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創刊175年、米最古の雑誌が不偏不党の伝統破りバイデン氏支持を表明 反科学のトランプ氏に我慢の限界

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
カリフォルニア州の山火事について州の担当者らと話し合うトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

175年前に創刊され、現存する米国の雑誌の中では最古の歴史を持つ「サイエンティフィック・アメリカン」誌が、175年にわたる「不偏不党」の伝統を破り、11月に行われる米大統領選で、バイデン前副大統領への指示を表明した。ローラ・ヘルムス編集長は、「トランプ大統領の反科学的な姿勢をこれ以上無視できなかった」と述べた。

読者数は全世界で1000万人超

一般向け科学雑誌である同誌は、1845年の創刊。同誌のホームページによると、オンライン版などを含め、読者数は全世界で1000万人以上。

米国では、大統領選が近づくと、多くのメディアや様々な組織、著名人が、どの候補者を支持するか立場を鮮明にする習慣がある。ただ、不偏不党の立場を貫いてきたサイエンティフィック・アメリカンは、これまで一度も支持表明をしたことはなかった。

しかし、同誌は、2020年10月号(オンライン版)で、「サイエンティフィック・アメリカンはジョー・バイデンを支持する」とした社説を掲載した。

新型コロナや温暖化への対策を批判

「サイエンティフィック・アメリカンはその175年の歴史の中で一度も大統領候補を支持したことはなかった。だが、今年は、そうせざるを得なかった。けっして簡単な決断ではなかった」という書き出しで始まる社説は、具体例を列挙しながら、トランプ大統領の反科学的な姿勢や政策を厳しく批判した。

新型コロナウイルスへの対応では、新型コロナ感染を「風邪だ」と言ったり、マスクの効果を否定したりするなど、専門家の助言を無視し続けた結果、世界で最も多い19万人以上の米国人が命を落としたと指摘。

また、気候変動が一因とみられる大規模な山火事が多発し、多くの米国民の命と健康が危険にさられているにもかかわらず、パリ協定から離脱したり、環境保護庁の諮問委員を科学者から産業界の代弁者に置き換えたりするなど、環境政策でも間違いを犯していると批判した。

著名な医学雑誌も

対するバイデン候補に関しては、「科学者の意見を聞き、事実と科学に基づいた政策を提言してきている」などと述べ、大統領選でバイデン氏に投票するよう呼び掛けた。

ヘルムス編集長は、ワシントン・ポスト紙の取材に「私たちは、もちろん政治とは距離を置きたい。しかし、現在の大統領は非常に反科学的で、それを無視することはできなかった」と語った。また、批判はあくまでトランプ氏に対するもので、共和党を批判しているわけではないとも述べている。

トランプ大統領の科学を無視するような姿勢に対しては、世界的な医学雑誌「ランセット」も、「トランプ大統領の新型コロナ対策は一貫性を欠いている」などとして、社説で異例の批判をしている。

馬耳東風のトランプ氏

ただ、自身の再選のため、新型コロナを封じ込めることより景気の維持を優先したり、気候変動問題よりも石油・石炭業界の雇用を重視してきたりしたトランプ大統領には、科学界からの批判も馬耳東風のようだ。

14日に山火事の深刻な被害に見舞われているカリフォルニア州を視察した際も、温暖化対策の必要性を直訴した州の担当者に対し、「いずれ涼しくなるよ、見ていてごらん」などと茶化すように答え、気候変動の影響を否定した。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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