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喫煙者に「タバコをやめてもらう」ために

石田雅彦サイエンスライター、編集者
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

 わが国の喫煙率は年々減少し、特に男性の喫煙率は2007(平成19)年の40.0%からの10年間で9.4ポイント減少した。受動喫煙防止対策の強化によりタバコを吸える環境はどんどん狭められ、禁煙を考えている喫煙者も多い。

まだまだ高い男性の喫煙率

 喫煙率が下がったとはいえ、2017(平成29)年の男性の喫煙率は29.4%、女性で7.2%となっており、年代別でも男性は30代で39.7%、40代で39.6%、女性は40代で12.3%となっていて、性別年代によって依然として高い喫煙率となっている(2017年、平成29年の国民健康・栄養調査、※1)。

 こうしてみると、日本は女性の喫煙率の低さが全体を押し下げていることがわかる。OECD(経済協力開発機構)36カ国で、日本の男性喫煙率は12位で上から数えたほうが早い(OECD Health Statistics, 2014-2018)。

 また、喫煙率の下がり方も2010年のタバコ値上げ前後に比べると漸減状態が続いている。2017年に公表されたデータなので、ここ2、3年の動向はわからないが、すでに調査の公表をやめているJT(日本たばこ産業)のデータでも同じ傾向がみえ、JT調査では2017年から2018年で20代と30代の男性の喫煙率はむしろ上がっているくらいだ。

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喫煙率の男女比較(2017年、平成29年の国民健康・栄養調査):男性29.4%、女性7.2%。男性30代39.7%、40代39.6%、女性40代12.3%が高く、特に働き盛りの男性喫煙率は依然として高い。

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喫煙率の年次推移(2017年、平成29年の国民健康・栄養調査):2010年のタバコ値上げ前後で喫煙率が落ちたが、その後は漸減状態が続いている。

 では、喫煙者で喫煙をやめたがっている人、禁煙希望者はどれくらいいるのだろうか。「現在習慣的に喫煙している者におけるタバコをやめたいと思う者の割合」は男性26.1%、女性39.0%だ。約3分の1の喫煙者が禁煙したがっているということになる。

 こちらのほうの割合も、2010年のタバコ値上げまでは徐々に上がってきたが、その後に急落し、その後は漸増か横ばい状態になっている。値上げで禁煙しようとした喫煙者が増え、禁煙に成功した人は除外され、タバコをやめられなかった喫煙者が残った結果だろう。

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禁煙の意思の有無(2017年、平成29年の国民健康・栄養調査):男性では20代が最も高く、女性では70代以上が最も高い。総じて女性のほうが禁煙の意思は高いが、20代では男女で割合が逆転している。

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禁煙の意思の有無の年次推移(2017年、平成29年の国民健康・栄養調査):2013(平成25)年に下がっているのは2010年のタバコ値上げの反動。それまで漸増してきたタバコをやめたい割合は、タバコ値上げ後に落ち込み、その後は横ばいとなっている。

置き去りにされる禁煙希望の喫煙者

 その一方で、禁煙治療の方法などについて情報は不足している。「身近に禁煙治療が受けられる医療機関の有無」を質問したところ「わからない」という回答が男性で56.7%、女性で50.2%だった(2015年、平成27年の国民健康・栄養調査)。特に男性では、全ての年代で「わからない」が50%を超えている。

 これを禁煙の意思別にみると、さすがにやめたい喫煙者でようやく50%を切るが、それでも半数近い禁煙希望の喫煙者が途方に暮れているというわけだ。気になるのは、タバコをやめたいと思っても身近に禁煙治療が受けられる医療機関がないと回答した喫煙者が7〜8%の割合で存在することだ。

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身近に禁煙治療が受けられる医療機関の有無(2015年、平成27年の国民健康・栄養調査):半数以上が「わからない」と回答していることがわかる。タバコをやめたいという喫煙者でも「わからない」が少なくない。

 禁煙の治療ができる施設は全国に1万7000ほどあるが、地域の偏在も大きく禁煙診療をする医療機関がない自治体もある。治療費もそれほど安くはない。保険適用される場合で治療費が約2万円かかる(自由診療は約6万5500円)。

 また、タバコをやめたいと思っても禁煙外来を受診しない喫煙者は多い。禁煙外来の受診率は喫煙者の1%~2%と思われる(※2)。

 さらに、禁煙外来を受診しても禁煙の継続率はそれほど高くない。厚生労働省の調査(※3)では、保険適用での5回の診療中、5回目まで診療を終了した割合は約30%だ。また、禁煙外来受診者の約37.5%は5回の診療終了後の9ヶ月後に再喫煙してしまっている。そして、診療から途中で脱落した人の状況はわからない。

 つまり、年代性別によって依然として喫煙者は多く、その中で喫煙をやめたがっている喫煙者は約30%いる。しかし、禁煙の方法や身近な禁煙治療機関の有無がわからない喫煙者もいて、禁煙外来などで治療を受ける喫煙者も少ない。そして、禁煙治療を受けて継続的に禁煙し続ける人の数は、完全には把握しきれないもののかなり少ないのだ。

 男性の約30%が喫煙者という現状は重要な事実だろう。受動喫煙防止対策と同時に重視すべきなのは、依然として多い喫煙者に対する働きかけ、そしてフォローアップなのではないだろうか。

 依存症に必要なのは、周囲や環境の患者への理解とサポートだ。地域の医療機関、公的機関、教育機関、禁煙薬局などで、禁煙啓蒙活動に力を入れているところもある。受動喫煙防止対策が強化されている今、タバコをやめたがっている喫煙者への一層の働きかけが必要だろう。

注:「たばこ」は「タバコ」と表記

※1:「現在習慣的に喫煙している者」とは、タバコを「毎日吸っている」又は「時々吸う日がある」と回答した者。2012(平成24)年までは、これまでタバコを習慣的に吸っていたことがある者*のうち、「この1ヶ月間に毎日又はときどきタバコを吸っている」と回答した者。*2007(平成19)〜2010(平成22)年は、合計100本以上又は6ヶ月以上タバコを吸っている(吸っていた)者

※2:禁煙外来医療施設で治療を実施した年間平均患者数13.5~20人(1施設当たり)×1万7000施設(全国)=22万9500~34万人÷推計喫煙者数1917万人(2018年JT調査)×100=1.2%~1.7%

※3:厚生労働省「ニコチン依存症管理料による禁煙治療の効果等に関する調査報告書」平成28年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査(平成29年度調査)2017

サイエンスライター、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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