ホンダF1撤退は業界再編の号砲

F1からの撤退を表明したホンダの八郷隆弘社長(写真:REX/アフロ)

 ホンダは2日、八郷隆弘社長が記者会見し、2021年シーズン限りでF1へのパワーユニットサプライヤーとしての参戦を終了すると発表した。再参戦は考えておらず、2050年にカーボンニュートラルの実現を目指すという。F1にかかる経営上のリソースを電気自動車(EV)などの電動化にシフトする狙いがある。

 

ホンダ四輪の営業利益率は日産より低かった

 すでにホンダは2030年までに世界販売の3分の2を電動車にする計画を打ち出しており、さらに加速させるためには、F1に使っている研究開発費を電動化投資に回す必要があると判断したと見られる。

 今のホンダは経営状況が厳しい。コロナ危機によって20年4~6月期の第一・四半期決算でホンダの四輪事業の損益は1958億円の赤字。2期連続で6700億円規模の最終赤字を計上する日産の営業赤字(1593億円)よりも大きい。

 さらに言えば、ホンダの四輪事業の業績が厳しいのは、コロナ危機だけが原因ではない。19年3月期の四輪事業の売上高は11兆2877億円、営業利益は2096億円。営業利益率はわずか1・9%だった。18年3月期も3・4%と低水準だった。ホンダは営業利益に販売金融分を含めず、日産は含めている違いはあるものの、15年3月期から20年3月期までの過去5年間の営業利益率を、売上高が同規模の日産と比較すると、20年3月期を除いて日産の営業利益率よりも低かった。

研究開発部門に大ナタ

 ホンダの四輪事業が低収益な大きな理由は、研究開発投資の効率の悪さだ。ホンダは二輪事業や汎用機事業なども含めて20年3月期に8214億円の研究開発費を投資した。このうち8割(6600億円)程度が四輪向けと見られ、研究開発は日産の5448億円よりも大きい。

 八郷社長は不効率な研究開発費を問題視し、改革を進めてきた。ホンダの研究開発は100%子会社の本田技術研究所が担っている。同研究所が開発して設計図を書き、試作して、それを本社に渡し、本社が量産と販売・サービスを担う仕組みだ。創業者の本田宗一郎氏が夢のある技術開発を大切にしてきたので、本社の業績に左右されないように研究開発部門を本社から切り離したとされる。

 しかし、最近のホンダは、そこに甘えが生じていた。リスクのある開発を嫌う傾向に陥り、トヨタ自動車の後追いのような開発が中心になっていた。このため、ホンダからは軽自動車以外でヒット車が消え、世間を驚かすような技術も出なくなった。

 こうした事態を受け、八郷社長は19年4月、同研究所の四輪担当部門を、量産車を担当するオートモービルセンターと、失敗するリスクはあるものの夢がある将来技術を担当する先進技術研究所に分割。さらに20年4月にはオートモービルセンターを本社の四輪事業本部に集約し、量産車の開発から生産、販売サービスまでを本社で一貫する体制に変えた。

米GMと共通化推進

 筆者はこれまで、この八郷改革を創業以来の大改革と見ていた。その背景には、前述したように四輪事業の苦境があった。こうした大改革を進めてもホンダが抱える課題は多く、出遅れたEV戦略、国内でトップブランドの軽自動車「N-BOX」の採算の悪さは今後も対応を迫られるだろう。

 世界の自動車産業は今回のコロナ危機で大きな打撃を受け、おそらくこれから合従連衡の動きが強まってくる。すでにホンダは今年9月、米GMと北米地区でパワートレインやプラットフォームを共通化すると発表した。

このままでは再編の渦に呑み込まれる

 また、今年8月には英紙フィナンシャルタイムズが、「日本政府関係者がホンダと日産の経営統合を昨年末に模索していた」と報じた。

 これまで資本的には独立独歩できたホンダといえども、100年に一度の大変革期にある業界で生き残れるとは限らない。自動車産業界には、二酸化炭素削減、デジタルデータとの融合など大きな波が襲い掛かっているからだ。

 こうした状況下では将来を見据えた優先的に取り組むべき技術にリソースを投入しなければ、負け組に転落してしまうのは必至だ。モータースポーツはホンダのDNAとも言われる。同時にかつてはCVCCエンジンでアメリカの厳しい排ガス規制(マスキー法)をクリアしたことが語り継がれるほどホンダは環境問題に早くから取り組んできた。八郷社長は記者会見で「環境対応もホンダのDNA」と語った。

 ホンダのF1参戦終了は、いよいよ業界の大きな変化が身近に迫っていることを示唆している。これが業界再編の号砲となるのではないかと筆者は感じるのだ。