上野動物園の双子のパンダ(ジャイアントパンダ、以下、パンダ)の名前が決まったようだ。パンダといえば竹(笹も)を主食(90%以上)にすることで知られているが、パンダはなぜ竹を食べることができるのだろうか。

竹のデンプンを摂取しているパンダ

 多くの草食動物は、植物の糖質を利用する栄養吸収システムを発達させてきた。彼らの消化器官の中には、セルロース(植物繊維)を分解する酵素(セルラーゼ)を作り出す微生物が共存し、セルラーゼはセルロースをオリゴ糖に分解し、微生物は糖質をエネルギーにして揮発性脂肪酸(Volatile Fatty Acids、VFA、酢酸・プロピオン酸・酪酸など)を作り出し、草食動物はそれをエネルギーとして利用する。

 つまり、草食動物は自らの消化酵素でセルロースを分解しているわけではなく、ウサギは盲腸、ウマでは結腸、シカやウシなどでは胃といったような消化器官にセルラーゼを作り出す微生物を住まわせ、セルロースを分解する微生物からの糖質と揮発性脂肪酸、アミノ酸とアンモニア、尿素の循環システムで得られたタンパク質を栄養として吸収している。

 だが、雑食性のクマの仲間であるパンダの消化器官は肉食動物に近く、セルロースを分解する酵素を作り出す微生物を持たない(※1)。そんなパンダが、なぜほぼ植物繊維を多く含む竹や笹だけで栄養を摂取できるのか、パンダがなぜ竹を主食にできるようになったのかは長くナゾだった。

 このナゾを解く鍵として、パンダは他の草食動物とは違った腸内細菌を持っているのではないかという仮説がある(※2)。実際、パンダの腸内細菌は遺伝的に近いとされているレッサーパンダよりもクマに近く、パンダの腸内細菌は限定的で特殊な種類のものに偏っているようだ(※3)。

 例えば、竹や笹の木質部には、セルロースとともにリグニンという高分子化合物が含まれている。このリグニンは、ラッカーゼ(laccase)という酵素によって分解されるが、パンダの糞便からラッカーゼを作り出す微生物が発見されている(※4)。この微生物は、マングローブの森林にいるシュードモナス・プチダ(Psuedomonas putida)というグラム陰性桿菌の仲間で、パンダは竹を消化吸収するために消化器官内にラッカーゼを作り出す微生物を共生させている可能性のあることがわかった。

 また、パンダは、生まれてから大きくなるまで、また成獣になってからといった成長段階によって腸内細菌の活動が変化するのではないかという研究もある(※5)。これらの研究では、パンダが竹や笹に含まれるデンプンを摂取しているのではないかという。

 雨後の筍というように竹は急速に成長するが、パンダの成長を支えているのは勢いよく伸びる竹のエネルギーであり、竹の細胞壁にあるヘミセルロースやペクチン(Pectin)といった多糖類からデンプンを摂取している可能性がある。つまり、パンダが主にエネルギーを得ているのは、竹のセルロースからではないかもしれないというわけだ。

省エネのために竹を好むように?

 では、パンダはなぜ竹を選択的に食べるようになったのだろうか。

 その理由について、パンダの食性が関係しているという仮説がある。デンプンで栄養を摂取しているという研究(※5-1)では、竹はほかの植物より広く分布し、竹を食べるライバルの動物が少ない点、成長する季節によって竹の幹、根、タケノコなどでデンプンの含有量が変化し、季節に合わせてパンダがデンプン含有量の高い部位を食べることができる点などを挙げている。

 パンダは竹の葉と幹(棹)を食べるが、これらのエネルギー吸収効率を調べた研究(※6)では、幹を食べるとカロリーと植物繊維を多く摂取できるが、タンパク質は多く取れない。植物繊維の消化はエネルギーを消費させる一方、パンダは葉や若い芽(タケノコ)を食べることでタンパク質を摂取していると考えられている。

 また、中国の復旦大学などの研究者による研究(※7)によれば、パンダが竹を主に食べるようになった理由は、食欲と報酬に関する脳内のドーパミン反応の変化と関係しているという。草食動物を含む哺乳類の多くは味覚受容体の1つ、うま味受容体を作るT1R1という遺伝子を持っている。だが、パンダのDNAを調べてみるとこのT1R1遺伝子がない。

 この遺伝子変異は約420万年前に起きたと推定されているが、その頃に竹の匂いや色、食感などがパンダの食欲を刺激するようになったのではないかという。ただ、なぜそうした遺伝子変異が起きたのかについては依然としてナゾだ。

 パンダの歯や顎は、竹を食べるように特別に進化してきた。パンダの頭骨を調べた研究(※8)によれば、竹の幹の外皮を剥がして咀嚼して食べるように門歯や臼歯、下顎を適応させてきたのだという。

