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増収増益の日本電産 欧州にEV向け新工場 売上高10兆円も視野

井上久男経済ジャーナリスト
日本電産の創業者、永守重信会長(写真:ロイター/アフロ)

 日本電産は26日、2021年3月期決算の業績見通しを上方修正した。20年4~6月期の第一・四半期決算を発表した7月時点での見通しとの比較では、売上高が3・3%増の1兆5500億円、営業利益が12%増の1400億円、当期利益が5%増の1050億円になる見通し。

 

売上高は四半期ベースで過去最高

 記者会見した永守重信会長は「第一・四半期は新型コロナウイルス禍の影響により出足が鈍かったが、その後調子が回復した」と語った。世界各地の工場の稼働率も回復しており、コロナ危機以前の今年2月を100とした場合、9月に中国は94%、北米は95%、アジアは97%にまで復活した。

 同日発表した20年7~9月期の第二・四半期決算は、第一・四半期と比べて急激に回復。売上高は前期比23%増の4149億円となり、四半期ベースでは過去最高となった。営業利益も49%増の414億円で、営業利益率は7ポイント上昇して2桁の10%になった。

 

機能し始めた「2トップ体制」

 製品別では同社が将来の柱と見込む電気自動車(EV)向けのモーターなど車載事業は第一・四半期の売上高が568億円で約2億6000万円の営業赤字だったが、第二・四半期は売上高が923億円、約47億円の黒字となった。精密小型モーターや家電・商業・産業用モーターなど現在の同社の屋台骨事業も増収増益だった。

 サプライチェーンの見直しや、低収益ラインの撲滅など「ダブル・プロフィット・レシオ(WPR)」と呼ばれる徹底した合理化に加え、4月から社長に就任した元日産自動車COOの関潤氏と永守氏による「2トップ体制」が定着したことで、「経営にリズム感が出てきた」と永守氏は語った。車載事業と家電・商業・産業用モーターは関氏、その他事業とM&A関連は永守氏といった具合に分担し、責任も明確化している。

 決算発表と同時に永守氏は、今後の事業展開の計画なども示した。日本電産は、EV向けトラクションモーターシステムの事業に力を入れている。このシステムは、モーターとそれを制御する半導体、ギアが一体となったEVの心臓部の一つだ。こうした事業を拡大させることで日本電産は30年に売上高10兆円を目論む。

 

欧州に100万台規模のモーター工場

 具体的には30年までにトラクションモーターの販売1000万台、市場シェア1位の40~45%を目指すという。この目標に向けて、まず中国の開発・生産能力を拡大、現在の浙江省の拠点に加えて、開発センターを蘇州に今年9月に新設。来年には大連にもオープンさせる。

 中国に続いて欧州市場を攻める計画で、「欧州で100万台規模の新工場を作る」と永守氏は説明。さらに北米への投資時期も前倒ししたい考えだ。

 中国政府がEV普及を支援していることに加え、欧州では21年から二酸化炭素排出規制が強化され、15年比で3割削減が求められるうえ、30年には90年比で55%の削減が求められるため、EVを基軸に電動車の普及なしでは規制をクリアできない状況になる。米国でもカリフォルニア州が35年までに同州内で販売される新車はすべてゼロエミッション車にする規制を強化する流れだ。

 

永守会長「変化できる企業が生き残る」

 奇しくも日本電産が決算やこうした計画を発表した26日は、菅義偉首相による国会で初の所信表明演説の日と重なった。菅首相も「2050年に温暖化ガスを実質ゼロにすること」を表明。産業界に革新的なイノベーションを起こすことを促した。

 永守氏も「コロナ禍の後は技術革新が起こり、世の中は大きく変化する。経営者もいかに変化できるかが生き残りのための条件」との考えを表明した。EVはもう一つの心臓部、電池のコストが高いことは普及拡大のネックになっているが、永守氏は電池のコストが技術革新と量産効果によって25年頃には現在の5分の1に落ちると予測。そうなればEVが一気に普及するとの考えだ。

 

いずれ1兆円の利益が出る事業

 そうした時代に備えて永守氏は、「いずれ1兆円の利益が出る事業」と位置づけ、車載事業を強化している。「50年計画で事業をやっている」とも語った。事実、永守氏は昨年、「新50年計画」を策定し、日本電産が向かうべき目標や方向性を示した。

 永守氏はWPRという手法を使って四半期ペースの決算対応、すなわち短期的なスパンでの収益向上と、社会の変化を見通す長期的なスパンでの経営をミックスさせるのが得意だ。実はこうした「二刀流経営」ができる経営者は少ない。

稼いだ金を成長のために惜しみなく投入

 日産元会長のカルロス・ゴーン氏に象徴されるように、リストラで短期的な収益を出せても、変化の激しい時代に企業を持続的に成長させるのは珍しい。

 永守氏は既存の基幹事業で徹底的に合理化し、そこで得た利益を将来戦略に投資していくバランスが絶妙であるがゆえに今の日本電産がある。簡単にいえば、締り屋だが、単純なケチではなく、稼いだ金は将来の夢のためには惜しみなく使うということだ。こうした手法は、永続する京都の商家では「始末家」と呼ぶそうだ。

 筆者の独断と偏見ではあるが、チーターのようにすばしっこく獲物を追い求めながら、ライオンのように用意周到に待ち伏せの狩りで大物を確実に仕留める経営手法のようにも見える。                                   

経済ジャーナリスト

1964年生まれ。88年九州大卒。朝日新聞社の名古屋、東京、大阪の経済部で主に自動車と電機を担当。2004年朝日新聞社を退社。05年大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。主な著書は『トヨタ・ショック』(講談社、共編著)、『メイドインジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『会社に頼らないで一生働き続ける技術』(プレジデント社)、『自動車会社が消える日』(文春新書)『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(同)。最新刊に経済安全保障について世界の具体的事例や内閣国家安全保障局経済班を新設した日本政府の対応などを示した『中国の「見えない侵略」!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)

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