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「日本のイチゴはデリシャスだが、環境が犠牲に」米有力紙報道 地球温暖化への影響を指摘

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:アフロ)

日本のイチゴはデリシャスだが、生産に大量のエネルギーを消費し、温室効果ガスの主要な排出源になっていると米有力紙ニューヨーク・タイムズが報じた。欧米では環境にできるだけ負荷をかけない農業や畜産業への関心が非常に高く、記事にも読者から多くのコメントが寄せられている。日本の高品質の農産物は海外でも人気だが、今回は、思わぬ形で注目を浴びた格好だ。

「隠れた秘密」

記事(電子版)は3月18日付。書いたのは調査報道専門の記者で、来日し、イチゴ農家や環境問題の専門家に取材してまとめたようだ。

「日本のデリシャスなイチゴの隠れた秘密 それは灯油」と題した長めの記事は、イチゴの旬は本来、春だが、日本では消費者の求めに応じて冬場に生産のピークを迎えると紹介。野菜や果物のハウス栽培は世界中で行われているが、日本のイチゴ栽培はそれが極端で、その結果、本来の旬の時期に栽培する農家が減り、海外からの輸入に頼らざるを得なくなったとも伝えている。

そして記事は、寒い冬にイチゴを育てるには、大きなビニルハウスの中を暖めて人工的な春をつくり出さなければならず、そのために大量のエネルギーを消費していると述べている。

排出量はミカンの10倍以上

主張を裏付けるため、日本の農畜産物や水産物の温室効果ガス排出量を調べた研究論文を引用し、イチゴの生産・輸送に伴う温室効果ガス排出量は、ブドウの約8倍、ミカンの10倍以上と報じている。

記事は、日本のイチゴの値段の高さにも注目。日本では1粒数百ドル(数万円)のイチゴが贈答用に売られていると紹介し、全般に高値なのは生産コストが高いためで、中でも暖房費が農家の収益を圧迫していると指摘。そして、利益を出すためには高値で売らなければならず、そのために、日本のイチゴには高級感ただよう「風変りな名前」が付けられていると分析した。

環境問題に取り組む農家も紹介

一方で記事は、地球温暖化への懸念から暖房の使用を止めたという大阪府箕面市のイチゴ農家に取材するなど、日本の農家の環境問題への取り組みも紹介している。

ニューヨーク・タイムズ紙は米国内だけでなく海外でも読者が多く、影響力が大きい。今年1月には、同紙が「今年行くべき世界の観光地」の2位に盛岡市を選んだことが、日本でも大きな話題になった。それだけに、今回の記事で日本のイチゴ産業に影響が出ないか懸念されるところだ。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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