トヨタとホンダの決算から見えた「コロナ危機」後の世界

トヨタの豊田章男社長(左)と今年4月から「番頭」の肩書となった小林耕士取締役(写真:つのだよしお/アフロ)

 5月12日から自動車メーカーの決算発表が始まった。トップバッターはトヨタ自働車で、続いてホンダだった。28日には日産自動車が決算と中期経営改革の見直しを発表する予定だ。

 トヨタは豊田章男社長、ホンダは八郷隆弘社長がリモート会見に臨み、「コロナ危機」への対応などについて語った。本稿では主に、両社が「コロナ危機」後の動きをどう見ているのかについて触れていく。

トヨタ「この局面では見通しは随時変わる」

 新型コロナウイルス感染症の影響が今後どれほど出てくるのかという点で、2021年3月期決算の業績見通しがどうなるのかが注目された。見通しをトヨタは開示し、ホンダは見送った。

 トヨタは21年3月期に営業利益が前期比8割減の5000億円になる見通し。連結販売台数(出荷台数)が22%減少の895万台から700万台に落ち込むことを前提に利益予想をはじき出した。ただ、「このような局面では随時見通しは変わる」(トヨタの近健太CFO)ため、地域別の販売計画などの詳細は公表しなかった。

 現状でのトヨタの出荷台数の減少見込み幅は、率で22%、台数で195万台。08年のリーマンショック時、1年間でトヨタの出荷台数は、率で15%、台数で135万台落ちた。為替の条件などが当時と違うとはいえ、そこから言えることは、現時点でトヨタはリーマンショック時よりも今回の「コロナ危機」の方が経済に与える影響は大きいと判断している、ということだ。

トヨタ、ホンダとも「コロナ危機がなければ増益」

 20年3月期決算について、トヨタの営業利益は前年同期比1%減の2兆4428億円。「コロナ危機」の影響で、売上高で3800億円、営業利益で1600億円の、それぞれマイナスが生じた。ホンダの営業利益は12・8%減の6336億円。「コロナ危機」による影響で1298億円のマイナスがあった。

 ここで言う「コロナ危機」による影響とは、販売台数減少による売上減や、景気悪化で自動車ローンが払えなくなることを想定しての貸し倒れ引当金などのことだ。両社ともに「コロナ危機」がなければ、増益決算だった。

 ホンダの場合は、収益に占める二輪事業の割合も大きいので、二輪、四輪、金融サービス、ライフクリエーション(汎用エンジンなど)の4事業別に営業損益を見ていくと、二輪事業の営業利益は2%減の2856億円、四輪は27%減の1533億円、金融は7%減の2197億円、ライフクリエーションは赤字が109億円から250億円に拡大した。営業利益率は二輪の13・9%に対して四輪は1・5%。四輪の低収益性が相変わらずの課題として残っている。

 

非接触社会の加速で「パーソナルな移動」が増加

 会見で豊田社長も八郷社長も、「コロナ危機」を経て、あらゆる価値観が変化していくとの共通認識を示した。そのうえで、両社とも苦しい中で、研究開発投資は減らさずに維持していく方針も示した。短期的な視点で利益を追い求め、研究開発費を減らせば、将来の「飯のタネ」に影響するからだ。製品やサービスで勝負する会社である以上、そこへの投資を怠れば、必ずしっぺ返しがくるということを示唆している。

 ポストコロナの自動車業界の動向について、豊田社長は「よりパーソナルなニーズが増えるだろう」と語った。感染防止の観点から「非接触社会」が加速していくことを想定しての発言だ。イメージとしては一人乗りで短距離利用する電気自動車(EV)のニーズが高まってくるかもしれない。

 この「非接触社会」の加速は、働き方改革も推進させるという考えのもと「一気にやり方を変えていく」と豊田社長は語った。自身の仕事もリモートに変化したことで、従来に比べて移動時間が80%、会議時間が30%減ったことで仕事の仕方が変わっているという。現場の技術者がリモートで使うことができる設計システムの導入などを急いでいる。

 八郷社長は「事業環境だけではなく人々の価値観も変化していく。密集や集中への不安がある中で、パーソナルな移動が増え、社会は都市部への集中から分散型コミュニティーに変化していく」と語った。

 ホンダは昨年7月、「ホンダミーティング2019」において次世代技術についての方向性を示した。そこで新コンセプト「eMaas」を発表。これは「エネルギー(e)」と「モビリティ・アズ・ア・サービス(Maas)」を掛け合わせた造語で、効率的なエネルギー供給と移動手段・サービスを組み合わせるコンセプトだ。

ホンダ「失敗を恐れない」研究所に

 ホンダはいま、着脱式可搬バッテリーや移動型水素生産装置などのエネルギー事業を強化している。これらと、開発中の電動型物流自動運転プラットフォームや超小型EV、電動二輪などと組み合わせていく。分散型コミュニティーになれば、こうした商品のニーズが高まると見て、商品力強化を急ぐ。

 加えてホンダの場合は、研究開発体制が不効率だったので、今年4月に開発部門の子会社である本田技術研究所の一部機能を本体と統合した。商品企画→開発→量産という流れの中で、開発と量産を一体化し、本体の四輪事業本部内に「ものづくりセンター」を新設した。

 これにより、本田技術研究所は、量産に近い技術ではなく、将来的に革新を生むような技術に注力していく。この点について八郷社長はこう説明した。

「量産前提の開発は100%の成功が求められるのに対して、革新的な技術を生む場合は99%の失敗を恐れてはいけない。研究所は革新的な開発に特化し、将来の価値創造に取り組んでいく組織にする」

 この意味するところは、同じ開発と言っても、商品化に近い部類は納期も決まっていて、「やっぱりできませんでした」では済まないので、冒険できないということだ。セレンディピティ(偶然の発見)という言葉があるように、新しい発見や技術は、むだを積み重ねた上で成就する一面がある。無駄やリスクを恐れていては技術革新は生まれないということを八郷社長は強調したかったのであろう。

 

重要なのは聖域なき改革と将来展望

 そもそもホンダの研究開発部門が別会社化されていたのは、創業者の本田宗一郎氏が、本体の業績に一喜一憂しないで開発に邁進できることを狙ったからだと言われている。「失敗しても俺が骨を拾ってやる」と創業者自身が技術者に声をかけていたという話もホンダOBから聞いたことがある。そうした意味で、今回の研究所改革は、創業の原点に立ち返る意味合いもある。

 トヨタとホンダの決算発表を取材して感じたことは、未曽有の「コロナ危機」の局面にあるのだから、聖域なき構造改革を進めなければならないし、社内も危機感を共有しやすいために改革を進めやすくなるということだ。そして、同時に将来のあるべき姿を示さないと、社員も顧客も地域も株主もステークホルダーは納得しないということではないだろうか。