これからの寒い季節、新型コロナは感染力を強めるか

(写真:西村尚己/アフロ)

 新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)は、北半球が冬季に入ったこともあり、英国で変異種が感染拡大させていることが問題になるなど、依然として日本を含め、世界的に危機的な状況が続いている。このウイルスは、果たして気温や湿度によって感染力が変わるのだろうか。また、変異種にワクチンは効くのだろうか。そして、この寒い時期に感染を拡大させないため、我々はどう注意し、どう振る舞えばいいのだろうか(この記事は2020年12月25日時点の情報に基づいて書いています)。

季節を問わず増殖する可能性

 新型コロナについては最近になって感染力が強い変異種が出現したことが話題になっているが、この記事ではウイルスの変異も含め、主に季節と新型コロナの関係、そしてウイルスの強毒化と重症化などについて考えていく。

 季節性のインフルエンザウイルスの場合、寒冷で乾燥した環境で発生することがよく知られている(※1)。また、新型コロナウイルスに近いウイルス、例えば2002年から流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルスや2012年に流行したMERS(中東呼吸器症候群)ウイルスも感染に適した気温や湿度があるようだ(※2)。

 では、新型コロナはどうなのだろうか。新型コロナと気温や湿度の関係については、すでに世界各国から多くの研究がなされてきた。米国のハーバード公衆衛生大学院の研究グループが2020年5月に米国の科学雑誌『Science』に掲載した論考では、新型コロナの感染拡大とその対策を季節や気温・湿度、免疫獲得などについて多角的に分析した。

 この論考によると、研究グループは新型コロナウイルスは季節を問わず発生できる可能性があると考えている。例年、風邪症状を引き起こす新型コロナウイルスではない他のコロナウイルスの例から、夏に感染が収まっても冬季に再発した際にはより大きな感染爆発を引き起こす危険性があると警告。もし新型コロナに季節性があった場合、寒い時期には毎年、新型コロナの流行を強く警戒しなければならなくなるだろうとした(※3)。

 新型コロナは他の季節性コロナウイルスと違い、日本でもみられたように暑く湿度の高い夏季でも感染がそれほど下火にはならないようだ(※4)。一方、冬季になって気温が下がって乾燥してくると、新型コロナに感染しやすくなるのではないかという研究もある(※5)。

 新型コロナに関しては予想をくつがえす感染形態やパラドックスが多い。流行期に冬季だった南半球でどう感染が広がったのかを分析した研究でも、季節性に関しての結論は出していない(※6)。これはおそらくまだ我々が新型コロナに対する免疫を持っていないため、本来なら感染が抑えられるはずの高温多湿の夏季の環境条件下でも感染者数が減らなかったからではないかと考えられている(※7)。

 このため、季節性に関しては、新型コロナウイルスの仲間のウイルスを用いた推計によって研究されてきた。こうしたコロナウイルスで、季節性を持つものは4種類(HCoV-NL63、HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-HKU1)ある。この中でHCoV-NL63は一般的な風邪症状を引き起こし、冬季に最も患者が増え、こうしたコロナウイルスは何世紀にもわたって季節性の風邪として人類と共存してきたという(※8)。

 新型コロナが季節性であれば、この4種類のどれかと共通点があるはずだ。もし何らかの共通点があれば、過去にコロナウイルスで風邪にかかった人が新型コロナに対して免疫記憶を持つ交差免疫、あるいは再感染にかかる期間がわかるかもしれない。

 こうしたことを知るために他のコロナウイルスを調べた研究をみてみると、前述したHCoV-NL63というコロナウイルスは同じように呼吸器系の風邪症状を引き起こすHCoV-229Eというコロナウイルスと強い交差免疫の関連がうかがえるものの、新型コロナと他のコロナウイルスとの交差免疫に関する研究はまだない。また、おそらく新型コロナに一度かかった人の免疫が持続する期間は、半年程度で短く一時的なのではないかという(※9)。

