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ペロペロと猫が自分や相手の体を舐めるのは何のため? しない場合は病気の危険性も

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
ねこナビ編集部のTwitter より、ぶるるちゃんとべるるちゃん

窓越しの光が心地よい季節になってきました。

日向(ひなた)ぼっこをしながら、毛繕いをしている猫を見ていると、ゆったりしてきますね。SNSで人気のベルを鳴らす猫の「ぶるる」ちゃんと「べるる」ちゃんの動画を見ながら、今日は、「猫の毛繕い」の秘密を探ってみましょう。

なぜ猫は毛繕いをするのか?

なぜ、猫はあんなに懸命に毛繕いをするのか?を見ていきましょう。以下のような理由です。

・体を清潔に保つ

一番の理由は、猫の体を綺麗にすることです。

猫は単独生活の動物なので、自分の体からニオイをさせないようにしています。犬は群れを組んで生活する動物なので、猫ほど毛繕いをしません。この点は大きく違うところですね。

毛についたほこりや汚れを懸命に舐めて清潔にしています。

・被毛により快適な体温を保つ

被毛に空気が含まれていると、ダウンやふんわりした毛糸のセーターを着ているような作用があります。

もふもふした毛の子、つまり長毛種(ノルウェージャンフォレストキャット、ラグドール、ペルシャなど)は、毛玉があったり毛がくしゃくしゃになったりしていると空気を含む量が減るので、断熱効果が薄くなりダイレクトに寒さが身にしみます。

反対に暑い日は、毛に唾液をつけることで発汗作用の働きもあります。猫には、人のように汗腺がほとんどない(肉球のところにあります)ので、このような行為で唾液が汗のような役目を果たします。猫の毛繕いは快適な体温を保つための手助けにもなっています。

他の猫に毛繕いされるということは?

猫は、生まれた落ちた瞬間から母猫に毛繕いをしてもらっています。

生まれたときは、胎盤などがついていて毛が濡れていますが、母猫が舐めて毛をふっくらと乾燥させてくれます。このように自分ではなく、他の個体によって毛繕いされることは、「アログルーミング」(他個別グルーミング)といいます。反対に自分ですることは、「セルフグルーミング」(自己グルーミング)といい区別しています。

このようなアログルーミングは、一緒に育った猫同士で社会的なきずなが育つと起こる行動です。「ぶるる」ちゃんと「べるる」ちゃんは、どちらも保護猫同士で兄弟ではありませんが、信頼関係があるので、毛繕いをするのですね。

この動画を見ると、なんとも心地よさそうですものね。人でも背中など手の届かないところを他の人にかいてもらうのと同じようなものです。

診察が終わった後に、なぜ懸命に毛繕いをするのか?

筆者は、獣医師なので診察を終えてキャリーケースに入った猫の様子を観察します。そのとき懸命に毛繕いをしている子をよく見ます。これは、なぜなのでしょうか。以下のような猫の事情があるのです。

・他のニオイを取るため

診察をする前は、猫自身のニオイとそこの家族のニオイで包まれていたのに、筆者が触診したために、私のニオイを猫に移したことになるのです。それで、注射などをする人のニオイがついたことが嫌で懸命に取り除くのです。

猫は知らない人の移り香を好まない傾向があります。

臨床家の立場から言わせていただくと、診察の後に懸命に毛繕いする子は、あまり重篤な状態ではありません。ニオイを気にするぐらいの元気が残っているということです。命の危険がある子はそれどころではなく、診察後、毛繕いをしないことが多いです。

うちの子は、ずっと毛繕いをしているけど大丈夫?

猫が毛繕いをするのは、日常よくある行動です。しかし頻度が問題です。

起きている間ずっとしている場合は、以下のようなことがあるかもしれません。

・精神的にイライラしている

猫に不安があったり、ジャンプをしようとして失敗したりしたときに照れ隠しで懸命に毛繕いをすることがあります。このような行動は、転位行動と呼ばれています。

デリケートな子は、新しい猫が来て不安になり、毛繕いの時間が増えたりする子もいますので、その場合は、飼い主がその子とスキンシップの時間を多くとってあげましょうね。

・舐めている部分に痛みがある

内臓に痛い部分がある場合は、そこを仕切りに舐めたりもします。

たとえば、膀胱などに結石がある下部尿路疾患を持っている子は、懸命に腹部を毛繕いするケースがあります。よく観察すると、腹部の膀胱の付近の毛が全くない子もいます。

全体に毛繕いしているのではなく、一カ所だけを懸命にしている場合はそのあたりに疾患があるかもしれないので、気になることがあれば、かかりつけ医に相談してくださいね。

換毛期の毛繕いの注意点

一般的に換毛期は年に2回あります。

冬毛と夏毛に抜け替わる時期です。そのとき、猫自身の毛繕いだけでは間に合わないときもあります。猫が毛を食べてしまうと、毛球症という病気になることもあります。毛が消化器に詰まるものです。そのようなトラブルにならないためにも飼い主がその時期にまめにブラッシングしてあげることをおすすめします。

うちの猫は、毛繕いをしないけれど大丈夫?

猫は本来、毛繕いをする動物です。それをしない場合は問題があります。

・口腔内にトラブルがある

猫は、犬より口腔内にトラブルが多いです。いわゆる猫エイズ、猫白血病、猫カリシウイルス感染症などは口内炎などがあるので、口に痛みを持っている子は、あまり毛繕いをしません。その他に口腔内に扁平上皮癌などの癌のある場合もあります。これらのような子は、口の周りを触ることも嫌がります。

・体がしんどい

シニアになり体力や気力が無くなってくると、毛繕いをしなくなります(口腔内にトラブルがない場合でも)。その他に猫に多い慢性腎不全などの慢性疾患を持っている子も体がだるいなどあり、毛繕いをしなくなります。

この記事を読まれて、そういえば「うちの子、毛繕いしないな」と思われた飼い主は、かかりつけ医と相談して血液検査などをした方がいいのかもしれませんね。

まとめ

愛猫には、元気で長生きしてもらいたいですね。

「なぜ毛繕いをするのか」の行動学の知識を持っていただくと、猫の下部尿路疾患などの病気の早期発見ができたりします。多頭飼育をしている場合は、「ぶるる」ちゃんと「べるる」ちゃんのようにアログルーミングしていると親密な関係性などがわかって興味深いですね。

猫をただかわいいと眺めているだけではなく、よく観察して体の異変などに気がつく飼い主になってくださいね。

※動画や写真は「ねこナビ編集部さん」の許可を得て、掲載させていただいています。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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