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ワクチンの効果に影響も:新型コロナ重症化を防ぐ「食事」とは

石田雅彦サイエンスライター、編集者
(写真:PantherMedia/イメージマート)

 もともと我々の身体には、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に限らず、病気にかかりにくくしたり重症化しないようにするための感染防御機能が備わっている。こうした機能を維持するには日々の規則正しい食事、バランスの取れた栄養の摂取が必要だ。そして栄養は、ワクチンの効果にも影響を及ぼす(この記事は2021/06/10の情報に基づいて書いています)。

低栄養の高齢者は要注意

 新型コロナでは日本でもワクチン接種が進みつつあるが、依然として社会全体で感染対策が重要な状況が続いている。手指衛生やマスクの着用、いわゆる3密の回避、換気の徹底といった感染対策に加え、我々自身の免疫機能、感染防御機能を維持し、感染しにくい状態、感染しても重症化しにくい状態を保っておいたほうがいい。

 病気と食事、栄養との関係は、今回の新型コロナのパンデミックの以前から多くの研究が出されている。特に、新型コロナでも重症化しやすい高齢者は、低栄養の状態になりがちで、その結果、免疫機能が低下し、血管や筋骨格などが弱くなって脳出血や骨折などを引き起こしやすくなる。

 低栄養の状態は、血液検査で血清アルブミン値を調べることでわかる。一般的に血清アルブミン値は4.0g/dL以上であることが望ましいとされ、コレステロールを気にし過ぎてタンパク質が少ない食事ばかりを続けると低栄養になってしまうことがある。

 日本の病院で肺炎と診断された65歳以上の患者(50症例、コントロール群:110人)を調べた研究(※1)によれば、血清アルブミン値が低い(3.5g/dL以下)場合、肺炎(市中肺炎)のリスクが上がったという。その後、同じ研究グループによる最近の研究(※2)でも同様の結果(オッズ比:4.15)が出ており、血清アルブミン値が低い低栄養の高齢者は肺炎にかからないように注意したほうがいいだろう。

 では、食生活と新型コロナの関係はどうだろうか。

 欧米6カ国(英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、米国)で新型コロナにかかった患者568人(コントロール群:2316人)を対象にして、自己申告での食生活、新型コロナの症状、重症度などの関係を調べた研究(※3)によれば、植物ベースの食事(Plant Based Diet、植物由来の素材中心のメニュー、完全なベジタリアンではない)もしくはペスカタリアン(Pescatarian、魚介類と野菜・果物が中心のメニュー)は重症化リスクがそれぞれ0.27と0.41(オッズ比)だったという。ただ、この研究結果で意外なのは、低炭水化物で高タンパク質が中心の食生活の人は、植物ベースの食事の人に比べて重症化するリスクが高かった(オッズ比:3.86)ことだ。

 もちろん、植物ベースや肉を食べない食生活をする人は普段から健康に気を使っている高学歴で高収入の場合も多く、新型コロナの重症化リスクがそもそも低いのかもしれない。また、炭水化物を摂らないようにしている人は、すでに糖尿病などの生活習慣病にかかっていて重症化リスクが高いと考えることもできるだろう。

過ぎたるは及ばざるが如し

 ところで、身体の免疫機能を適正に維持していくためには、微量な栄養素が必要なことが多い。ビタミンA、D、C、E、B6、B12、葉酸、亜鉛、鉄、銅、セレンなどだが、感染症になったりストレスを感じたりした場合、こうした栄養素が足りなくなる。

 感染リスクを低くするためには、こうした栄養素のバランスのとれた摂取が重要であり、病気にかかった場合にはこれらの栄養素の補充も必要だ(※4)。

 いわゆる小児麻痺、急性灰白髄炎(ポリオ、Acute poliomyelitis)は、ポリオ・ウイルスが感染し、弛緩性の麻痺を生じさせる病気だが、ワクチンの接種によってウイルス感染と発症を予防できる病気でもある。

 セレンという栄養素も免疫機能を保つために必要な物質だが、英国で血液中のセレン濃度の低い人へのポリオ・ワクチンの効果を調べた研究(※5)では、免疫機能が最適な状態ではないため、ウイルスへの免疫応答が悪く、ワクチンの効果が期待できない危険性があった。こうしたセレンが欠乏している人にサプリメントでセレンを投与すると、ワクチンの効果が改善されたという。

