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終息宣言したばかりの「エボラ」コンゴで再流行か

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 WHO(世界保健機関)は2018年8月4日、エボラ・ウイルス病(Ebola Virus Disease、EVDあるいはEbola Hemorrhagic Fever、EHF、エボラ出血熱)が再びコンゴ共和国で流行したと発表した。WHOは先日(7月25日)に終息宣言したばかりだが、なぜ再流行してしまったのだろうか。

エボラ・ウイルス病とは

 エボラ・ウイルス病は、エボラ・ウイルスによるコウモリやサルなどの野生生物由来の人獣共通感染症と考えられている。最初に発生が確認されたのは1976年で、アフリカの南スーダンのNzaraとコンゴのYambukuだ。野生生物以外にヒト間ヒト感染(体液や排泄物などへの接触)により、その後、アフリカ各国でアウトブレイク(伝染病の広域流行)した。

 潜伏期間は平均1週間(2日〜3週間)ほどで、発熱や頭や筋肉などの疼痛が起き、2〜3日で症状が悪化して下痢、嘔吐、出血、臓器不全、白血球の減少などで過去のアウトブレイクによる致死率は25〜90%と死に至ることも多い。

 予防ワクチンや治療薬はまだ研究開発段階(※1)。空気感染はしないが性感染のリスクがあるとされ、野生生物や感染者の体液や排泄物などに接触しなければ、ほぼ感染を防ぐことができる(※2)。

 WHOは7月25日にコンゴにおけるエボラ・ウイルス病のアウトブレイクは、新たに開発された実験用ワクチンによって終息したと宣言した(※3)。最後の感染症例が出てから42日後のことだ。

 だが、この終息リリースでは、エボラ・ウイルス病はコンゴの風土病とも考えられるとし、野生生物などへの接触で再び流行する危険性があることを指摘している。実際、WHOは8月4日に、コンゴ東部の北キヴ州(Nord-Kivu)とイトゥリ州(Ituri)で7月28日にエボラ・ウイルス病とみられる発症が出たとし、隣接地ではない遠方でのアウトブレイクに警告を出した(※4)。

 エボラ・ウイルスの変異は複雑で、最初に発見され、シエラレオネやリベリア、ギニアなどの西アフリカでアウトブレイク(2014〜2016年)を起こした種はザイール(Zaire)型で、ほかにスーダン(Sudan)型などがある。コンゴは過去に9回のエボラ・ウイルス病のアウトブレイクを経験し、今回がアウトブレイクになれば10回目となる。

 コンゴで再流行したのはザイール型と考えられているが、現在は終息しているものの数百キロ離れたコンゴ西部の赤道州でもザイール型の発症が確認され、遠隔地でアウトブレイクする危険性も高い。

 今回の再流行でコンゴ政府はすでに33人が死亡したとみられると発表したが、北キヴ州とイトゥリ州は隣国のルワンダやウガンダとの国境に近く交通の要衝だ。また、豊富な地下資源をめぐっての部族対立も潜在的にあり、アウトブレイク対策の障害になるのではないかと危惧されている。

 こうした政治経済的な背景もあり、依然として死者を土葬する風習が残っているために感染リスクも高く、サルなどの野生生物を食べる習慣もありコウモリなどに接触する機会も多い。

 実験用ワクチンによって終息宣言が出されたということだが、エボラ・ウイルス病を根絶させるためには、早期発見と患者の隔離といったもののほかに(※5)、公衆衛生と疫学、教育などの観点から考えられた政策的な対応が必要になるだろう。

※2018/08/11追記:オランダの医学雑誌『LANCET』にエボラ・ウイルスに対するワクチンについての論考が出た。そもそもワクチンの評価をしようにも罹患サンプルを集めにくく、プラセボ比較試験も倫理的に問題がある。子どもの発症が重要なのだが、子どもを使った臨床試験はさらに難しい。だが、ワクチンの開発は続けなければならない、ということだ。Yves Levy, et al., "Prevention of Ebola virus disease through vaccination: where we are in 2018." The LANCET, doi.org/10.1016/S0140-6736(18)31710-0, 2018

※1:Charlotte J. Haug, "Keeping Your Cool- Doing Ebola Research during an Emergency." The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE, Vol.378, DOI: 10.1056/NEJMp1806978, 2018

※2:WHO:Ebola virus disease(2018/08/06アクセス)

※3:WHO:Ebola virus disease - Democratic Republic of the Congo:25 July, 2018(2018/08/06アクセス)

※4:WHO:Ebola virus disease - Democratic Republic of the Congo:4 August, 2018(2018/08/06アクセス)

※5:Joseph A. Lewnard, "Ebola virus disease: 11,323 deaths later, how far have we come?" THE LANCET, DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(18)31443-0, 2018

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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