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「混紡繊維」から「綿とポリエステル」を分離して衣料品「リサイクル」に貢献する技術とは。大阪大学の研究

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

 ポリエステルはリサイクルが容易な樹脂だが、自然繊維の綿と混紡されると分離しにくく、多くの衣料品が廃棄されてきた。大阪大学の研究グループは、マイクロウェーブを混紡繊維に当てて綿とポリエステルを分離することに成功した。

ポリエステルとPETリサイクル

 ポリエステルは、結合の切断(開裂)が可能なエステル結合を持ち、リサイクルが簡単にできるという特徴がある。ポリエステルの一種であるPET(ポリエチレンテレフタレート)は、リサイクル可能な素材の代表的な樹脂であり、PETボトルや化学繊維などとして使われている。

 PETの製造は、エチレングリコールとテレフタル酸のエステル化と重合(高分子量化)でなされる。一方、PETのリサイクルは、メタノールやエチレングリコールとのエステル交換により、ポリマーが結合する前のモノマー(前駆体)であるテレフタル酸ジメチル、テレフタル酸、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)にまで分解(解重合)できる。

 そのため、分解と製造を繰り返すフルケミカルリサイクルも原理的には可能だ。

 ポリエステルは、自然繊維である綿と混紡繊維にされ、衣料品にされることが多いが、従来の技術では綿とポリエステルを分離できず、再資源化できずに多くは廃棄されてきた。ファストファッションが世界的に主流になる一方、大量生産大量消費大量廃棄というのがSDGsの流れに反するファッション・アパレル業界の社会的な課題になっている。

 そのため、ファッション・アパレル業界は、様々な企業努力を続けてきた。例えば、1979年にモールデン・ミルズのアーロン・フォイアスタインとパタゴニアのイヴォン・シュイナードが開発したポーラー・フリースは、その全てがポリエステル繊維であり、PETからリサイクルで作ることができるし、リサイクルして再利用することも可能だ。

 こうしたポリエステル繊維は、環境中へ廃棄されるとマイクロプラスチック化し、生態系にも悪影響をおよぼす。なので、完全に回収し、リサイクルしなければならない素材ともいえる。

綿とポリエステルの混紡線維を分離

 ポリエステル繊維で作った衣料品は、シワができにくく型崩れしにくく、加工がしやすく速乾性に優れている。一方、綿にはポリエステル繊維にはない、肌触りの良さや吸水性・保湿性、通気性などがある。

 現在、綿とポリエステルのこうした特性を生かすため、衣料品の半分近くが混紡繊維でできていると考えられている。だが、これまで綿とポリエステルを簡単に分離することができず、それぞれのリサイクルが難しかった。

 この課題を解決するため、大阪大学の研究グループ(※)は、綿とポリエステルの混紡繊維を数分間で分離し、綿は綿として90%以上を、ポリエステルは100%分解され、前駆体である高純度(100%)なBHETとして、それぞれ回収する技術を開発した

綿とポリエステルの混紡線維を分離する技術の概略。大阪大学のリリースより
綿とポリエステルの混紡線維を分離する技術の概略。大阪大学のリリースより

 同研究グループによれば、混紡繊維に対し、安全で安価な触媒(特許上の理由から詳細は発表されていない)を作用させ、マイクロウェーブを照射することで化学反応を効率的に促進させて分離する。

 この触媒は、綿(セルロース)には作用しないため、反応液の中に綿が繊維状に残る。綿繊維を取り除いた後の反応液に対し、簡単な結晶化操作を行うことで高純度のBHET結晶を得ることができたという。

 今回の成果はまだ実験室内での分別・リサイクルのレベルであり、同研究グループは今後、さらに回収率を向上させ、産学連携で実用化に向けて研究開発を続けていくとしている。

※:大阪大学大学院工学研究科教授、宇山浩氏ら

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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