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「加熱式タバコ」アイコス(IQOS)の「有害性」に関する最新研究

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
喫煙所でも加熱式タバコが目立つように:写真撮影筆者

 アイコス(IQOS)などの加熱式タバコの喫煙者が増えているようだ。タバコ会社は、加熱式タバコの有害性が低いように主張しているが、それは本当だろうか。最新の研究からその真偽を探ってみた。

タバコ会社自身も認める有害性

 加熱式タバコもタバコ製品の一種で、日本ではJT(日本たばこ産業)だけが独占的に製造販売できる。フィリップ・モリス・インターナショナルやブリティッシュ・アメリカン・タバコなどの海外のタバコ会社の製品は、海外で作られたものが輸入され、許可を受けて国内で販売されている。ちなみに日本政府(財務大臣)は、JTの株を33.35%所有する筆頭株主だ。

 タバコ製品なので、日本の「たばこ事業法」などの国内タバコ関連法とタバコ規制の国際的な条約(FCTC)の縛りがあり、加熱式タバコのタバコ・パッケージの50%以上の面積に「注意表示」を表示する義務がある。日本も加盟批准するFCTCの第11条に「たばこ製品の包装及びラベル(Packaging and labelling of tobacco products)」という項目があり、タバコ・パッケージについて規制するよう締約国に求めているからだ。

加熱式タバコ3種のパッケージには、喫煙が肺がんの原因になり、心筋梗塞・脳卒中、肺気腫を悪化させ、妊娠中の喫煙が胎児の発育障害や早産の原因になり、受動喫煙には健康への悪影響があるといった喫煙者に対する注意表示が書かれている。写真撮影筆者
加熱式タバコ3種のパッケージには、喫煙が肺がんの原因になり、心筋梗塞・脳卒中、肺気腫を悪化させ、妊娠中の喫煙が胎児の発育障害や早産の原因になり、受動喫煙には健康への悪影響があるといった喫煙者に対する注意表示が書かれている。写真撮影筆者

 こうした注意表示は、タバコ会社が嫌々ながら掲げているわけではない。タバコ会社は、喫煙の危険性について、おそらく誰よりも詳しく認識している。もちろん、それは加熱式タバコについても例外ではない。

アイコスの製品説明書の文言には、ニコチン使用をやめることで健康へのリスクが軽減できると書かれている。さらに、アイコスはタバコ製品であり、もちろんニコチンが含まれているとあり、アイコス喫煙についての注意が羅列されている。つまり、フィリップ・モリス・インターナショナルは、自社の製品の使用をやめないと健康リスクがあることを知っている。写真撮影筆者
アイコスの製品説明書の文言には、ニコチン使用をやめることで健康へのリスクが軽減できると書かれている。さらに、アイコスはタバコ製品であり、もちろんニコチンが含まれているとあり、アイコス喫煙についての注意が羅列されている。つまり、フィリップ・モリス・インターナショナルは、自社の製品の使用をやめないと健康リスクがあることを知っている。写真撮影筆者

エアロゾルの酸化ストレスによる発がんリスク

 これまでのタバコ会社以外の中立的な研究でも、燃焼させる紙巻きタバコより加熱式タバコのほうが含まれている化学物質は少ないことがわかっている。だが、有害な化学物質が全く含まれていないわけではないし、従来の紙巻きタバコよりも多く含まれている物質もあれば、紙巻きタバコに含まれていなかった物質も含まれている(※1)。

 まさに、アイコスの製品説明書にあるように、加熱式タバコにも有害物質が含まれていることは明らかであり、紙巻きタバコや電子タバコと同じように喫煙者へ酸化ストレスを引き起こし、呼吸器に炎症を起こしたり感染症への抵抗を弱める危険性がある(※2)。

 さらに、加熱式タバコは、2マイクロメートル以下という、紙巻きタバコから出るよりさらに微小な粒子状物質を放出する。こうした超微小粒子は肺の細胞へ容易に到達でき、肺の組織を傷つける危険性があることがわかっている(※3)。

 最近の研究では、イタリア、ボローニャ大学の研究グループが実験動物のラットを用い、アイコスの主流煙(喫煙者が吸い込む煙)のエアロゾルに4週間、ばく露させたところ、アルデヒドや多環芳香族炭化水素といった発がん性のある物質を特定できたという(※4)。これらの有害物質は紙巻きタバコからも発生するが、肺の組織を損傷し、酸化ストレスによって遺伝子を傷つけ、発がんのリスクを高める危険性がある。

 タバコに関する研究では、倫理的な配慮もあってヒトを対象にした臨床実験や生体実験はほぼ不可能だ。いきおい、集団(コホート)調査など長期にわたる疫学的な研究にならざるを得ないため、タバコ以外の影響を排除した健康への悪影響を評価するのに時間がかかる。

 アイコスのような加熱式タバコはここ7、8年ほどの間に使用が広がった。そのため、こうした実験動物や細胞組織を使った研究が行われている。

 2020年に出た米国の研究グループによる論文では、アイコスのエアロゾルにばく露したマウスで肺の上皮細胞の損傷を評価するマーカーとした気管支肺胞(BAL)液のタンパク質(アルブミン)が増加したという(※5)。この研究グループは、加熱式タバコのエアロゾルを長期間、吸い込むことは非常に危険と警告している。

 タバコの本質は、ニコチンによる依存状態だ。昨今の喫煙所問題もニコチン依存が背景にある。間欠的に四六時中、タバコを吸わざるを得ない状況になり、まるで社会が喫煙者のために喫煙所を用意しなければならないようになってしまったのは、このニコチン依存があるからだ。

 ニコチン依存によって、朝起きてから夜寝るまで何十年も毎日毎日、タバコを吸い続け、もし仮にごく微量だとしても有害な物質を摂取し続け、その結果、健康に害が出てくることなる。フィリップ・モリス・インターナショナルは紙巻きタバコからの撤退を表明したようだが、アイコスの製品説明書に自身で書いているように、ニコチンを含まない製品を作ってみたらどうだろうか。

※1:Gideon St.Helen, et al., "IQOS: examination of Philip Morris International's claim of reduced exposure" Tobacco Control, Vol.27, s30-s36, 2018

※2:Sukhwinder Singh Sohal, et al., "IQOS exposure im- pairs human airway cell homeostasis: direct comparison with traditional cigarette and e-cigarette" ERJ open research, Vol.5 (1), 2019

※3:U.S. EPA, "Integrated Science Assessment for Particulate Matter" Washington, DC: U.S. Environmental Protection Agency, 2019

※4:Fabio Vivarelli, et al., "Unburned Tobacco Cigarette Smoke Alters Rat Ultrastructural Lung Airways and DNA" Nicotine & Tobacco Research, doi.org/10.1093/ntr/ntab108, 2021

※5:Tariq A. Bhat, et al., "Acute effects of heated tobacco product (IQOS) aerosol-inhalation on lung tissue damage and inflammatory changes in the lungs" Nicotine & Tobacco Research, Vol.23, No.7, 1160-1167, 2020

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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