英国撤退から見えたホンダに忍び寄る「危機」 いずれ再編対象か

ホンダの八郷隆弘社長(写真:ロイター/アフロ)

 ホンダの八郷隆弘社長は19日、記者会見し、2021年中に英国での四輪車の現地生産を終了すると発表した。英国ではこれから労使交渉に入り、約3500人の従業員の処遇について協議する。八郷社長は「できる限りのことは尽くしたい」と説明したが、解雇になる可能性もある。

 

「シビック」を英国から北米に移管

 ホンダは現在、英国南部のスウィンドン工場で年間に約16万台の「シビック」を生産し、その約半分を北米に輸出している。欧州で生産されているシビックは5ドアのハッチバックタイプで、日本にも英国から輸出している。

 八郷社長は「次期モデルの『シビック』をどこで生産するかを検討し、グローバルに最適化する観点で英国からの撤退を決めた」と説明。次期モデルの「シビック」は英国から北米に移管する。ホンダは狭山工場の閉鎖を決めるなど過剰設備に悩んでおり、主力車種のモデルチェンジと同時に生産体制を再構築する狙いがある。

 ホンダはこれまで、需要のある地域で現地生産する「地産地消」を進めてきたため、日本からの輸出比率が低い。しかし、3月末に英国がEUから離脱する際に、「合意なき離脱」になれば、英国からEUへの輸出には10%の関税がかかるようになるため、こうしたリスクも英国生産からの撤退を後押しした。

 ホンダの2018年4~12月期決算で、欧州地区の売上高は6668億円、営業利益は86億円で、営業利益率はわずか1・3%しかない。かつて英国の子会社を減損処理するなど欧州事業は不振が続いてきた。関税が引き上げられれば、さらに経営が苦しくなるとみて、早期の対応をとったと見られる。

電動車は中国から輸出

 一方、日本と欧州の間で結ばれた経済連携協定(EPA)によって、日本から欧州への輸出関税が段階的に引き下げられて、いずれゼロになる。そのため、欧州市場へは日本からの輸出で対応する。

 また、欧州では二酸化炭素排出規制が強まる中、EVの投入など電動化シフトは避けられない状況にある。これについて八郷社長は「環境規制の方向性が近い中国と商品ラインアップを共有する」と説明。中国で生産するEVなどを欧州に輸出する計画だ。

同時にホンダは2021年中にトルコでの四輪車生産も終了させると発表した。これも過剰設備への対応の一環だ。巨大設備産業である自動車産業にとって、動かない設備・人員を抱えることは財務的に負担が大きい。

2019年2月1日、第3四半期決算を発表する倉石誠司副社長(左側、筆者撮影)
2019年2月1日、第3四半期決算を発表する倉石誠司副社長(左側、筆者撮影)

四輪事業が赤字転落の可能性

 ホンダの2018年4~12月期決算の四輪事業の売上高は8兆3749億円に対して営業利益は2627億円で営業利益率は3・1%。トヨタ自動車が8・1%、日産自動車が3・7%なので、大手3社の中では最も低い。同じく軽自動車を自前で開発・生産するスズキの9%から見ても大きく見劣る。同10~12月期の3カ月間だけでみてもホンダの営業利益率はさらに悪化して1・4%。いつ赤字に転落してもおかしくない水準だ。

 ホンダは軽自動車のN-BOXシリーズの販売台数が好調だが、「この軽自動車事業もあまり儲かっておらず、過剰設備と開発コストの高さが経営の足を引っ張っている」(ホンダ幹部)状況にある。一部OBからは「ホンダは経営危機寸前」といった声まで漏れ伝わってくる。

 八郷社長が英国生産撤退と同時に発表した開発体制の変更が、実は改革の「本丸」だが、社内には改革を阻止する守旧派もいるとされ、改革が実行できるか、絵に描いた餅に終わるかも注目される。

八郷社長が研究開発担当

 開発体制の変更では、意思決定の迅速化を狙って、八郷社長は自らを研究開発担当役員と位置付け、不振の四輪事業本部長は、これまで常務執行役員が務めていたのを倉石誠司副社長がその任にあたる。人事面でも経営トップが前面に出る形となった。そして、次期社長が有望視される三部敏宏常務執行役員が、ホンダの開発部門である子会社の本田技術研究所社長に就き、実務面を統括する。

 次のポイントは、本田技術研究所内に、今すぐ収益に結びつかなくても長中期的に必要な技術を開発する先進技術研究所と、目先のクルマ開発に徹底的にこだわるオートモービルセンターを新設したことだ。ホンダから革新的なクルマが出なくなったと言われるが、その対応として、短期的な商品開発を強化しながらも、将来的に大きく変わろうとしてる自動車産業の潮流に乗りおくれないための組織改編と言えるだろう。

二輪事業は開発と営業を一体化

 現在は稼ぎ頭である二輪事業も大きく変革させる。本田技術研究所内にある二輪の研究開発部門を切り離して、本社の二輪事業本部と一体化させることで意思決定の迅速化を図る。これについて八郷社長は「インドや中国の競合メーカーの追い上げに対応するため」と説明した。ホンダの二輪は、小型、中型、大型と幅広い商品ラインアップをそろえており、インド・中国メーカーは現状では小型中心。しかし、今後は中型・大型領域にも進出してきて激しい競争になることが予想されるため、それに備える意味もある。

 ただ、意思決定の迅速化を狙うならば、二輪事業部門を逆にホンダ本体から切り離して分社化する手もあったはずだ。実際、ホンダ関係者によると、収益が悪化し、赤字転落も予想される四輪事業と一緒に括られることを嫌った二輪事業部門は分社化を画策していたが、それが通らなかったという。

改革不発なら銀行が介入か

 こうした開発体制の変更は一定の評価はできるものの、果たして収益性の向上にどこまで寄与できるかは未知数だ。開発部門である本田技術研究所は子会社という形態を取っており、開発から試作までをホンダ本社から請け負い、多くの設計図を書けば書くほど子会社の売上高が上がるシステムになっている。無駄な設計図であっても量をこなす技術者が評価される傾向にあったという。このため、本田技術研究所はこれまで開発の効率化という発想に欠けるきらいがあり、それが高コスト体質の一因でもあった。

 こうした改革が実を結ばないようだと、メーンバンクである三菱UFJ銀行の経営介入も予想される。三菱UFJ銀行はホンダ系下請け企業に資金を貸し込んでおり、ホンダの四輪事業がさらに苦境に落ち込めば、下請けが疲弊するとの危機感が強いため、現在はホンダの四輪事業を監視している。

 ルノーとの関係がぎくしゃくしている日産の将来展望も決して安泰ではなく、日産とルノーと三菱自動車の三社連合が「弱者連合」になる可能性がある。ホンダも同様に今のままでは四輪事業は「負け組」に入るかもしれないし、業界再編のターゲットになるだろう。昨日のホンダの八郷社長の記者会見から筆者は、日本の自動車産業に危機が忍び寄っていることを感じ取った。