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マダニで日本紅斑熱に感染した女性が死亡... ペットの飼い主が注意すべきことは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:アフロ)

この夏、コロナ禍で3密を避けて、山に行く人も多いと思います。茹だるような暑さの中でも、野山でハイキングや散歩をすると、心躍りますね。

新型コロナウイルスに感染するリスクは少なくなりますが、いまは里山にはマダニがいます。マダニに咬まれると人もペットも命にかかわる疾患があります。今日は、マダニが媒介する疾患についてお話をしましょう。

 千葉県は15日、君津市の無職女性(85)が、右足首をマダニに刺され日本紅斑熱に感染し、14日に死亡したと発表した。日本紅斑熱による県内の死者は、2006年に国の感染症集計システムが導入されて以来、初めてという。

 県によると、日本紅斑熱は、野山や畑に入り病原体を保有したマダニにかまれると感染する。女性は、8月3日に37度台の熱が出て、6日に木更津市内の医療機関を受診。11日に別の医療機関に救急搬送され入院したが、回復しなかった。入院時はショック状態で、意識障害があったという。

出典:マダニに刺され感染 日本紅斑熱で女性死亡 君津市

日本紅斑熱は、マダニが媒介する病気です。これはいまのところ人にしか感染しないので、これは人の専門家に任せます。

まずは、マダニが媒介する人畜共通感染症を話します。

厚生労働省 ダニ媒介感染症
厚生労働省 ダニ媒介感染症

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)人畜共通感染症

(病原体)

ブニヤウイルス科フレボウイルス属の重症熱性血小板減少症候群(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome : SFTS)ウイルス

(感染経路)

・主にSFTSウイルスを保有するマダニに刺咬されることで感染します。

・まれに、SFTSウイルスに感染した犬や猫に咬まれることで、飼い主が感染します。過去に野良猫を保護した人が、その猫に咬まれてこのSTFSで亡くなっています。

(人の臨床症状)

・発熱

・消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血)を主張とします。

・腹痛

・筋肉痛

・神経症状

・リンパ節腫脹、出血症状などを伴います。

猫や犬の症状は、保護した猫に咬まれたら命の危険も… 知っておきたい「重症熱性血小板減少症候群」とは?に書いています。ざっくり復習を。

(猫の臨床症状)

2019年までに 120頭のSFTS発症ネコが確定しています。

・元気・食欲消失(100%)

・黄疸(95%)

・発熱(78%)

・嘔吐(61%)

猫では黄疸が多いこと、下痢が少ないことが人と異なります。致死率は約60%と非常に高いです。

(犬の臨床症状)

以前は、猫だけがこの病気にかかって、SFTSは多くのイヌで不顕性感染すると考えられていました。しかし、 2017年6月に徳島県にて世界で初めてSFTS発症イヌが発見され状況が変わりました。

・元気・食欲低下(100%)

・発熱(100%)

・黄疸(50%)

・消化器症状(75%)

犬は、猫ほど黄疸の症状がないようですね。致死率は29%と猫より少ないです。

ライム病 人畜共通感染症

(病原体)

ボレリア菌(Borrelia spp.)

(感染経路)

日本ではシュルツェマダニがB.afzeliiとB.gariniiを媒介します。またヤマトダニは非病原性のB.japonicaを媒介します。

(人の臨床症状)

・数日から数週間の潜伏期間後に、刺咬部を中心とした特徴的な紅斑が見られます。

・発熱

・リンパ節腫脹

・関節痛

・慢性期には慢性萎縮性肢端皮膚炎や慢性関節炎などが見られます。

(犬の臨床症状)

・症状が見られることはまれです。

・元気消失

・食欲不振

・跛行や起立不能

・発熱

マダニが媒介する犬の疾患

バベシア症 犬

犬の赤血球に寄生することにより生じる溶血性貧血が原因の疾患です。

(病原体)

バベシア属原虫(Babesia gibsoni、B. canis canis、B. canis rossi、B. canis vogeli)

(感染経路)

フタトゲチマダニの未吸血成ダニ

(犬の臨床症状)

・貧血(粘膜蒼白)

・ビリルビン尿(茶色い尿)

・重症の場合は、重度の貧血、黄疸、および多臓器不全が起こり、手当てが遅れて死に至る場合もあります。

犬の赤血球に寄生することにより生じる溶血性貧血が原因の疾患です。

マダニが媒介する猫の疾患

猫ヘモプラズマ感染症(猫伝染性貧血)

(病原体)

ヘモバルトネラ・フェリス

(感染経路)

感染経路ははっきりとはわかっていませんが、以下が言われています。

・病原体を持っている蚊やノミなどに猫が咬まれます。

・猫同士の喧嘩で感染します。

(猫の臨床症状)

・貧血(粘膜蒼白)

・元気消失

・食欲不振

・呼吸が速くなります。

・重篤な場合は、命にかかわります。

病原体が赤血球の表面に付着することにより、赤血球がどんどん破壊されて貧血になる病気です。

猫から猫へ伝染するため、「猫伝染性貧血」とも呼ばれています。

マダニから身を守るために

厚生労働省 ダニ媒介感染症
厚生労働省 ダニ媒介感染症

このようにマダニに咬まれると疾患になる可能性があります。

人の予防

・長袖、長ズボンを着ましょう。

・サンダルのような肌を露出するようなものは履かない。

・防虫用のスプレーをしましょう。

ペットの予防

・ダニの予防薬があります。一般的にはスポットタイプのものです。動物病院にあるので、かかりつけ医に処方してもらいましょう。

・猫は室内飼いにして外に出さないようにしましょう。

まとめ

マダニによって感染する疾患もありますが、科学的知識を持っていると防げます。

山などに行くのは、3密になりにくいので新型コロナウイルスの感染は防げます。その一方、自然の中には、病気を媒介するダニや蚊やノミなどがいるので、それらの予防を人もペットもしっかりしましょうね。

参考サイト

厚生労働省 ダニ媒介感染症

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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