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その尻尾フリフリは怒ってるサインです! 犬の尻尾「喜び」以外の見分け方は?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:アフロ)

犬が「尻尾をふる」と、「喜んでいる」と単純に思っていませんか? 実は、犬が尻尾をふるのは、親しみ、喜びだけを表しているのではなく、もっと多くの感情が込められているのです。

犬は人と同じように群れで生活している動物なので、犬同士や人とコミュニケーションを取るために、尻尾も使っています。口、耳、鼻、体などの体の一部を使って、自分の感情を表現するボディーランゲージというものがあります。まさに、言葉ではなく、体で感情を表すのです。その体のひとつとして尻尾も重要なパーツです。

しかし、尻尾だけを見るのではなく、それに並行してみられる他のしぐさを合わせて、犬の感情を考えてあげてくだい。常に全体の状況などを見ながら推測します。それでは具体的に見ていきましょう。

・喜んでいる 楽しい

【柴犬】嬉しすぎて思わず声が出ちゃう犬のおかえりとただいまの様子を撮影してみました

ShibaInu Yuki-chan柴犬ゆきちゃん より(飼い主さんに承諾を得ています)

「尻尾をふる」と言えば、すぐに思いつくのが、喜んでいる、楽しい、嬉しいといった感情ですね。それが上記の動画です。

柴犬のゆきちゃんの動画を見るとパパに会えて嬉しいというのは、多くの人に理解できます。それでも、体の各部分を見ると、より正確に検証できます。

(詳しい体の各部分)

・目が穏やか。

・鼻に皺がない。

・口角が緩んでいる。

・尻尾の毛がそれほど膨らんでいない。自然な感じです。

・尻尾をリズミカルにふっている。

このような場合は、喜んでいると、思ってもらっても大丈夫です。

・威嚇

撮影筆者 イラストは知人 威嚇
撮影筆者 イラストは知人 威嚇
撮影筆者 イラストは知人 威嚇するときの口、鼻
撮影筆者 イラストは知人 威嚇するときの口、鼻

喜んでいるときだけではなく、威嚇しているときも、尻尾をふります。

しかし、以下の点をよく見てもらうと違いがわかりますね。威嚇しているときは、敵がいるので自分の体をより大きく見せようとしています。そんなときは噛まれることもありますので、注意が必要です。

(詳しい体の各部分)

・目が険しい。

・鼻に皺がある。

・口角が上がっている。

・尻尾の毛が膨らんでいる(喧嘩などをするときは、少しでも自分を大きく見せるため)。

・尻尾をそれほどふっていない。

・不安、恐怖

撮影筆者 イラストは知人 犬の不安
撮影筆者 イラストは知人 犬の不安
撮影筆者 イラストは知人 不安なときの尻尾
撮影筆者 イラストは知人 不安なときの尻尾

喜んでいるときとは、尻尾のふり方や犬の様子が全く違います。体も小さくしています。「威嚇」と同様に、このようなときも噛まれたりするので、犬をよく観察してから近寄ってください。

(詳しい体の各部分)

・視線をなかなか合わせない。

・尻尾をお腹の中に入れ込む。

・鼻に皺がよったりなかったりする。

・口角が引き締まっている。

・尻尾の毛がそれほど膨らんでいない。むしろ小さくなっている感じがします。

・尻尾は、あまりふっていません。震えている感じです。

犬の種類による尻尾の高さ

犬の尻尾の高さが種類によって異なっています。

・普段から上がっている犬

柴犬、秋田犬などの日本犬、プードル、パグなど

注意:シニアになるとどの子も筋肉が落ちるので下がり気味になります。

・普段から下がっている犬

シェパード、イタリアングレーハウンドなど

・水平の位置にある犬

ダックスフンド、ゴールデンレトリバーなど

尻尾が動かないときは?

犬は、どんなときでも尻尾をふれるとは限らないのです。以下のような病気や生理現状のこともあります。

・馬尾症侯群

脊髄神経の末端は腰椎の部分で馬の尻尾のように細かく分かれています。この部分を総称して馬尾神経と呼ばれています。馬尾神経がさまざまな要因によって圧迫を受けることにより発症する神経症状の総称のことを馬尾症侯群と呼びます。

ボーダーコリー、シェパード、ロットワイラーなどがなりやすいです。

・椎間板ヘルニア

椎間板ヘルニアは、背骨同士をつないでいる椎間板に変性が生じることで、背骨の中にある脊髄を圧迫する病気です。これになると、歩行困難、痛み、排尿困難などになります。

胴長の犬に多くダックスフンド、コーギーなどがなりやすいです。

・その他の脊椎の疾患(腫瘍、交通事故や落ちたりして痛める)

犬同士で遊んでいて、腰の辺りを打ったり、もちろん、腫瘍などができたりすれば、尻尾をあまりふらなくなります。

・肛門嚢炎、肛門周辺の疾患

尻尾の下にある肛門が疾患になると動かさなくなります。もちろん、その辺りを触ると痛がって怒ります。

・加齢

シニアになると尻尾の周りの筋肉が薄くなるのか、あまり尻尾をふらなくなります。一般的に怒りっぽくなり、喜ぶことが減ります。それが、年齢を重ねるということなので、理解してあげてくださいね。

コミュニケーション以外の尻尾の役目

尻尾は、コミュニケーションだけのために使っているわけではないのです。以下のときも尻尾は大切な役目があります。

・走るときにバランスを取る

ボーダーコリーなどの牧羊犬は、走って羊を集めます。そのとき、よく観察していただければ、尻尾を風になびかせて、バランスを取っています。

・ニオイの拡散

犬などは、肛門の辺りにニオイ袋があります。診察中でも、治療を嫌がる子は、このニオイ袋から独特な人に取っては嫌なニオイを出して、逃げます。犬は人より嗅覚が優れているので、尻尾を振ってこの二オイを他の犬に知らせています。

まとめ

筆者の仕事は、犬の気持ちを読み解くことも大切です。

そのため、待合室や診察室に入ってくる犬の尻尾を事前に観察してから、診察に入ります。ワクチン接種などで健康な子は、尻尾を大きくふっています。重篤な子は、尻尾さえも動かしません。「尻尾は、口ほどに物を言う」ようですね。人は、相手に好意を持っていることを伝えるのは、言葉にしなければいけませんが、躊躇してなかなか思いを伝えられないとき、尻尾があれば簡単に表すことができるのに、と思うのは筆者だけでしょうか。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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