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吉村知事が、安倍首相や西村大臣より断然勝る「ファッションセンス」の意義

井上久男経済ジャーナリスト
常に作業着姿の大阪府の吉村洋文知事(撮影:THE PAGE/ヤフー株式会社)

吉村知事vs.西村大臣

 ツイッター上で「#吉村寝ろ」といった励まし投稿が増えていることなどからも分かるように、大阪府の吉村洋文知事の、新型コロナウイルス感染症への対応ぶりが評価されているようだ。5月5日には、外出自粛・休業要請の解除を行う際の大阪府独自の「出口戦略」を示して、それがまた評価された。

吉村知事に刺激され?国も「出口戦略」

 その記者会見で「国が示されないので」と吉村知事は言った。それには、国が発した緊急事態宣言の解除基準を国が示さないので、といった不満的なニュアンスが含まれていた。その発言に対して、新型コロナ対策担当の西村康稔・経済再生担当相はツイッターで「解除基準を決めるのは知事の裁量」と反論した。確かに特措法上は知事の裁量だ。吉村知事は今後発信には気を付けますと謝罪したことで、「出口戦略」を巡る地方と国の鞘当は収まった。

 ところが吉村知事の発言に刺激されたのか、安倍晋三首相は5月6日夜、5月14日には国としての「出口戦略」を示す方針を示した。

いつでも作業着姿の「ファッション」で国を圧倒

 特措法上の決まりごとがどうであれ、国が緊急事態宣言を出して国民に不便な生活を求め、大きな経済的不利益も被っているのだから、感染状況などがどういう状況になれば緊急事態宣言が解除されるのかを示しておかなければ、「暗いトンネル」の中に入ったままと同じ状態で希望が見いだせない、というのが大方の国民感情ではないか。そうした意味でも吉村知事が独自の「出口戦略」を示したことは評価できるだろう。

 実は、安倍首相、西村大臣と比べて、吉村知事が圧倒的に勝っていることがある。それは「ファッションセンス」だ。吉村知事は、記者会見でもテレビの生出演でもいつも作業着姿だ。トップとしていつでも現場に駆け付けるという気概が伝わってくるし、最前線で指揮しているのだろうといった雰囲気も伝わる。

 これに対し、安倍首相も西村大臣もスーツ姿が多い。西村大臣が都内のスーパーを視察した際には、クルールビズが始まったせいか、ジャケットにノーネクタイで、やや締りがなかった。安倍首相や西村大臣の仕事の内容を否定するわけではないが、非常時にスーツ姿ではどこか高いところにいる偉い人で、本当に国民のことを考えているのだろうかというイメージを与えてしまうのではないか。

小池都知事はパフォーマンス上手?

 こういう危機的局面で組織のトップがこまかい現場作業をするわけではない。最も求められるのが「決断力」だ。そして知事であれば、まず配下で動く府職員に知事の考えが伝わらなければ、適切かつ着実な政策の実行には結びつかない。知事の作業着姿は、現場で動く府職員に対して「知事も一緒に戦っている」といったシンパシーを与えるだろう。それが府職員の「精神的エネルギー」の注入にもなる。吉村知事の作業着姿がたとえ「演出」であったとしても一定の効果はあるはずだ。

 霞が関や永田町でパフォーマンスがうまいと囁かれる小池百合子東京都知事も最近は作業着姿が多く、臨場感を漂わせている。ただ、マスクにもなにがしかの模様が入っており、パフォーマンス感が見え見えだ。

トヨタ社長が着る「ナッパ服」のメッセージ

 実は企業のトップでも作業着を大切にしている。トヨタでは作業着を「ナッパ服」と呼ぶ。トヨタ自動車の豊田章男社長は「ナッパ服」で執務していることもあるし、記者会見には敢えて「ナッパ服」で臨むことがある。

 トヨタの生産現場がある愛知県豊田市の本社地区では、経理や調達や生産管理や開発などの部署で働くホワイトカラーも「ナッパ服」を着る風土があった。何かあればいつでも現場に駆け付けるという発想からだ。しかし、そうした風土が薄れていた。

 豊田氏は2009年に社長に就くことが決まった記者会見で「現場に一番近い社長でいたい」と語った。それには現場で起こっていることを重視するトヨタの風土を取り戻したいといったトップのメッセージがあった。

 そうした姿勢を示すためにも豊田社長は「ナッパ服」を愛用しているのだろう。こうした豊田氏の姿勢が現場に伝わり、生産現場での社長の評判はいい。豊田社長の「ナッパ服」愛用は、たとえそれが「演出」であったとしても、自身の意向を伝え、組織を束ねていくための一つの手段と見ることができる。

トップの「ファッションセンス」と現場の士気

 ただ、トヨタの場合は、豊田社長のリーダーシップがあまりにも強すぎるために、社長の意向を過度に忖度する組織になりつつある。社長が「ナッパ服」を着ているので、一時は俺も俺もと社長に気に入られようと幹部社員が「ナッパ服」を社内の売店で買って着たので売り切れになったという逸話が残るほどだ。それはさすがにやり過ぎだ。

民主党政権と「作業着病」

 読者は枝葉末節の話だと感じるかもしれないが、トップのファッションセンスは、組織を束ね、組織の士気を向上させることと無関係ではない。それが政治家であれば有権者への、企業であれば消費者や投資家へのアピールにつながる。断っておくが、外見だけではだめで、当然ながらトップとしての資質や、意思決定の中身も問われる。

 資質や意思決定の中身に疑問符が付くようなことばかりをやっていると、トップの「作業着姿」は、「作業着病」となってしまう。筆者が言う「作業着病」とは、アリバイ作りや仕事をしたふりのことを指す。

 それが顕著に現れたのが2011年の東日本大震災の時だった。ファッションセンスがよろしい民主党の女性大臣の中には、作業着の襟を立てて着ている方もいらした。作業着には、現場で機械などに巻き込まれないためにボタンが外側についていないなどの一定の機能もある。襟を立てて着るのは好ましくない。ちなみに東日本大震災の直後には、当時の菅直人首相も枝野幸男官房長官も作業着姿で記者会見をしていた。東京電力の清水正孝社長(当時)も、作業着を着ている場面が多かった。

 ある大手新聞社でも、震災直後、東京本社編集局長室で、社内で最も処世術に長けていると言われていた編集局長が作業着姿で執務する姿が目撃されている。

 

肝心なことは中身と外観の相乗効果

 ずばり言ってしまうが、現場の実情を知らず、ろくな仕事をしていないくせに汗をかいている姿を演じるために「作業着」が使われることもある。組織のトップが非常時に「作業着」を着ているからと言って、その人が本当にやるべきことをしているかというと、そうではない。「作業着姿」に騙されてはだめだ。

 しかし、前述した吉村知事の場合は、SNS上などで新型コロナ対策に奮闘しているとの評価が高かったので、「作業着姿」がその評価をさらに高めているといったことではないだろうか。中身と外見の相乗効果とも言えよう。

経済ジャーナリスト

1964年生まれ。88年九州大卒。朝日新聞社の名古屋、東京、大阪の経済部で主に自動車と電機を担当。2004年朝日新聞社を退社。05年大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。主な著書は『トヨタ・ショック』(講談社、共編著)、『メイドインジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『会社に頼らないで一生働き続ける技術』(プレジデント社)、『自動車会社が消える日』(文春新書)『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(同)。最新刊に経済安全保障について世界の具体的事例や内閣国家安全保障局経済班を新設した日本政府の対応などを示した『中国の「見えない侵略」!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)

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