「禁煙の利益」は「太る心配」を大きく凌駕する

(ペイレスイメージズ/アフロ)

 タバコを止めると太るんじゃないかと心配する喫煙者は多い。特に女性や若い男性にその傾向があるが、禁煙で得られる健康と死亡リスクの低減は、タバコを止めて太ったとしても比較にならないほど大きな利益ということが改めてわかった。

禁煙後の体重増の影響

 そもそも喫煙者は生活習慣病にかかりやすく食習慣も良くない。タバコを止めると食べ物を美味しく感じ、口寂しいこともあって食欲が増す。その結果、禁煙で体重が増えるのも事実だ(※1)。

 体重増によって総コレステロール値や空腹時血糖値が悪くなり、糖尿病や高脂血症による動脈硬化のリスクが高くなるという問題がある。太ったり、太ることで肥満関連疾患になるのなら、という理由で禁煙に踏み切れない喫煙者、再びタバコに手を出してしまう禁煙失敗者も多い。

 だが、タバコを止めることで、HDL-コレステロール値(High Density Lipoprotein Cholesterol)、いわゆる「善玉」コレステロール(コレステロールを肝臓へ運ぶことで血中コレステロールを減らす)が増えることも知られ(※2)、逆に心血管疾患のリスクを低減させるのも事実だ(※3)。

 日本人1995人を対象にした研究では、禁煙によって2kgの体重増があったが、HDL-コレステロール値が改善したことで冠状動脈精神疾患のリスクが有意(0.76)に低下することが推測されている(※4)。

 タバコを吸い続けることで生じる健康リスクと禁煙後の体重増による不利益を比べれば、明らかに前者のほうが重要でタバコを止めるほうがずっと健康利益が大きいという研究は枚挙にいとまがない(※5)。

 そもそも喫煙者はニコチンの影響で痩せ気味でBMIも低く、禁煙後の体重増を大げさに感じる傾向にある。タバコに含まれるニコチンがエネルギー消費を増加させ、食欲を低下させるからだが、喫煙者で体重が増える場合、吸う本数が多くなればなるほど、総コレステロールやLDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が増え、HDL-コレステロールが減るようだ(※6)。

 最近、米国の医学雑誌『The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE』に禁煙後の体重増により短期間で2型糖尿病になるリスクが高くなるが、体重が増えても心血管疾患の死亡リスクは変わらないという論文が出された(※7)。

 米国のハーバード T.H. チャン・スクール・オブ・パブリック・ヘルスやブリガム・アンド・ウィメンズ病院などの研究グループによるもので、米国で行われた約19年間の複数のコホート研究データ(※8)を使い、16万2807人分の糖尿病データ、17万0723人分の死亡データを分析し、禁煙を開始した対象者の体重増と糖尿病罹患率、心血管疾患の死亡リスクとの関係を2年ごとに調べた。

禁煙は利益のほうが大きい

 その結果、2型糖尿病にかかるリスクは、禁煙後2~6年の元喫煙者のほうが、現在の喫煙者よりも高く(ハザード比1.22、+59%)、5~7年でリスクが高まり、その後は低下することがわかったという。体重増とリスクには正の相関があり、体重が増えなかった群のリスクは変化しなかった。

 一方、禁煙で体重が増えたのにもかかわらず、禁煙者の死亡率が上昇することは観察されず、現在の喫煙者に比べて体重増加しなかった禁煙者の心血管疾患による死亡リスクは0.69、体重0.1~5kg増群で0.47、体重5.1~10kg増群で0.25、体重10kg以上増群で0.33、それぞれリスクが減った。また6年以上の禁煙者では死亡リスクが半分(0.5)になったという。

 研究グループは、タバコによる死亡リスクは高く、体重増を恐れるあまり禁煙をためらってはいけないという。もちろん、禁煙後に体重を増やさなければ、糖尿病にかかるリスクも低減される。

 禁煙は最初つらいが運動することで気を紛らわし、禁煙を継続させる効果があることが知られている。体重増を避けるためにも、禁煙後に適度な運動をするべきだ(※9)。

 日本人の喫煙率はこの十数年で大きく下がっているが、喫煙と病気の発症にはある程度のタイムラグがあり、過去の喫煙者の加齢によりタバコに関連した病気の発症や死亡はこれから増加することが予想される。

 年間死亡者数の約1割がタバコ関連疾患によるものと考えられているが、社会はなるべく早く喫煙者を減らし、禁煙者は自身の体重増を管理することが重要だろう。

※1-1:David F. Willamson, et al., "Smoking Cessation and Severity of Weight Gain in a National Cohort." The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE, Vol.324, 739-745, 1991

※1-2:Peggy O'Hara, et al., "Early and Late Weight Gain following Smoking Cessation in the Lung Health Study." American Journal of EPIDEMIOLOGY, Vol.148, No.9, 1998

※1-3:Arnaud Chiolero, et al., "Consequences of smoking for body weight, body fat distribution, and insulin resistance." The American Journal of CLINICAL NUTRITION, Vol.87, Issue4, 801-809, 2008

※1-4:Henri-Jean Aubin, et al., "Weight gain in smokers after quitting cigarettes: meta-analysis." BMJ, Vol.345, doi: 10.1136/bmj.e4439, 2012

※2:B A. Stamford, et al., "Effects of smoking cessation on weight gain, metabolic rate, caloric consumption, and blood lipids." The American Journal of CLINICAL NUTRITION, Vol.43, Issue4, 486-494, 1986

※3:Carole Clair, et al., "Association of Smoking Cessation and Weight Change With Cardiovascular Disease Among Adults With and Without Diabetes." JAMA, Vol.309(10), 1014-1021, 2013

※4:Unai Tamura, et al., "Changes in Weight, Cardiovascular Risk Factors and Estimated Risk of Coronary Heart Disease Following Smoking Cessation in Japanese Male Workers: HIPOP-OHP Study." Journal of Atherosclerosis and Thrombosis, Vol.17, No.1, 12-20, 2010

※5-1:Robert Carreras-Torres, et al., "Role of obesity in smoking behaviour: Mendelian randomisation study in UK Biobank." BMJ, Vol.361, 2018

※5-2:Kyuwoong Kim, et al., "Weight gain after smoking cessation does not modify its protective effect on myocardial infarction and stroke: evidence from a cohort study of men." European Heart Journal, Vol.39, Issue17, 1523-1531, 2018

※6:Noriyuki Nakanishi, et al., "Cigarette Smoking and the Risk of the Metabolic Syndrome in Middle-Aged Japanese Male Office Workers." Industrial Health, Vol.43, No.2, 2005

※7:Yang Hu, et al., "Smoking Cessation, Weight Change, Type 2 Diabetes, and Mortality." The NEWENGLAND JOURNAL of MEDICENE, Vol.379, 623-632, 2018

※8:the Nurses’ Health Study(NHS)、the Nurses’ Health Study II(NHS II)、the Health Professionals Follow-up Study(HPFS)

※9:「『禁煙が辛い』なら運動すればいいかも」Yahoo!ニュース:2018/02/14