 現在(2020年12月上旬)、英国で感染が拡大しているが、これは夏季にスペインやフランス、イタリアへ旅行した英国人が持ち込んだウイルスが変異したものではないかと考えられ(※10、プレプリント)、人の移動に変異種を作る危険性があることがわかる。

感染力が強くなっているのは確か

 では、新型コロナウイルスは感染力を強めているのだろうか。そして強毒化しているのだろうか。

 強毒化したウイルスというのは、感染すると短期間で発症して重症化し、時には死にいたるような状態になるウイルスのことだ。例えば、エボラ出血熱のエボラウイルスなどが強毒のウイルスといえる。

 また、ウイルスは変異して強毒化することもある。ウイルスの強毒化では、約100年前に世界中で大流行したスペイン風邪の事例が想起される。1918年3月に米国の陸軍基地から広まったとされるスペイン風邪は、同年の夏場に第2波が起きたがウイルスが変異して強毒化し、多くの人が亡くなった(※11)。

 ウイルスの変異は、スペイン風邪のように強毒化すると宿主をすぐに重症化させたり殺してしまい、そうなればウイルスも感染拡大できずに共倒れするため、どう変異するかはウイルスにとっても致命的だ。また、ウイルスが長期に渡って流行し続けると、逆に弱毒化して宿主と共存する方向へ変異することもある。

 では、新型コロナウイルスは変異して強毒化しているのだろうか。一般的なコロナウイルスは変異しやすいRNAウイルスだが、DNAウイルスより変異する機能性は低いもののゲノムの変異を修正するメカニズムを持つため、インフルエンザウイルスよりも変異する確率は低いとされてきた(※12)。

 だが、新型コロナのウイルスの場合は、他のコロナウイルスに比べると多様的にゲノムが変化していることがわかっている。2020年の春頃には、新型コロナウイルスは大きくS型とL型という2タイプに分岐し、L型が感染力が強いと考えられた(※13)。

 その後、新型コロナウイルスで我々の細胞へ侵入する際に使っているタンパク質が変化し、春頃から感染力を強めてきたという研究も相次いでいる(※14)。

 これらは、感染力を強めたD614Gという変異種が出現して世界中に広がっているという研究だが、この変異種が登場した時期は、中国では2020年1月22日、米国では2月20日、イタリアでは3月1日と意外に早い。つまり、春頃に感染力が強く変異したことで、新型コロナはこれほど広く流行するようになったというわけだ。

 D614Gへの変異と流行地域と死亡率、BCG接種やHLA(Human Leukocyte Antigen、ヒト白血球抗原)の対立遺伝子など、地域住民の免疫機能との関係で調べた研究も多い(※15)。だが、これらは同じウイルスによる地域性の違いをみているわけだし、感染者が増えれば医療崩壊などで死亡率も上がるので、必ずしも新型コロナウイルスが変異して毒性が上がっていることにはならない。

 このように新型コロナウイルスは、感染力を強める方向へ変異してきていると考えられる。強毒化しているとか弱毒化しているという研究は今のところ出ていない。つまり、新型コロナウイルスは、感染後すぐに誰でも重症化するように強毒化しているわけではない。

 だが、感染力が強くなったということは、感染者が増えることでもある。感染者が増えれば重症者も増え、それが医療体制を逼迫させ、死者が増えるという意味で感染力が強く変異したという情報には警戒が必要だ。

 例えば、現在、英国などで流行している変異種の新型コロナウイルスは、ウイルス量が多く感染力も強く変異したと考えられている。また、この変異種は、若年層にも感染者が多く出る傾向があるようだ(※16)。

 では、こうした新型コロナウイルスの多様性に対し、現在開発されているワクチンは果たして効果を持つのだろうか。現在の研究では、新型コロナウイルスはゲノムの変化が限定的なため、今の変異のままなら、おそらく多様なウイルスにワクチンが効果を持つだろうと考えられている(※17)。

今後も注意して感染対策を

 以上をまとめると、新型コロナに強い季節性はうかがえず、感染力を強めた変異種が出現しているが、強毒化しているという研究はまだない。ただ、変異種の出現には今後も十分な注意が必要だ。

