Yahoo!ニュース

受動喫煙対策の次は「喫煙者」への「禁煙サポート」でしょう

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:Fujifotos/アフロ)

 タバコに対する社会的な風当たりが強くなり、喫煙者はさぞ肩身の狭い思いをしているのではないかと察する。受動喫煙対策が進みつつある中、次に取り組むべきは、やはりタバコを止めたくても止められない喫煙者への禁煙サポートをどう進めるかではないだろうか。

まだ高い中高年男性の喫煙率

 日本人は付和雷同・右顧左眄型の人が多いといわれ、関ヶ原の合戦ではないが、流れが傾き始めると全体がそちらへ一気に雪崩込む傾向がある。社会的な同調圧力が強くなれば、タバコを吸う習慣にもより一層、冷たい視線が注がれるだろう。

 実際、日本の喫煙率は年々減少してきた。男性の喫煙率は2009(平成21)年は38.9%だったが2018年には27.8%へ大きく下がった。ただ、30代男性の喫煙率33.1%、40代男性35.5%、50代男性33.0%、30代女性11.1%、40代女性13.6%、50代女性12.0%となっており、性別年代によっては依然として喫煙率は高い(※1)。

画像

上の折れ線グラフは、2009〜2018年の成人男女の喫煙率の推移。これをみると女性の低い喫煙率が全体を引き下げていることがわかるが、女性の喫煙率は横ばいだ。下の棒グラフは、2018年の男女年代別喫煙率。中年男性の喫煙者は、まだ1/3以上もいることがわかる。Via:JT「全国たばこ喫煙者率調査」より筆者がグラフ作成

 一方、タバコを止めたい禁煙希望者は、特に男性で多くなっている。2017年の調査では約30%の喫煙者がタバコを止めたいと回答した(※2)。グラフをみると2016年の17.1%から極端に伸びているが、なぜこのようになったかはわからない。

画像

生活習慣調査「現在喫煙者における禁煙の意思」で男性「やめたい」の回答の割合(%)。Via:厚生労働省:2017年「国民健康・栄養調査」から筆者がグラフ作成

禁煙希望者へのサポート

 このように、タバコを止めたいという人は喫煙者の約1/3いる。日本の喫煙人口は約1880万人と推計され(※1)、ざっと600万人くらいの禁煙希望者が存在することになる。600万人といえば、千葉県の人口よりやや少ない程度だ。

 では、禁煙を希望する喫煙者に対し、行政はどのように対応しているのだろうか。タバコを止めるつもりのない喫煙者への対応はまた別になるが、一歩踏み出せずに迷っている喫煙者に対しては1、2、禁煙を決意した喫煙者に対しては3〜5、といったような禁煙サポートのアプローチや受け皿が考えられる。

1:受診時、健診や保健指導での禁煙の啓発

2:保健所や医療施設などでのカウンセリング

3:禁煙指導をしている薬局などでの相談受付

4:企業の産業医、カウンセラーなどへの相談

5:禁煙外来(歯科を含む病院や診療所)治療

 喫煙者への声掛け、喫煙の健康被害などの説明、興味を持った喫煙者へのアドバイス、禁煙しようとする喫煙者への働きかけ、そして実際の禁煙治療や禁煙サポートという順番になるだろうか。短時間の支援から中長期的な支援というような流れになる(※3)。

 タバコを吸い始めるきっかけに友人関係などのピア効果が大きな影響を与えているように、喫煙者が禁煙を決意するためには周囲のドメスティックな環境が重要だ。子や孫などの家族の意見、地域の雰囲気などが大きい。

 そのためにも保健所(行政)と医療機関、自治体の健康相談担当などの連携が必要になるが、地域の職域連携の場などを活用することになりそうだ。また、地域の医師会、歯科医師会、薬剤師会などが禁煙サポートの核になれば、こうした動きや流れが加速し、行政の担当者が変わっても継続性が担保される。

画像

禁煙サポートには多種多様な方法があるが、最も大事なのは喫煙者本人が禁煙を決意することだ。喫煙者にどうやって禁煙を決意してもらうのか、その気持ちをどう実現するのか、社会全体でサポートする必要がある。イラスト:いらすとや提供のものを筆者がアレンジ

禁煙外来へどう誘うか

 禁煙外来での治療には保険適用され、禁煙を決意した喫煙者にとっての重要な受け皿になっている。だが、受診率は全喫煙者の数%台といわれ、広がりをみせていない。

 禁煙外来の診察をしているのは、病院2496施設、診療所1万3183施設、合計1万5679施設となっており、全施設の約21%だ(※4)。これらの禁煙外来を設置している施設では、1年平均13.5人の禁煙を希望する喫煙患者を診察していると推計される(※5)。つまり、少なくとも1年で約21万人が禁煙外来を受診したわけだが、禁煙希望の喫煙者600万人に比べればこの数字はかなり少ない。

 なぜ禁煙外来の受診をためらうのかといえば、初診から3ヶ月で5回という受診回数の多さ、外来へ通院しなければならない煩雑さ、禁煙治療に失敗すると1年間は保険適用では再受診できないといった条件があると考えられる。

 大企業ではいくつかの健康保険組合がタッグを組み、遠隔診療として禁煙外来の実施を始めたところもある。また、企業内の診療所で禁煙外来を行って高い受診率と禁煙成功率を達成したケースもあるようだ。

 初診での対面が必要ないなど、禁煙外来には遠隔診療で大きなメリットがある。だが、前述した大企業の健保組合の連合体の場合などを除き、遠隔診療の場合には保険適用ではなく自由診療(全額個人負担)となるので注意が必要だ。

 また、自分だけで禁煙に挑んで何度も失敗している喫煙者、喫煙を続けようか迷い逡巡している喫煙者も多い。こうした人たちに対し、どうやって禁煙外来などでの治療を提案するかといった方法も重要だろう。

 海外には、治療まで踏み出せずにいる喫煙者に対し、行政などが無料の電話相談(クイットライン、Quite Line)を設置し、カウンセリングやアドバイスをしている事例がある。日本では、地域の保健所や自治体の健康相談窓口などで電話の受付をしているところもあるが、常時・常設でない場合も多い。

 喫煙者の事情や禁煙へ至る道筋は多種多様だ。電話や電子メール、SNSなどを活用し、気軽に個々の喫煙者が匿名で相談できるような無料の禁煙サポートが必要なのではないだろうか。

※1:JT:2018年「全国たばこ喫煙者率調査」

※2:厚生労働省:2017年「国民健康・栄養調査」

※3:厚生労働省:禁煙マニュアル第2版

※4:厚生労働省:平成29年(2017)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況「診療等の状況」

※5:厚生労働省:平成28年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査(平成29年度調査)「ニコチン依存症管理料による禁煙治療の効果等に関する調査報告書」

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

石田雅彦の最近の記事