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iPhoneとポケモンで「歩きスマホ」負傷事故が急増か

石田雅彦サイエンスライター、編集者
(写真:アフロ)

 スマートフォン(携帯電話、以下、スマホ)の普及でいわゆる「歩きスマホ」が増え、駅のプラットフォームから転落したり、他人にぶつかって怪我を負う事故が社会問題化している。最近の研究によれば、iPhoneの登場と拡張現実ゲームのプレーヤーが増えたことと事故の急増に関連があるという。

急増するスマホ事故

 すでにスマホは我々の生活にとって欠かせないコミュニケーション・ツールになっている。コミュニケーション以外でも、ゲームを初めとする多種多様なアプリによって多くの時間をスマホ相手に過ごす人も少なくない。

 一方、歩行中や自動車の運転中など周囲に気を配る必要がある場合でもスマホに没頭し、注意力が散漫になって事故を起こすことが増えている。いわゆる歩きスマホが問題になって久しいが、依然として駅のプラットフォームでスマホの画面から目を離さずに歩いている人が絶えない。

 これは世界共通の問題で、特にクルマ社会の米国ではスマホの使用に関連した負傷事故が増えているようだ。米国のラトガーズ大学ニュージャージー医学部などの研究グループが、1998年1月から2017年12月に米国で起きたスマホ使用が原因の頭頸部の負傷事故を対象に調査研究したところ、iPhoneの登場とPokemon Go(eはアキュート・アクセント、以下、ポケモン)をプレーすることで事故が増えていることがわかったという。

 頭頸部の負傷事故の調査対象は2501人(女性1129人=56.3%、13〜29歳が39.4%で最多、次に30〜49歳の21.2%)で、負傷カ所の割合は頭部33.1%、顔(眼球以外の目の周辺や鼻など)32.7%、首12.5%、眼球11%、口(舌や歯)6.3%、耳4.5%だった。

 20年間の事故数の推移をみると、スマホ関連事故は確実に増えていた。特に2007年には新たに8.99件増え、2016年には29.19件(それぞれ100万人/年あたり)と急増していたという。また、負傷者は13〜29歳の年代に多く、主だった原因は歩きスマホが原因だった。

 米国の救急外来(ED)に頭頸部の負傷で運ばれてくる患者の割合は約5%だという。この研究グループは、運転中のスマホ使用や歩きスマホなどが原因の頭頸部負傷例がその中に含まれ、増えている点を危惧している。

 調査結果から推定される事故総数の約半数(7240/1万4150)が運転中のスマホ使用と考えられ、1022件がスマホへ文字入力中の事故、5080件が歩きスマホでの事故と見積もられるという。

iPhoneとポケモンの影響か

 また、歩きスマホでの負傷中、90件がポケモンをプレー中の事故と考えられるそうだ。ただ、調査した負傷例のほとんど(93.8%、1923人)は軽傷ですぐに帰宅できたという。

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1998年1月から2017年12月の20年間のスマホに関連した負傷事故数の推移。研究グループでは、2007年のiPhoneと2016年のポケモンの登場による影響を指摘している。Via:Roman Povolotskiy, et al., "Head and Neck Injuries Associated Wiht Cell Phone Use." JAMA Otolaryngology-Head & Neck Surgery, 2019よりデータからグラフ筆者作成

 ガラケー時代にもゲームはあったが、拡張現実ゲームのように没入できるものは少なかった。スマホではゲームのほか、SNSなどのアプリも充実し、スマホの画面から目が離せないようにもなっている。

 研究グループは、さらに13歳未満の子どもがスマホによって負傷する事例に注目している。子どもにとってスマホは考えられているより大きく重く、スマホを使用中の事故(Cell Phone Use-Associated Injuries)ではなく、スマホが直接当たるなどした不注意の事故(Direct Mechanical Injuries)で負傷するケースが多かったという。

 iPhoneの普及で多機能なスマホが一般的になったのは確かだろう。また、欧米でもポケモンのプレーに関連する事故報告が増えている(※1)。

 この記事で紹介した研究は米国のもので自動車の運転中のながらスマホ事故が多くなっているが、日本では歩きスマホによる事故のほうが多いのかもしれない。便利で手放せなくなっているスマホだが、そのリスクをよく理解し、歩きスマホなどをしないように気をつけて使うことが重要だろう。

※1:Roman Povolotskiy, et al., "Head and Neck Injuries Associated Wiht Cell Phone Use." JAMA Otolaryngology-Head & Neck Surgery, doi:10.1001/jamaoto.2019.3678, 2019

※2-1:John W. Ayers, et al., "Pokemon GO-A New Distraction for Drivers and Pedestrians." JAMA International Medicine, Vol.176(12), 1865-1866, 2016

※2-2:Stefania Barbieri, et al., "Pedestrian Inattention Blindness While Playing Pokemon Go as an Emerging Health-Risk Behavior: A Case Report." Journal of Medical Internet Research, Vol.19, No.4, 2017

※2-3:Kate Gemma Richards, et al., "Augmented reality game-related injury." BMJ Case Reports, Vol.11, Issue1, 2018

サイエンスライター、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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