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トランプ大統領の4年間を採点 外交・経済への評価は?

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:ロイター/アフロ)

トランプ大統領の任期も残すところあと2日。メディアやツイッターを通じて発する過激な言動ばかりが注目を集めてきた異色の大統領だったが、外交や経済に対する総評はあまり語られていない。「米国を再び偉大な国にする」をスローガンに掲げて大統領になったトランプ氏だが、果たして米国はこの4年間で偉大になったのか。専門家の意見を引用しながら振り返ってみる。

外交面での成果は?

米国の軍事力や経済力は一時に比べると相対的に衰えたとは言え、その一挙手一投足は依然、世界に大きな影響力を及ぼす。それだけに、軍事政策や貿易政策を含めた外交政策の成否は、大統領の評価を決める重要な指標だ。

では、「米国を再び偉大にする」と誓ったトランプ大統領の外交政策はどうだったのか。

「トランプ氏は史上最悪の大統領の1人に数えられるだろう」と語るのは、外交・国際政治問題専門誌「フォーリン・アフェアーズ」を発行する外交問題評議会のリチャード・ハース会長だ。

ハース氏は同評議会の公式サイトへの寄稿文の中で、トランプ外交は中国に対する強気の姿勢やイスラエルとアラブ諸国との国交正常化など評価できる点もあるが、数々の大きな失敗を犯したと述べた。

金総書記との直接会談

具体例は、まず対北朝鮮政策だ。トランプ大統領は2019年6月、金正恩総書記との直接会談を実現させたが、北朝鮮の軍拡路線を止めることはできなかった。また、対イランでは、欧米など6カ国とイランが結んだ核合意からの一方的離脱がイランの核兵器開発能力を向上させた。さらに、中東での米軍のプレゼンスを縮小した結果、ロシアやシリア、イランが同地域での支配力を強めたとしている。

ハース氏は、失敗の原因は「国際協定や国際枠組みからの離脱、欧州やアジアの同盟国に対する批判的な姿勢、独裁的なリーダーとの友好関係、人権問題の軽視というトランプ外交の特徴にある」とし、大統領は「国際社会における米国の影響力を低下させた」とかなり辛口の評価だ。

対中国は?

ハーバード大学ケネディスクールのスティーブン・ウォルト教授も似たような評価だ。雑誌「フォーリンポリシー」に寄せた論文の中で、ウォルト氏は「トランプ大統領就任前の2016年と比べ、米国の敵対勢力は危険度を増し、米国は弱体化し、分断し、同盟国との関係は悪化した」と述べ、トランプ氏の外交実績は「惨憺(さんたん)たるものだ」と評した。

特に対中国外交は、「習近平国家主席に北朝鮮への圧力強化を求めたが拒否され」、「貿易戦争を仕掛けたが、中国を屈服させることに失敗し、逆に自国の企業、消費者、農家に関税引き上げのツケを払わせ」、「中国政府はこの間、香港やウイグル自治区の少数民族を弾圧し、インドと国境沿いで武力衝突を起こし、南シナ海への進出を強め、米国の同盟国であるオーストラリアをいじめている」と失敗例を列挙し、トランプ外交は中国を利しただけと結論づけた。

性格が災い

対北朝鮮外交も、「首脳会談はトランプ大統領の望み通りメディアの注目を集め、政治ショーとしては面白かったが、成果は何もなかった。逆に、北朝鮮は核ミサイル戦力の増強に走った」と酷評している。

ウォルト氏によれば、失敗の要因の1つは「トランプ氏の性格」だ。短気で自分ファーストの性格が災いし、多くの優秀な官僚が国務省を去り、閣僚も何度も入れ替わり、代わりに経験の浅いトランプ氏のイエスマンが外交を仕切って外交知識に乏しいトランプ氏を支えた結果だと説明する。

経済政策は?

経済政策も専門家の評価は低い。トランプ大統領は先の選挙戦で、景気拡大が米史上最長を記録したことや失業率が歴史的低水準となったことを自分の手柄として自慢したが、専門家の見方はやや違う。最後の年は新型コロナという不運に見舞われたが、それを考慮してもなお低評価だ。

野村総合研究所(NRI)の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、NRI公式サイトのコラムの中で、トランプ政権最初の3年間の経済成長率は年率2.5%となり、オバマ前政権の景気拡大期の2.25%をわずかに上回ったが、トランプ氏が約束した3%を上回る高い成長率は実現しなかったと述べた。

双子の赤字が膨らんだ

就任時の4.5%から2019年末に3.5%まで低下した失業率についても、「失業率の低下は、労働の供給側の要因によって引き起こされた面も小さくない。出生率低下とベビーブーマー(団塊世代)の引退が、労働人口の増加を抑える要因となった」と分析し、必ずしも大統領の功績だけではないと見る。

さらに木内氏は、大型減税と軍事費を中心とする財政支出の拡大が、財政赤字と貿易赤字のいわゆる「双子の赤字」を大きく膨らませた点を問題視。そして「コロナショック前のトランプ政権の経済運営は、『双子の赤字』という経済の歪み、金融市場のリスクを高め、また、コロナショックに対する対応力を削いでしまっているという点で、大きな『負の遺産』と言えるのではないか」と結んだ。

新型コロナ対策

内政に関しては、失政はより明白だ。ハース氏は、外交と並ぶトランプ政権の「3大失政」として「新型コロナ対策」と「米国の民主主義に与えたダメージ」を挙げた。

米国は新型コロナによる死者が約40万人、感染者が約2400万人と世界最悪の状況だが、トランプ大統領は、新型コロナ対策を優先すれば景気が悪化して自身の再選の可能性が消えると考え対策の手を緩めたのではないかと、ハース氏は見る。

民主主義へのダメージに関しては、「大統領は、メディアを悪者扱いし、社会の規範を破り、ウソを奨励し、裁判所の権威を損ね、不正がなかったことが証明されている大統領選の結果を拒否するということを続けてきた。その行きつく先が、支持者による連邦議会議事堂の襲撃事件だった」と述べ、トランプ氏を厳しく批判した。

負の遺産を引き継ぐバイデン新大統領

専門家が懸念するのは、トランプ大統領の「負の遺産」がバイデン新大統領の政策遂行に与える影響だ。ハース氏は「トランプ大統領がもたらしたダメージを早期に修復するのは不可能ではないが、難しい」と予測する。

ウォルト氏は「バイデン新大統領と彼のチームにとって悪いニュースは、修復すべきことが山のようにあるということだが、良いニュースは、彼らの前任者よりもよい仕事をすることは、それほど難しいことではないということだ」と、米国の再建に楽観的な見通しを示した。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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