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「食の安全をめぐる現状は薬害エイズの構図と同じ」食の安全議連・川田氏

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

私たちや私たちの子どもが毎日食べている食品は本当に安全なのか?こんな疑問や不安を、多くの日本人が抱いている。ネット上で、食の安全に関しデマを含めた様々な情報が飛び交ったり、有機農産物の需要が拡大したりしているのは、消費者の不安の裏返しだ。そうした中、超党派の国会議員でつくる「食の安全・安心を創る議員連盟(食の安全議連)」が昨年末に発足し、もうすぐ1年になる。事務局長を務める川田龍平参議院議員に議連の目的や活動の内容などを聞いた。

目的は食の安全・安心の確保

――食の安全議連はどういった集まりなのか。

「昨年の12月2日に設立総会を開いた。メンバーは現在、衆院議員が26人、参院議員が15人。今のところ野党がほとんどだが、これから与党のメンバーもどんどん増やしていきたい」

――設立の目的は何か。

「一番の目的は、国民のために食の安全や安心を確保することだ。具体的には、農薬や遺伝子組み換え食品、食品添加物、種苗法といった国民の多くが不安に感じているテーマに取り組み、すべての国民が安全な食べ物を安心して食べられる社会を、立法活動を通じて実現していきたい。諸外国と比べて非常に低い日本の食料自給率を高めることも、議連の目標に掲げている。食料の安定的な供給体制を確保することは、食の安全・安心につながるからだ」

――具体的な活動は。

「勉強会を開いて、個々のテーマへの理解を深めるところから始めている。今年初めには、元農林水産大臣で弁護士の山田正彦氏を招いて、勉強会を開いた。山田氏は国会議員を引退後も、国内外の様々な地域を視察して回りながら、食の安全・安心のテーマに精力的に取り組んでおり、議連にも顧問として入ってもらっている。その後は、新型コロナウイルスの影響で十分に活動ができていない状況だが、今後は、状況が許せば、定期的に勉強会を開いたり視察を行ったりして、立法活動につなげていきたい」

26年前の薬害エイズ事件と同じ

――食の安全を取り巻く現状をどう見ているか。

「私自身が体験した26年前の薬害エイズ事件と同じ状況だと見ている。特に、一部の人の利益のためにリスクを隠蔽して多数の国民の命や健康を危険にさらしているという点は、当時とまったく同じ構造だと思っている」

「例えば、薬害エイズ事件では、行政も製薬会社も非加熱製剤のリスクを認識していていながらその事実を明らかにせず、その結果、多くの血友病患者の命が奪われた。生き残った一人として食の安全をめぐる日本の現状を見ると、行政も企業も農薬や食品添加物は安全だと言っているが、本当に安全なのかという疑問がわく」

「一番の問題は、疑わしきは規制するという『予防原則』が食品安全政策の中に入っていないことだ。予防原則がないため、海外では安全性が問題視され使用が禁止されたり規制されたりしている農薬や食品添加物、遺伝子組み換え食品でも、日本は規制が緩く、事実上、野放し状態になっているようなものが多い。EU(欧州連合)などが取り入れている予防原則を日本も導入すべきだ」

「自給率を上げるには、農業がしっかりしていないといけない。だが、現状は、FTA(自由貿易協定)やETA(経済連携協定)が推進された結果、安い農産品が海外からどんどん輸入され、日本の農業が弱体化してしまっている。農家をしっかりと支援し、それによって日本の農業が元気になれば、国民に安全な農産物を安定的に供給できるだけでなく、地方経済の活性化、ひいては日本経済全体のためにもなると考えている」

タネは誰のものか

――植物の品種を開発した者がそれを利用する権利を独占できる種苗法の改正が、有名女優も反対の声を上げたことから、大きな話題になっている。種苗法改正については、食の安全議連はどう考えているのか。

「種苗法は、農薬と並んで、食の安全議連が取り組む最優先テーマだ。山田氏を招いた2月の勉強会でも、種苗法の問題点について話し合った」

「種苗法の問題も農薬の問題も、根っこには、日本政府が米国の言いなりになっているという状況がある。例えば、ここ数年、食品に残留する農薬の許容量、いわゆる残留基準が緩和される事例が目立つが、これは米国の農産物の対日輸出の妨げにならないよう、米国の緩い基準に日本の基準を合わせているからだ」

「種苗法改正案もそうした要素が強い。法案は、育成者の利益保護の側面が強く、日本の地域農業を守る視点が欠けている。種子に関する権利は公的なものであり、自家採取は農民の主権であるという世界的な流れも強まっている中、『タネは誰のものなのか?』という原点に立ち返る必要がある」

学校給食に有機食材を

――川田議員は、学校給食の食材を、農薬も化学肥料も使わずに育てる有機農産物に切り替えることも提唱している。

「学校給食は議連の活動内容には盛り込まれていないが、個人的には、有機農業を日本でも広げることは、食と土壌の安全・安心という観点からも、日本の農業を活性化させるという観点からも、推し進めるべきだと思っている」

「全国の学校給食に有機食材が採用されれば、有機農産物の需要が一気に拡大し、農家も安心して有機農業に切り替えることができるようになる。千葉県いすみ市では、市長が音頭を取って農家に協力を呼びかけ、学校給食用のコメが100%有機米になった」

「現在、全国各地の在来種・ローカルフードを育成し、『給食』をキーワードに地方から日本を復興する法案を作成中だ。こうした国政からの取り組みを、自治体の首長や議員と協力し、国と地方の動きを両輪とすることで、全国に広げていきたい」

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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