 新型コロナウイルスは、野生生物からヒトへ感染する変異を遂げ、これだけ世界中に広がったウイルスだ。感染する速度が速くなれば変異のサイクルと頻度が高くなる。繰り返すが、感染力が強く変異したウイルスが出現したということは、感染者も増えるということであり、重症者も死亡者も増える危険性が高まる。

 日本の冬季は、気温も湿度も下がってくる。換気の悪い室内に人が密集しがちになり、乾燥しているため飛沫感染のリスクが上がる。低温は我々の免疫機能を下げ、殺菌作用のある太陽光も弱くなる。そもそも冬季は感染症が広がりやすくなる季節だ(※18)。

 新型コロナの感染対策は、周知のように地道な公衆衛生政策の実施と我々の行動変容、利他的な意識を持つことが重要だ。寒くてつらいが室内の換気に注意し、3密を避けて社会的距離をとり、マスクの着用と手指衛生を入念にし、この冬を乗り越えたい。

【この記事はYahoo!ニュースとの共同連携企画記事です】

※1:Kari Jaakkola, et al., "Decline in temperature and humidity increases the occurrence of influenza in cold climate." Environmental Health, Vol.13: 22, 2014

※2:Lisa M. Casanova, et al., "Effects of Air Temperature and Relative Humidity on Coronavirus Survival on Surfaces." Applied and Environmental Microbiology, Vol.76, No.9, DOI: 10.1128/AEM.02291-09, 2010

※3:Stephen M. Kissler, et al., "Projecting the transmission dynamics of SARS-CoV-2 through the postpandemic period." Science, Vol.368, Issue6493, 860-868, May, 22, 2020

※4-1:Tahira Jamil, et al., "No Evidence for Temperature-Dependence of the COVID-19 Epidemic" forntiers in Public Health, doi.org/10.3389/fpubh.2020.00436, 26, August, 2020

※4-2:Jinhua Pan, et al., "Warmer weather unlikely to reduce the COVID-19 transmission: An ecological study in 202 locations in 8 countries" Science of the Total Environment, doi.org/10.1016/j.scitotenv.2020.142272, 9, September, 2020

※5-1:Hamada A. Aboubakr, et al., "Stability of SARS-CoV-2 and other coronaviruses in the environment and on common touch surfaces and the influence of climatic conditions: A review" Transboundary and Emerging Diseases, doi.org/10.1111/tbed.13707, 30, June, 2020

※5-2:Shihua Fu, et al., "Meteorological factors, govermental responses and COVID-19: Evidence from four European countries" Environmental Research, doi.org/10.1016/j.envres.2020.110596, 9, December, 2020

※6:Albertus J. Smit, et al., "Winter Is Coming: A Southern Hemisphere Perspective of the Environmental Drivers of SARS-CoV-2 and Potential Seasonality of COVID-19" International Journal of Environmental Research and Public Health, Vol.17(16), 5634, 5, August, 2020

※7:Amani Audi, et al., "Seasonality of Respiratory Viral Infections: Will COVID-19 Follow Suit?" Frontiers in Public Health, doi.org/10.3389/fpubh.2020.567184, 15, September, 2020

※8:Krzysztof Pyrc, et al., "Mosaic Structure of Human Coronavirus NL63, One Thousand Years of Evolution" jmb, Vol.364, Issue5, 964-973, 2006

※9-1:Angkana T. Huang, et al., "A systematic review of antibody mediated immunity to coronaviruses: kinetics, correlates of protection, and association with severity" nature COMMUNICATIONS, 11, Article number: 4704, 17, September, 2020

※9-2:Arthur W. D. Edridge, et al., "Seasonal coronavirus protective immunity is short-lasting" nature medicine, Vol.26, 1691–1693, 14, September, 2020

※10-1:Louis du Plessis, et al., "Establishment & lineage dynamics of the SARS-CoV-2 epidemic in UK" medRxiv, doi.org/10.1101/2020.10.23.20218446

