「技術で勝ってルールで負ける」日本の自動車会社

ホンダの八郷隆弘社長も東京モーターショーではEVシフトを鮮明に打ち出した(写真:ロイター/アフロ)

 世界でエコカーの定義からハイブリッド車を外す動きが加速している。その根底には、日本が得意とする技術を意識的に外すことによって、「競争のルール」をリセットしたいとの各国の思惑がある。日本の自動車産業は「技術で勝ってルール作りで負ける」という厳しい局面に追い込まれようとしている。

中国は強国路線へ

 ルールのリセットで大きく動き出したのが中国だ。中国は2017年9月28日、2019年から一定数のエコカーの製造・販売を義務付ける新環境規制を発表した。そこからハイブリッド車が外された。中国は戦略上、電気自動車(EV)をエコカーの中心に置くと見られる。

 新規制が発表される約半年前の4月には新しい自動車産業政策「自動車産業中長期発展計画」が発表された。同計画では「今後10年間で自動車強国になる」方針が示された。大国ではなく、「強国」という点がミソだ。

 中国の16年の新車販売台数は2800万台と8年連続で世界首位をキープした。しかし、自国発の技術がないため、エンジンや変速機などの主要技術は日本やドイツなど海外からの技術供与で成り立っている。新産業政策によって、こうした構図からの脱却を図る狙いだ。

自国優位にルール変更

 EVについては、まだ各国メーカーが本格化させたばかりで軌道に乗ったわけではない。一部のメーカーは先行しているものの、まだスタートライン付近にいると言ってもいい状況だ。一気にEVシフトすることで、中国にも勝機があると判断したと見られる。

 こうした戦略の下、中国は敢えてEVへの転換を強引に図っている面もある。中国の現在のエネルギーミックスの下では、「WELL to WHEEL」(油田からダイヤまで)を考慮すると、2040年頃まではハイブリッド車を普及させる方が二酸化炭素の排出量が総合的に少ないとの試算がある。中国はまだ石炭火力発電に依存しており、石炭で作った電力をEVが使えば、結局は二酸化炭素の削減にならないからだ。

 中国政府はこうしたことは百も承知の上で、他国の産業の競争力を削ぎ、自国の産業を有利な方向に転向させていくために政策を切り替えたと見るべきだろう。新政策については、産業政策を直接担当する部局には異論の声もあったが、共産党の中央が押し切ったという情報も流れている。こうした情報からも国家の強い意志を読み取ることができる。

 

中国と米国は共謀か

 中国に限らず、米国カリフォルニア州でも18年モデルからハイブリッド車がエコカーの範疇から外され、他州の中にはその動きに追随するところも出ている。米国では、テスラモーターズのイーロン・マスクCEOがハイブリッド外しを画策したと見る向きもある。

そのテスラは、中国・上海の特区に単独でEV工場を建設するとの報道がある。中国では外資規制があり、自動車メーカーは中国企業との合弁が義務付けられるが、テスラの場合は単独での進出と見られ、中国がEVに限っては特別扱いするようだ。そのテスラに対しては17年3月、中国共産党と近い中国企業が出資している。

 ハイブリッド外しは、中国と米国がグルになってやっていると見ることもできる。マスクCEOはいずれEV事業を売却して、宇宙ビジネスと転じると見られている。その際の売却先は資金力が豊富な中国企業になる可能性が高い。

「柔道の教訓」を生かせるか

 日本メーカーの中には、EVよりもハイブリッド車の方が高い技術が求められ、航続距離を気にしないでよい点などから、EVを軽視する動きもある。しかし、「良い技術」が必ずしもデファクトスタンダードを取るとは限らない。デファクトスタンダードを獲得する技術は、その技術を使う会社が多いか否かと、消費者が受け入れるか否かにかかっている。メーカーの自己満足で決まるものではない。

 EVに限らず、自動運転やカーシェアなどの分野に異業種からの参入が相次ぎ、自動車産業界は「異次元競争」が始まっている。こうした局面では新たなルール作りを巡って、企業間、国家間で様々な駆け引きが行われるだろう。

 日本は官民ともこうした動きに鈍感だ。職人気質が悪い方に影響していて、「良いモノ」を造れば報われる的な発想も根強い。良いモノを造る努力は当たり前だとしても、ルールメイキングに参加できなければ、その努力は水泡に帰すのではないだろうか。

 かつて柔道の国際試合では、本来の一本を取る柔道が忘れられ、日本人選手に不利になるようにルールが変えられた。実は産業界でもこれと似たことが起こっているのだ。「技術で勝って勝負で負ける」事態にならないようにするべきだろう。