 ただ、どんな栄養素も過ぎたるは及ばざるが如しで、セレンも摂り過ぎると身体に悪影響を及ぼす。日本の場合、偏食のない食生活をしていれば、食事から必要十分のセレンを得ることができる。一方、サプリメントには、上限を数倍も超える量のセレンが入っている製品もあるので注意が必要だ(※6)。

 ビタミンA、Dも同様で、適量を超えた過剰な摂取は、逆に免疫機能が落ちて感染防御には有害になり、ワクチンの効果にも悪影響が出ることがある。米国の2歳から8歳の子どもを対象に、インフルエンザ・ワクチンの効果(免疫応答)と血液中のビタミンA、Dの値の関係を調べた研究(※7)によれば、ビタミンAやDが不足している子どもには十分なワクチンの効果があったが、ビタミンAやDの多い子どもほどワクチンの効果が高いわけではなく、特にビタミンDが十分に足りている子どもにインフルエンザ・ワクチンの効果はむしろ減ったという。

自らの食生活を振り返る

 上記の研究はセレンが不足していたり、ビタミンA、Dが充足しているケースで例外的な事例といえるだろう。

 ワクチンはターゲットとなる細菌やウイルスへの免疫機能を高めるが、前述したように身体が持っている本来の基礎的な対抗力が低ければ十分にその効果を発揮できないし、その対抗力を形作るのは日常的な食生活、栄養であることは言うまでもない。新型コロナのワクチンも同様で、十分な栄養を摂ることで最適なワクチンの効果が期待できるだろう(※8)。

 野菜や果物を多く摂る食生活は、心血管疾患、がん、生活習慣病などへの予防効果があるとされる。また、こうした食生活は、肺炎球菌ワクチンなどへの効果もあるようだ(※9)。

 日々の食生活は、その人の性別、年齢、住んでいる地域、経済的環境などに大きく左右される。バランスのいい食事と言っても、どのようなメニューか端的に説明することは難しい。一概に外食よりも自炊のほうが健康的な食事とも言えない。新型コロナの自粛生活が長引き、ストレスを抱えている人も多い。

 もし仮に今後、新型コロナが収束しても、パンデミックはまた必ず襲ってくる。一般的にいえば、自分の体、自分の健康は自分が最もよくわかるはずだ。健康へのリスクを軽減するためにするべきは、自らの日々の食生活を見直すことかもしれない。

※1:Masakazu Washio, et al., "Hypoalbuminemia, influenza vaccination and other factors related to the development of pneumonia acquired outside hospitals in southern Japan: A case–control study" Geriatrics Gerontology International, Vol.16, Issue2, 223-229, 2016

※2:Masakazu Washio, et al., "Hypoalbuminemia, pneumococcal vaccination and the risk of community-acquired pneumonia in the elderly: A case-control study in southern Japan" International Medical Journal, Vol.27, Issue1, 24-27, 2020

※3:Hyunju Kim, et al., "Plant-based diets, pescatarian diets and COVID-19 severity: a population-based case–control study in six countries" BMJ Nutrition, Prevention & Health, doi.org/10.1136/bmjnph-2021-000272, 2021

※4:Adrian F. Gombart, et al., "A Review of Micronutrients and the Immune System-Working in Harmony to Reduce the Risk of Infection" nutrients, Vol.12(1), 236, 2020

※5:Caroline S. Broome, et al., "An increase in selenium intake improves immune function and poliovirus handling in adults with marginal selenium status" The American Journal of Clinical Nutrition, Vol.80, Issue1, 2004

※6:樺島順一郎ら、「ミネラル補給用サプリメントの含有量調査 セレンの分析」、東京都健康安全研究センター研究年報、第58号、2007

※7:Nehali Patel, et al., "Baseline Serum Vitamin A and D Levels Determine Benefit of Oral Vitamin A&D Supplements to Humoral Immune Responses Following Pediatric Influenza Vaccination" viruses, Vol.11(10), 907, 2019

※8:Margaret P. Rayman, Phillip C. Calder, "Optimising COVID-19 vaccine efficacy by ensuring nutritional adequacy" British Journal of Nutrition, doi.org/10.1017/S0007114521000386, 2021

※9:Andrew Gibson, et al., "Effect of fruit and vegetable consumption on immune function in older people: a randomized control trial" The American Journal of Clinical Nutrition, Vol.96, Issue6, 1429-1436, 2012

サイエンスライター、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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