, 27. October, 2020

※10-2:Emma B. Hodcroft, et al., "Emergence and spread of a SARS-CoV-2 variant through Europe in the summer of 2020" medRxiv, doi.org/10.1101/2020.10.25.20219063, 27, November, 2020

※11-1:G. Dannis Shanks, "Insights from unusual aspects of the 1918 influenza pandemic." Travel Medicine, doi.org/10.1016/j.tmaid.2015.05.001, 2015

※11-2:Mark Honigsbaum, "Spanish influenza redux: revisiting the mother of all pandemics." THE LANCET, Vol.391, Issue10139, 2492-2495, 2018

※12-1:Mark R. Denison, et al., "Coronaviruses An RNA proofreading machine regulates replication fidelity and diversity" RNA Biology, Vol.8, Issue2, 2011

※12-2:Jason W. Rausch, et al., "Low genetic diversity may be an Achilles heel of SARS-CoV-2" PNAS, doi.org/10.1073/pnas.2017726117, 21, September, 2020

※13:Xiaolu Tang, et al., "On the origin and continuing evolution of SARS-CoV-2" National Science Review, Vol.7, 1012-1023, 3, March, 2020

※14-1:Bette Kober, et al., "Tracking Changes in SARS-CoV-2 Spike: Evidence that D614G Increases Infectivity of the COVID-19 Virus" Cell, Vol.182, Issue4, 20, August, 2020

※14-2:Jessica A. Plante, et al., "Spike mutation D614G alters SARS-CoV-2 fitness" nature, doi.org/10.1038/s41586-020-2895-3, 26. October, 2020

※14-3:Yixuan J. Hou, et al., "SARS-CoV-2 D614G variant exhibits efficient replication ex vivo and transmission in vivo" Science, Vol.370, Issue6523, 18, December, 2020

※14-4:Tathagata Dey, et al., "Identification and Computatianal Analysis of Mutations in SARS-CoV-2" Computers in Biology and Medicine,, doi.org/10.1016/j.compbiomed.2020.104166, 14, December, 2020

※15-1:Muthukrishnan Eaaswarkhanth, et al., "Could the D614G substitution in the SARS-CoV-2 spike (2) protein be associated with higher COVID-19 mortality?" International Journal of Infectious Diseases, Vol.96, 459-460, 26, May, 2020

※15-2:Yujiro Toyoshima, et al., "SARS-CoV-2 genomic variations associated with mortality rate of COVID-19" Journal of Human Genetics, Vol.65, 1075-1082, 22. July, 2020

※16:Erik Volz, et al., "Evaluating the Effects of SARS-CoV-2 Spike Mutation D614G on Transmissibility and Pathogenicity" Cell, doi.org/10.1016/j.cell.2020.11.020, 19, November, 2020

※17-1:Bethany Dearlove, et al., "A SARS-CoV-2 vaccine candidate would likely match all currently circulating variants" PNAS, doi.org/10.1073/pnas.2008281117, 31, August, 2020

※17-2:Ralph S. Baric, "Emergence of a Highly Fit SARS-CoV-2 Variant" The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE, DOI: 10.1056/NEJMcibr2032888, 16, December, 2020

※18-1:Anice C. Lowen, et al., "Influenza Virus Transmission Is Dependent on Relative Humidity and Temperature" PLOS PATHOGENS, doi.org/10.1371/journal.ppat.0030151, 2007

※18-2:Kathryn C. Conlon, et al., "Preventing cold-related morbidity and mortality in a changing climate" Maturitas, Vol.69, Issue3, 197-202, 2011

※18-3:Niilo R.I. Ryti, et al., "Global Association of Cold Spells and Adverse Health Effects: A systematic Review and Meta-Analysis" Environmental Health Perspectives, Vol.124, No.1, 2016

※18-4:Eriko Kudo, et al., "Low ambient humidity impairs barrier function and innate resistance against influenza infection" PNAS, Vol.116(22), 10905-11910, 2019