、生きやすいでしょうから、シニアの子のひげも大切にしてあげてくださいね。

ひげの豆知識 シニアは大病をするとひげは抜ける

撮影筆者 18歳の愛犬・ラッキー 短いひげ
撮影筆者 18歳の愛犬・ラッキー 短いひげ

筆者は仕事柄、診察に来た犬のひげをチェックします。

それは、年齢が若くても重篤な症状の子は、ひげが抜けて落ちてしまっているからです。体がSOSを起こすほどの状態になると、ひげにまで栄養を回す余裕がなく、心臓や脳などの生きていく上で最重要なところに栄養が回されるのです。その反対に、ワクチン接種などで来る若い犬は、立派なひげをしています。ひげが立派とは以下のような状態になっています。

・長い

・太い

・まっすぐ

弱ってくるとカーブを描く

・枝毛になっていない

大病をすると枝毛になります。完治すれば治ります。

上記のようなひげをしていれば、犬はある程度元気です。もちろんひげだけで、健康状態をチェックできませんが、ひとつの指標にもなります。シニアになると以下のひげになります。

・短い

・細い

・勢いがない

カーブをします。

・白い(白毛の子は関係がない)

人の髪の毛も加齢に伴い、白くなり細くなったりしますね。それと似ています。

まとめ

犬は自分の年齢や今日の具合がどうこうなどとは言いません。

でも、ひげを見るだけで、これだけの情報があるのです。愛犬のひげに興味を持ってみて観察してあげてくださいね。寒い時期、ストーブなどに近づきすぎてひげが焦げる子もいますので、注意してあげてください。

筆者の愛犬・ラッキーは、18歳(小型犬の平均寿命は約13歳ぐらい)で、長生きなほうです。夏が終わり体調を崩し、全く食べなくなりました。そのとき、ひげが一斉に抜けていました。もうじき、お別れなのかな、と覚悟をしました。しかし、筆者の懸命な治療の結果、ラッキーのひげは、白いものではなく、黒いものが生えてきました。ラッキーは、もう少しこの世で一緒にいてくれるって、ひげが物語っています。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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