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マツダ決算は大幅下方修正 「クルマの良さ」をブランド力に結び付けられるか正念場

井上久男経済ジャーナリスト
11月1日、決算や中期経営計画について説明するマツダの藤原清志副社長(筆者撮影)

 マツダは1日、2020年3月期決算の業績見通しを大幅に下方修正した。売上高は今年5月の期初予想の3兆7000億円から3兆5000億円、営業利益は1100億円から600億円にそれぞれ下方修正した。

「マツダ3」スタートダッシュできず

 500億円の減益の構図は、固定費の効率化などにより132億円の増益が見込める一方、米ドルやユーロなど主要通貨が円高に触れるため、為替による影響で632億円の減益となり、差し引きマイナス500億円となった。

 グローバル販売台数も162万台から155万台に落ちる見通し。日本、北米、欧州、中国といった主要市場ですべて落ちる。マツダは量販車種の「マツダ3(日本での旧車名アクセラ)」を今年フルモデルチェンジしたが、いまひとつ軌道に乗っておらず、販売が伸ばせていない。

 

「マツダ地獄」からは脱却

 マツダ側の説明では、「マツダ3」に限らず、値引きをしてクルマを市場に押し込んでいないので、台数が全体的に伸び悩んでいるという。かつてのマツダは、ブランド力のなさから台数が苦戦し始めると値引きして新車を売り、それが中古車価格に影響して下取り価格がダウンする負の連鎖を招いていた。これを、マツダ社内でも「マツダ地獄」と揶揄することがあった。

 しかし、現在はかつてに比べて値引きせずに、商品力やその価値を顧客に理解してもらって売る「質的改善」を優先している。記者会見したマツダの藤原清志副社長は「『マツダ地獄』はなくなった」と説明した。

 自動車メーカーの決算では、値引きをしたり、原価が高かったりする収益性の悪い車種が多いと、「台数構成」と呼ばれる、いわゆるモデルミックスでの収益が落ち込む。しかし、マツダの20年3月期中間決算(19年4~9月)を見ると、営業利益の増減要因における「台数構成」は312億円の増益。これは、無茶な値引き販売をしなくなって、販売台数は減っても1台当たりの単価・利益が高まったからだ。しかし、この台数構成による312億円の増益要因よりも、円高による375億円の減益要因の方が大きいことなどから、中間決算における営業利益は前年同期に比べて減少した。

しぶとくなったマツダ

 マツダが出すクルマのデザインや性能など商品力を評価する声は多い。しかし、その評価の声が、いまひとつ販売増に結び付いていない面がある。

 マツダは2000年代に公募増資を2回行うなど経営危機の状態にあったが、12年に発売したSUV「CX-5」を皮切りにヒット車を出し続け、息を吹き返した。ハイブリッド車並みの燃費を売りにする「スカイアクティブエンジン」とデザインの良さが消費者の心をつかんだ。

 マツダは少ないリソースで効率的に開発する「コモンアーキテクチャー」と呼ばれる設計手法を駆使し、製造原価も下げた。かつてのマツダなら円高に触れると、輸出比率が高いために、すぐに赤字転落していたが、今回は円高でもなんとか黒字は確保した。マツダはしぶとくなったと言える。

 12年に「CX-5」を出した当初は、その商品力だけではなく、価格も魅力的だった。しかし、先進安全などの新技術をクルマに盛り込むなど商品価値を高めたと考えたマツダは、価格の高いグレードを設けた。これにより、一部の消費者に、マツダ車は高くなったというイメージを与えた。

問われる総合力

 消費者にとって「価格」は重要なファクターだ。価格を上げて、台数も増やすのは並大抵のことではない。少々高くても、このクルマなら買うと消費者に思わせるように商品力をさらに磨かなければならない。

 そう思ってもらうためには、販売店での説明力やサービス対応力の向上も不可欠だ。いくらメーカーが「先進技術を入れてデザインも優れている」とアピールしても、実際に売るのは販売店だからだ。直接消費者と接するところに信頼がなければ、顧客は財布のひもを緩めない。そうした意味で、「商品力」とは、クルマというハードの価値だけではなく、販売店も含めたマツダの「総合力」である。それがいま、問われている。

 12年の「CX-5」からモデルチェンジが一巡し、今年の「マツダ3」から新世代商品の投入が始まった。車名も世界で統一したことで、日本では「アクセラ」が「マツダ3」、「デミオ」が「マツダ2」に名称変更。「マツダ」というブランドを強調するためだ。さらにメーカーのデザイナーが監修して、商品にマッチした売り場づくりにも取り組んでいる。

 ブランド力で売ることを目指しているわけだが、ブランド力とはまさに「総合力」だと筆者は思う。そして、「総合力」の向上は、人材育成も含めて一朝一夕には成しえない。今のマツダは、ブランド力で売れる会社になれるか否か、生みの苦しみの状態にある。

経済ジャーナリスト

1964年生まれ。88年九州大卒。朝日新聞社の名古屋、東京、大阪の経済部で主に自動車と電機を担当。2004年朝日新聞社を退社。05年大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。主な著書は『トヨタ・ショック』(講談社、共編著)、『メイドインジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『会社に頼らないで一生働き続ける技術』(プレジデント社)、『自動車会社が消える日』(文春新書)『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(同)。最新刊に経済安全保障について世界の具体的事例や内閣国家安全保障局経済班を新設した日本政府の対応などを示した『中国の「見えない侵略」!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)

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