 また、パンダは省エネのために竹を食べ始めたという仮説もある。

 草食性や雑食性のほかの哺乳類と比べ、パンダのオリゴ糖の分解酵素の割合(36%)はヒトに近い量(37%)だったが、竹の消化効率の低さを反映してパンダは他の動物に比べ、グリコシドヒドロラーゼ(glycoside hydrolase)というセルロース分解酵素は低い(2%)のだという(※9)。

 グリコシドヒドロラーゼはセルロースなどを分解する酵素の総称で、バイオテクノロジーの第二世代バイオエタノール生産ではセルロースやヘミセルロースなどを分解し、糖に変えて利用する技術をリグノセルロース系バイオマスと呼ぶ。つまり、パンダの消化器官内ではバイオエタノールの生産に似た過程が行われている可能性があるというわけだ。

 また、野生パンダの1日の活動エネルギー(6.2メガジュール)は一般的な哺乳動物の45%でしかなかったという。さらに、パンダの内分泌活動(甲状腺ホルモン)もほかの哺乳類の46.9%から64%しかなかった。これはDUOX2という甲状腺に関係する遺伝子変異によるものと考えられるが、パンダが竹を食べるのは省エネの生理機能に関係している可能性がある(※10)。

 細菌など環境中のDNAから産業技術を開発する研究分野をメタジェノミクスというが、微生物によるセルロースの分解技術はバイオエタノールなどに利用されることが期待されている(※11)。バイオマス技術の進化はエネルギー資源利用にとって不可欠だが、パンダの腸内でリグニンを分解している微生物の機能を探ることでエネルギー問題を解決する糸口になるかもしれない。

※1-1:Zheng Yu-Cai, et al., "Analysis of Digestive Enzyme Activities in the Digestive Tract of Giant Pandas" Sichuan Journal of Zoology, 2009

※1-2:Kim C. Worley, at al., "Decoding a national treasure." nature, Vol.463, No.7279, 303-304, 2010

※2-1:E. S. Dierenfeld, et al., "Utilization of Bamboo by the Giant Panda" The Journal of Nutrition, Vol.112, Issue4, 636-641, 1982

※2-2:Guifang Wei, et al., "The Microbial Community in the Feces of the Giant Panda (Ailuropoda melanoleuca) as Determined by PCR-TGGE Profiling and Clone Library Analysis" Microbial Ecology, Vol.54, Issue1, 194-202, 2007

※2-3:Hein Min Tun, et al., "Microbial Diversity and Evidence of Novel Homoacetogens in the Gut of Both Geriatric and Adult Giant Pandas (Ailuropoda melanoleuca)" PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0079902, 2014

※3:Ying Li, et al., "The evolution of the gut microbiota in the giant and the red pandas" nature, Scientific Reports, Vol.5, 10185, doi:10.1038/srep10185, 2015

※4:Wei Fang, et al., "Evidence for Lignin Oxidation by the Giant Panda Fecal Microbiome" PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0050312, 2012

※5-1:Wenping Zhang, et al., "Age-associated microbiome shows the giant panda lives on hemicelluloses, not on cellulose" nature, The ISME Journal, Multidisciplinary Journal of Microbaial Ecology, doi:10.1038/s41396-018-0051-y, 2018

※5-2:Aishan Wang, et al., "Succession of Intestinal Microbial Structure of Giant Pandas (Ailuropoda melanoleuca) during Different Developmental Stages and Its Correlation with Cellulase Activity" animals, Vol.11(8), 2358, August, 10, 2021

※6:Hairui Wang, et al., "A Diet Diverse in Bamboo Parts is Important for Giant Panda (Ailuropoda melanoleuca) Metabolism and Health" nature, Scientific Reports, Vol.7, 3377, 2017

※7:Ke Jin, et al., "Why Does the Giant Panda Eat Bamboo? A Comparative Analysis of Appetite-Reward-Related Genes among Mammals" PLOS ONE, Vol.6, Issue7, 2011

※8:Pekka K. Vallittu, et al., "Temporomandibular joint and Giant Panda’s (Ailuropoda melanoleuca) adaptation to bamboo diet" scientific reports, Vol.11, 14252, doi.org/10.1038/s41598-021-93808-2, July, 9, 2021

※9:Lifeng Zhu, et al., "Evidence of cellulose metabolism by the giant panda gut microbiome" PNAS, Vol.108(43), 17714-17719, 2011

※10:Yonggang Nie, et al., "Exceptionally low daily energy expenditure in the bamboo-eating giant panda" Science, Vol.349, Issue6244, 171-174, 2015

※11:Ayyappa kumar Sista Kameshwar, et al., "Recent Developments in Using Advanced Sequencing Technologies for the Genomic Studies of Lignin and Cellulose Degrading Microorganisms" International Journal of Biological Science, Vol.12(2), 156-171, 2016