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ウクライナのジャーナリスト団体が来日 日本に感謝と注文

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
コソボで現地メディアの取材を受けるセルヒー・シェフチェンコ氏(本人提供)

ウクライナの主要ジャーナリスト団体の代表らがロシアの軍事侵攻開始後、初来日した。ウクライナの現状を日本国民に直接伝え、日本からの支援強化を訴える。ロシアとの戦いでは、ロシア政府が流すプロパガンダに対抗するためにジャーナリストの果たす役割が重要との認識が高まっており、彼らを支援する動きが活発になっている。代表の1人が筆者の独占取材に応じ、日本のこれまでの支援に深く感謝すると共に、注文も付けた。

自宅近くが爆撃され、コソボに退避

来日したのは、ウクライナ最大のジャーナリスト組織「全ウクライナ・ジャーナリスト連盟」(NSJU)のセルヒー・シェフチェンコ書記(61)、ジャーナリスト支援のための慈善団体「ジャーナリズム・イニシアティブ」のルドゥミラ・メフ代表(70)ら4人。日本の市民団体の招きで来日した。一行は約3週間、日本に滞在し、各地で講演などを行う。それに先立ちシェフチェンコ氏が筆者との取材に応じた。

シェフチェンコ氏はNSJUの幹部として活動するかたわら、現役のジャーナリストとして取材活動を続け、ウクライナの内外に情報発信している。専門はウクライナ・ロシア関係で、昨年にはロシアの侵略の歴史をまとめたノンフィクション本『恐怖の帝国』(注:筆者仮訳)を出版した。以前、ウクライナの記者団が取材のためバスでロシアに入国しようとした際に、1人だけ入国を拒否されるなど、ロシア当局から目をつけられているジャーナリストの1人でもある。

自宅は首都キーウにあるが、ロシアが軍事侵攻を開始した翌日の2月25日未明、自宅から約300メートル離れた場所が爆撃され、家族と国外退去を決意。現在は東欧のコソボに滞在し、取材活動を続けている。来日する直前の6月20日には他のジャーナリストと共にコソボのアルビン・クルティ首相と会い、取材活動に関する要望を伝えるなど意見交換した。

コソボのアルビン・クルティ首相(右から2人目)と意見交換するウクライナ人ジャーナリストら。右端がシェフチェンコ氏。クルティ首相の左隣りがルドゥミラ・メフ氏(シェフチェンコ氏提供)
コソボのアルビン・クルティ首相(右から2人目)と意見交換するウクライナ人ジャーナリストら。右端がシェフチェンコ氏。クルティ首相の左隣りがルドゥミラ・メフ氏(シェフチェンコ氏提供)

「事実を報道することがわれわれの使命」

NSJUによると、これまでにロシア軍によって殺害されたジャーナリストは約40人に達する。取材中に負傷したりカメラやパソコンなどを破壊されたりしたジャーナリストも多い。今月には、非政府組織「国境なき記者団」(本部パリ)が、4月1日にキーウ近郊で遺体で見つかったウクライナ人フォトジャーナリストはロシア軍から拷問を受け処刑された可能性があると発表している。NSJUは、戦争の最前線で取材を続けるジャーナリストに医療品や必要機材、防弾服を提供するなどの支援を続けている。

こうしたウクライナのジャーナリストに対する海外からの支援活動も活発になっており、日本からも、チョルノービリ原発事故による食品の放射能汚染が原因とみられる病気で苦しむ住民を助ける活動を続けているNPO法人「食品と暮らしの安全基金」や、西日本の生協団体「グリーンコープ」がNSJUを通じ多額の寄付をしている。

シェフチェンコ氏は、「ロシア軍は子どもや高齢者、女性をも無差別に殺害し、ロシア政府はプロパガンダを流してロシア国内や世界の世論を操作しようとしている。ジャーナリストとしてのわれわれの使命は、世界に向かって事実を発信し、ロシアのプロパガンダに対抗すること。そうすることで戦争の早期終結に貢献できると信じている」と強調した。

ロシアに留まる日本企業に撤退促す

また、日本からウクライナへの多額の寄付や様々な形での支援、ロシアに対する日本政府の経済制裁に深く感謝し、「ロシアへの経済制裁は非常に効果的だ」と指摘した。ただし、多くの日本企業が今なおロシアで事業を続けていることは、「ロシアを支援することになり、問題だ」と述べ、ロシアからの撤退を促した。日本企業の動向に関しては、帝国データバンクが先日、日本企業の「脱ロシア」は主要国の中で最低水準にあり、「撤退が続く欧米との温度差が鮮明になっている」との報告書をまとめている。

シェフチェンコ氏は、「ロシアはこの戦争を長期戦に持ち込もうとしており、ウクライナがロシアに勝利するためには、日本を始めとする多くの国からの継続的な支援が欠かせない。ロシアに対するウクライナの敗北は、全体主義国家に対する民主主義国家の敗北を意味する」と、日本からの更なる支援強化を要望した。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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