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銃メーカーの株価が好調 トランプ大統領の負けを予言?

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:ロイター/アフロ)

大統領選を控えた米国の株式市場で、銃器メーカーの株価が好調だ。民主党のバイデン候補がトランプ大統領に勝てば、来年以降、銃規制が強化されて購入しづらくなる、あるいは選挙結果に納得のいかない陣営の支持者が暴動を起こして治安が悪化する、といったうわさが流れているだけに、銃器メーカーの株高はバイデン氏の勝利を予言しているとの見方もある。

身元調査件数は過去最高

銃器メーカー最大手スミス&ウェッソンの20日の終値は16.47ドルとなり、9月末の終値に比べて6.1%上昇した。65.51ドルで取引を終えた業界2位のスターム・ルガーは、同7.1%高。この間、指標となるS&P500種株価指数は2.3%の上昇にとどまっており、銃器メーカーの上げ幅が目立っている。

9月末と言えば、29日にトランプ、バイデン両候補による第1回テレビ討論会が開かれるなど、選挙戦がラストスパートに入った時期。また、トランプ大統領の劣勢が盛んに報道され始めたころだ。

米国は人口より国民の所有する銃の数のほうが多いという世界最大の銃大国だが、今年に入り銃の売り上げが一段と伸びている。連邦捜査局(FBI)によると、銃の購入者に実施されるバックグラウンド・チェック(身元調査)の件数は、9月までの9カ月間で2,880万件となり、過去最高だった昨年の年間件数2,840万件をすでに超えている。

バイデン氏勝てば、駆け込み需要

今年前半の売り上げ増の大きな要因は、新型コロナウイルスの感染拡大と人種差別抗議デモの広がりに伴う社会不安の増大だった。銃の主要購買層である白人男性の追加購入だけでなく、これまで銃を買ったことのない女性や黒人などマイノリティの購入が増えたことが、銃市場の拡大を後押しした。

一時は銃の生産が追い付かない状況にもなり、それに伴って、銃メーカーの株価も大きく上昇。その後、株価は8月から9月にかけていったん下落局面を迎えたものの、ここに来て再び、堅調に推移している。

バイデン氏と副大統領候補のハリス氏は共に銃規制強化に賛成だ。バイデン氏はすでに、一度に大量殺傷が可能な銃の販売禁止など、いくつかの具体案を掲げている。このため、11月3日の選挙で2人が勝利すれば、規制強化前の駆け込み需要が増えて、「銃需要が一段と高まり、銃メーカーの株価もさらに上がる可能性がある」と、ロイター通信は報じている。

前回2016年の大統領選の時も、やはり銃規制に積極的な民主党のクリントン候補の優勢が伝えられていたことから、銃の売り上げが伸びた。だが、結局、共和党のトランプ氏が勝ったため、「銃はいつでも買える」という安心感が広がり、売り上げはその後、大きく落ち込んだ。

選挙後の暴動を懸念

今回も事前の予想を覆してトランプ氏が再選される可能性はあるが、銃メーカーの株価を見る限り、少なくとも投資家は、トランプ氏の旗色はかなり悪いと見ているようだ。さらに、今回が前回と違うのは、大統領選と同時に行われる議会選挙で、民主党が上院の多数派を奪還する可能性が比較的高いとされていることだ。下院は民主党が多数派を維持すると見られており、上院も民主党が多数派になれば、銃規制が一気に進む可能性もある。好調な株価は、投資家がそこまで見通しているからかもしれない。

銃規制強化の見通し以外にも、銃メーカーの株価を下支えしている要因がある。一部で懸念されている選挙後の混乱だ。例えば、トランプ氏が負けた場合、トランプ氏がバイデン陣営の不正を訴えるなどして負けを認めようとしない事態が起きることを、多くの民主党関係者やメディアが、だいぶ前から心配している。混乱が、トランプ支持者らによるデモや暴動に発展する可能性も指摘されており、そうなると社会不安が高まって、銃の購入が増えるというシナリオだ。

ただ、ある投資サービス会社のアナリストは、「仮にトランプ氏が再選した場合でも、米社会の分断が続き、新たな抗議デモが次々と起きるだろうから、自衛手段としての銃に対する需要は拡大するだろう」とロイター通信に語っている。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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