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「安倍前首相も憂慮」世界の懸念を国民に伝える米メディア

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:ロイター/アフロ)

開票・集計の混乱が続く米大統領選をめぐり、主要米メディアが相次いで、海外の反応を報じている。あまり海外のことを気にしない米国のメディアが自国の出来事に対する海外の反応や評価を伝えるのは、珍しい。それだけ今回の大統領選が、世界的な関心事であることを示しているのと同時に、海外の声を伝えることでトランプ・バイデン両陣営に早期の決着を促そうというメディア側の意図もあるのかもしれない。

「同盟国にマイナス」

ワシントン・ポスト紙(電子版)は、「米国の同盟国は幻滅し、困惑している」との見出しで、各国リーダーの声を載せた。

ドイツのマース外相は、選挙結果を受け入れようとしないトランプ大統領を批判し、「礼儀正しい敗者は喜びに満ちた勝者よりも、民主主義が機能するためには重要だ」とドイツのメディアに語ったと、伝えた。

日本に関しては、「トランプ氏の一番の協力者の1人だった安倍晋三前首相でさえも、心配しながら事態を見守っている」とした上で、夕刊フジに掲載された安倍氏の単独インタビューの内容を紹介した。

安倍氏はインタビューで、「米国が大統領選で混乱・混迷することは、同盟国や同志国にとってマイナスといえる。一日も早く決着が付くことが望ましい」などと述べている。

米民主主義の危機

また、イタリアのレンツィ元首相がツイッターに、「(バイデン氏は)アメリカ合衆国の偉大な大統領になるだろう」という気の早い祝福のメッセージを投稿したことも伝えている。

ワシントン・ポスト紙は同時に、海外メディアが社説などで、開票・集計の混乱が米社会の分断や米民主主義の危機を象徴していると指摘していることなどを報じている。

公共ラジオネットワークのNPRは、ドイツのクランプカレンバウアー国防相の、「これは米憲法上の危機につながる状況で、非常に心配だ」との発言を取り上げた。

欧州のほうが厳しい見方

フランスに関しては、ルモンド紙(電子版)が掲載したフランス人ジャーナリストの分析記事を紹介し、投票の仕方や集計方法を州任せにしている米国の選挙制度が混乱の原因だという、中央集権国家のフランスらしい見方を伝えている。

日本に関しては、加藤官房長官の記者会見でのコメントを紹介しているため、「日本は慎重な姿勢を示した」という当たり障りのない反応を伝えるにとどまった。

米メディアの報道内容を見る限り、概して、欧州諸国のほうが米国の現状に批判的で、より率直な物言いになっている。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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